イェール大学助教・成田悠輔さん「効果ほぼなかった」アメリカの新型コロナ病床支援金 驚きの調査結果

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昨今、さまざまなメディアでの出演で注目を浴びるイェール大学 助教 成田悠輔さんは4月23日、日本マイクロソフト株式会社が開催したオンラインイベント「DLLAB Healthcare Day 2022 ~医療データ利活用の課題と挑戦~」のなかで、「社会をデータでデザインする〜機械学習ビジネスから公共政策へ〜」と題した講演を実施した。

成田さんはさまざまな媒体で見かけるものの、実際にどのような研究やビジネスを手がけているのか知る人は少ないかもしれない。実際、本人もTwitterで「しょうもない雑談を垂れ流すと数十万人が見てくれる ちゃんとした論文を出版すると数十人が見てくれる」と不満を述べていたほどだ。

成田さんは「僕自身は社会のあり方を考えるうえで、『まだ見ぬ社会をどうやったら想像できるのか』に興味がある。ただ想像するだけでは意味がないので、デザインする段階まで進めたい。その段階では、とくにデータやアルゴリズムを使い、数学的・科学的に考えていきたい。そういったことをやっている研究者で、かつ事業者だ」と自己紹介する。

「研究者としては、おそらくほとんどの皆さんにとって聞き覚えのない、ニッチな研究領域で研究してきた。『反実仮想』『市場設計』『因果推論』と呼ばれるような、社会科学と統計学と情報科学の接点のような領域で研究している」

「どのようなことができる研究領域かと言うと、『何か新しい事業上・政策上の意思決定をしたい』と考えているとき、どのような意思決定をするべきなのかを『今、現実にどのような制度や意思決定があるか』から一旦離れて、できるだけゼロベースで設計したい。そして、ゼロベースで設計した新しい制度導入や意思決定をしたとき、導入後の新しい世界で何が起きるのか予測したい。そういう問題に答えてくれるようなタイプの技術開発をしてきた」

成田さんは以前までは、アメリカを中心に活動してきたが、近年ではソニーグループ株式会社や株式会社サイバーエージェント、株式会社ZOZOテクノロジーズの研究開発組織「ZOZO研究所青山」、埼玉県戸田市など、日本の企業や自治体とも共同の取り組みを実施している。

たとえば、株式会社ZOZOテクノロジーズの研究開発組織「ZOZO研究所青山」との共同研究では、Eコマースにおける機械学習システムを改造することで、クリック率が40〜60%改善したという。

このようなAI・アルゴリズムなどの研究結果はWeb産業やゲーム産業を中心に導入されてきた。しかし、成田さんは「同じようなタイプの技術が徐々にそれ以外の領域、とくに公共的な領域に流れ出してきたのが現状だと思う。医療はその本丸の1つだ」と指摘する。

医療以外でのAIを活用する事例としては、教育における教育カリキュラムの個別最適化、労働市場における企業と労働者のマッチングが挙げられる。海外では司法における裁判官の意思決定の補助、警察におけるパトロール地域の決定などの事例もある。

アメリカの新型コロナ病床支援金「効果はほぼなかった」

成田さんは「僕は医療やヘルスケアに関してはずぶの素人で、あまり本格的な研究はできていない。ただ、最近、医療分野のアルゴリズム的な政策における意思決定の効果検証をした」と前置きし、アメリカにおける新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の病床支援金に関する研究結果について言及した。Twitterでも成田さんによる同研究結果に関するツイートは1500リツイート以上、7000いいね以上を集めている。


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日本では病床補償金は数兆円、アメリカでは病床支援金は数十兆円規模におよぶ。日本でも補助金の実効性が疑問視されているが、成田さんが実施したのはアメリカのデータを用いた研究だ。アメリカでの巨額の支援金は新型コロナの病床使用数にどのような効果を与えたのか? 成田さんは「一言で言うと、効果はほぼなかったらしいということがわかった」と、驚きの研究結果を明かした。

アメリカでは「高齢者・貧困層向け公的保険患者の割合が20.2%以上」「未払い医療費が一病床あたり年間2万5000ドル以上」などの条件を満たす病院に対して、病床支援金を配給した。恵まれない人々に低い利益率で医療を提供する病院を支援することを意図したものだ。

成田さんは「非常に透明で、ある意味アルゴリズム的なルールに従って支援金を配給した。AIまではいかないが、手作りのルールに従って政策的な意思決定をした1つの例なのかなと思う」と前置きし、支援対象と支援対象外の病院を表した図を持ち出した。

「利益率や未払い医療費の額などの同じような属性を持っている病院のなかで、『ギリギリ支援金を受け取れた病院』と『ギリギリ支援金を受け取れなかった』病院がある。『この2つのタイプの病院を比べてみて、その間に違いが生まれていたら、支援金の効果だと言えるのではないか』という発想にもとづく研究だ」

成田さんは「もちろん、支援金を流せば病院の銀行口座は潤う。しかし、『病院が潤った銀行口座を使い、コロナ病床を増やしたり、患者を受け入れ数を増やしたりする』という実質的な医療活動の改善が起きたのかを調べると、どうやらほとんど効果がなかったらしい」と結論づけた。

「ある意味で、人あるいは政府が作った意思決定アルゴリズムの失敗だったと言えるのではないか。支給金支給ルールをもっとうまくデザインできるはずだったということになると思う。実際、政策が始まるあたりから、医療関係者やメディアからそのような懸念は出ていた」

「このような経緯を踏まえると、日本でも病床補償金の独自の効果検証がされるべきなのではないか。日本でも数兆円のお金が病床補償金として病院に流し込まれた。これが『病床確保や患者受け入れを進めるような効果があったのか』をデータにもとづいて検証する必要がある」

「さらに、もう少し抽象的なレベルで言えば、ある種の原始的なアルゴリズムにもとづく医療政策あるいは公共政策がさまざまな領域で用いられてきている。それを『どのようにより効果があるようにルール設計していくのか』という問題がある。それがAIと医療政策のもう1つの重要な論点だと思う」

※一部タイトルと本文を修正しました。