東日本大震災を経て、災害の犠牲者を減らすためにテクノロジーはどう進化しているか

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2011年3月11日に発生した東日本大震災は甚大な被害をもたらし、現在もなお被害の爪痕は残り、苦しんでいる人々がいる。

その傍らで、テクノロジーは日々確実に進化してきた。過去防ぎようがなかった災害や、より迅速な対応が必要な現場も、AI、IoT、ロボットなどを駆使することで変わろうとしている。

テクノロジーは、いかにして自然災害、それにより引き起こされる二次災害を防げるのか。最新の研究開発、事例を踏まえながら、その可能性を探っていく。

東日本大震災から生まれた「JESEA」が目指す地震予測の未来

自然災害という文脈で、一番に期待されるのが「予測」だろう。東日本大震災において、もう数分、数十秒はやく予測できれば、死者15,897人、行方不明者2,534人(2018年12月10日時点)の数は減らせたはずだ。

地震科学探査機構(JESEA)設立の背景には、甚大な被害をもたらした東日本大震災がある。JESEAの共同創業者であり、「MEGA地震予測」の解析を行う東京大学名誉教授 村井俊治氏は、設立に至った経緯を次のように語る。

――村井 俊治氏
「私は東京大学を60歳で退官した後、『GPSデータと地震発生との相関関係』の研究を始めました。それから10年近くが経過した頃、2010年秋から2011年初めにかけて、これまで見たことのない異常なデータ(地殻変動)を目にしました。『これは大きな地震が来るかもしれない』と思いましたが、当時の私には、発信する術がありませんでした。

結果、未曾有の大災害・東日本大震災が発生し、多くの尊い命が失われました。科学者として、私は悔悟の念に苛まれました。それを機に、私は“残りの人生を地震予測に懸ける”ことを決意し、JESEA設立に至りました」

国土地理院が全国に約1,300点設置している「電子基準点」では、人工衛星から発射される信号を使って地表の変動を測定している。「MEGA地震予測」は、その情報を利用・解析することで、地震の前兆(地表の異常変動)を捉え、地震を予測する。

地震は、地球を構成しているプレートが地下の深いところで互いに変動する過程で起きる。JESEAは、「大地震の前には、前兆現象が発生する傾向にある」とし、次の5つの観点から、細やかにデータを収集・検証することで、数週間後、数ヶ月後の地震を予測する。

週間異常変動
短期的な異常変動を分析

隆起・沈降
長期的な高さの変動の傾向を分析

水平ベクトル異常変動
水平方向の変動を矢線で示し分析

累積変位
長期的に累積する地表の歪み

東西、北南、水平異常変動
水平方向成分の異常変動を分析

一方、100%の精度での地震予測はまだまだ難しい。JESEAも100%の精度では予測ができていないのに加え、数日前の予測はまだできない。しかし、精度向上への糸口は掴んでいるはずだ。NTTドコモなどの協力も得ることで、その精度は確実に向上していくだろう。

災害の予測、分析、状況把握すべてが進化する

東日本大震災の被害は、地震によって引き起こされた二次災害である津波、火災、地割れによるものも多い。地震さえ予測できれば良い、ということでもない。地震後の気象によっても、行動、対応策を変える必要があり、それにより生存確率も左右されるだろう。

2019年2月5日、日本気象協会とSpecteeは、映像の「AI解析」による道路管理支援技術を共同開発すると発表した。SNSや天気カメラ映像のAI解析を通じ、防災情報のリアルタイム提供を目指すという。

この技術が開発されれば、人の目による判断に頼らざるを得なかった道路状態などを、映像をAI解析することで瞬時に把握できる。

  • 雨雪判別
  • 積雪状態
  • 路面状態
  • 吹雪発生
  • 視程

などの情報を取得できれば、二次災害の防止、救助活動の迅速化、なにより被災者への重要な情報資源となり得るだろう。

また、エコモットは、現地の風速データを計測、集計し、気象情報を加えた、AIによるピンポイント気象予測を実現した。復興作業にはクレーン作業や高所作業がつきものだ。IoT技術を応用し、風速計のデータと1kmメッシュの広範囲な気象観測データを機械学習させることで、高精度かつピンポイントの天気予測が可能だという。

海外の巨人も動き出している。IBMは2018年5月、自然災害に対する課題解決のためのプログラム「Call for Code Global Initiative」を発表。「自然災害を防ぎ、自然災害に対応し、自然災害から回復する」といったテーマのもと、世界中のエンジニア、ビジネスパーソンが参加する自然災害アプリ開発コンペティションなどを開いている。5年間にわたり、3,000万ドルの投資も行っていくという。

我々にできることは何か

現在、地震をはじめとした自然災害に向けてさまざまな研究開発、サービス、プロジェクトが動き出している。

3,701人。この数字は、東日本大震災における震災関連死の死者数を示している。災害による直接の被害ではない死者数が3000人以上ということだ。

災害関連死

災害関連死とは、災害による火災・水難・家屋の倒壊など災害の直接的な被害による死ではなく、避難生活の疲労や環境の悪化などによって、病気にかかったり、持病が悪化したりするなどして死亡すること。

避難生活を続けている人の、うつやPTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症は容易に想像できる。これに対応する技術としては、チャットボットによるケアが対応策として考えられる。

メンタルヘルスの改善を補助するチャットボットWoebotは、自然言語処理を活用し、ユーザーとの会話を行う。ボットはCBT(認知行動療法)データに基づいてユーザーの感情の状態(機嫌・ムード)を読み取り判断し、会話するという。実際、2週間にわたってWoebotを使用したグループは、うつ症状が改善したとの結果が出た。スタンフォード大学監修のもと臨床実験が行われ、成果は正式に論文として発表されている。

昨年は、世界初となる「AIを活用した災害時のSNS情報分析のための訓練ガイドライン」が策定されたことも注目を集めた。東日本大震災当日、Twitter投稿は約3.300万件に上ったという。それらの投稿内容を分析することで、災害時の状況判断や活動の優先度判定などを可能にする「SNS 情報分析システム」も開発され、実用化もされている。

限られた人数の職員が、膨大な投稿の中から重要な情報を選び出すのは現実的ではない。自然言語処理を活用した「SNS 情報分析システム」を活用することで、より迅速に、より正確な情報の伝達が可能になる。“正確な情報”が“迅速に”届けられるだけでも、救える命は数知れないだろう。

テクノロジーによって救える命が増える国、世界へ

自然災害における最先端テクノロジーの取り組みは、内閣府を中心とした政府の中央防災会議でも議論されている。この会議は、災害時の国、地方自治体、民間企業による情報共有の仕組みである「災害情報ハブ」について、2018年度以降の重点テーマとして宇宙技術やAI(人工知能)の活用などを目指すとした。

テクノロジーは企業の利益を向上したり、生活を便利にしたりしていくだけではない。テクノロジーによって救える命の数は着実に増えており、それは今後さらに加速していくだろう。