ドコモ、清水建設、日本郵政が出資──エッジAI専門企業「EDGEMATRIX」設立発表記者会見レポート

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2019年8月30日、東京・ベルサール六本木グランドコンファレンスセンターにて、エッジAI専門企業「EDGEMATRIX」の設立発表記者会見が行われた。

同社は同年7月1日に米国Cloudian Holdings Inc.及び同日本法人のクラウディアン株式会社からAI事業がスピンオフして設立。ドコモ、清水建設、日本郵政の3社から第三者割当増資を受け、各社が取り組むAI事業とのシナジーも期待される。

本稿では同社取締役による会社説明を中心に、各出資企業代表者によるコメントを紹介する。

「AIを使いやすくする仕組みをつくる」EDGEMATRIXの設立背景

冒頭、EDGEMATRIX株式会社 共同創業者 兼 代表取締役副社長の本橋信也氏が事業方針を説明。

同社では、

  • エッジAIデバイス事業
  • エッジAIプラットフォーム事業
  • エッジAIソリューション事業

を主軸とし、AI利用における課題を解決する仕組みを提供すると述べた。

――本橋
「社名には、データの生成現場(エッジ)においてAIを実用化、統合管理し、収益化する基盤(マトリクス)を作るという意味を込めています。プリズムをモチーフにしたロゴは4K・8K時代の映像処理を表しています」

本橋氏は事業立ち上げのきっかけとして、2016年に行った実証実験を話題に挙げた。

――本橋氏
「首都高を走る車種を判別して屋外のサイネージに車種=顧客層に応じた広告を流す実験を行いました。

首都高に向けて設置したカメラで道路の模様を撮影し、その画像をAIで判別していましたが、車種を見分けられるレベルの情報を得るためには4Kレベルの画像を処理する必要がありました。

大容量なデータがネットワークやクラウドに集中すると通信面で大きな負荷がかかり、利便性が大幅に低下してしまう。この状況を打破するため、エッジでAI処理を行って解決するソリューションを作ろうと考えました。

実証実験の現場ではエンジニアが機器をつきっきりでメンテナンスしますが、実運用の現場において同様の体制をとることは現実的ではありません。現場におけるAI機器の設置取り付けや運用を簡単に行える仕組みづくりも重要と考え、事業の主軸に盛り込みました。

EDGEMATRIXはAI開発専業の会社ではなく、AIを使いやすくするための仕組みをつくる会社です。サードパーティーの開発したAIアプリケーションを販売する『マーケットプレイス』を設けるなど、AI技術そのものの利用促進を図る役目を担います

EDGEMATRIXが取り組む3事業

続いてEDGEMATRIX社 共同創業者 兼 代表取締役社長の太田洋氏が、同社が展開する3事業の具体的な中身を説明した。

エッジAIデバイス事業

同社の「エッジAIデバイス事業」では、カメラの映像をAIが分析し、監視や品質管理における“判定役”を担う「Inteligent Video Analytics(IVA)」のためのハードウェア「Edge AI Box」を開発、販売する。

Edge AI Boxでは、カメラから取り込んだ非圧縮の高精細映像をエッジAIで分析処理する。非圧縮状態のデータを用いて精度の高い分析が行えるだけでなく、分析結果に応じた機器のリアルタイム制御も可能だ。

分析結果のデータのみをクラウドへ送るためデータ通信量も大幅に削減できるほか、人物映像などセンシティブなデータがクラウド上に残らず、セキュリティリスクの軽減にもつながる。

製品ラインナップは、大規模施設での利用を想定した高性能モデルの「Advance」、屋外やプラントなどタフな環境での利用を想定した「Standard」、小型軽量・普及型モデルを志向する「Light」の3種類を予定しているという。

エッジAIプラットフォーム事業

「エッジAIプラットフォーム事業」は今回の3事業でも出色の事業だ。エッジ機器側でのデータ分析や集計結果の可視化といった汎用的用途に使用可能なAIアプリケーション群をあつめたマーケットプレイスを公開する。

カスタマーはスマートフォンアプリのような感覚で手軽にAIソフトウェアを導入することができ、サードパーティーは自社で開発したソフトウェアをマーケットプレイスに登録、販売することで課金収入を得ることができる。

マーケットプレイスでは、デバイス管理やAIソフトウェアのアップデートのほか、サードパーティー向けにサービス料金の回収代行を実施。

エッジ機器の設置場所を地図上にマッピングして表示する「マップビュー」機能や、機器のトラブル発生時にエンジニアが直接ログを確認できる「エッジビュー」機能など、メンテナンス支援サービスも盛り込まれる。

プラットフォーム事業については、2020年半ばを目処に商用サービスをスタートを予定しているという。

エッジAIソリューション事業

同社の「エッジAIソリューション事業」では、顧客に向けてカスタマイズしたAIアプリケーションを開発・提供する。、AI導入における効率のよい運用体制の構築や、前述のプラットフォーム事業を活かした高効率なソリューションといったAIインテグレーション業務にも力を入れる。

現在、出資企業のひとつである清水建設と共同で、IoTによる建物管理とエッジAIソリューションを組み合わせた「スマートビルディング」の実現に取り組んでいるという。

出資企業代表者のコメント

記者会見の締めくくり、EDGEMATRIX社に出資を行った企業の代表者が同社の事業に向けた期待をコメントした。

ドコモ「協業でエッジAIの世界を切り開きたい」

ドコモからは、同社執行役員・IoTビジネス部長の谷 直樹氏がコメントした。

――谷氏
「ドコモでは映像を使ったIoTソリューションに数年前から取り組んでおり、そのなかでエッジを使った処理の可能性を感じていました。

2018年7月より、EDGEMATRIX社の母体であるクラウディアン社とともに、人物認識AIを活用したエッジIoTソリューションの共同開発に取り組んでいます。

エッジとクラウドの協調的な動作を基調とするエッジAI技術は、これからの5G時代においても非常に価値の高い存在です。パートナーとのコラボレーションによる新しい価値の創造や新たな産業創出への貢献、パートナーへの商流拡大への貢献という面で、協業を通じて新たなエッジAIソリューションの世界を切り開きたいと考えています。

AIにおける複雑な作業をプラットフォーム化できれば、顧客にとってAIがより身近で使いやすいものになり、人手不足の解決にも役立っていくでしょう。

同社のプラットフォーム事業は、AIを幅広く流通させるためのエコシステムとして大きな期待を寄せています。マーケットプレイスを通じたAIアプリケーションの販売を通じて、パートナーのビジネス創出そのものに貢献していきたいです」

清水建設「隠れたニーズを発掘し、エッジAI市場を拡大したい」

清水建設からは、同社執行役員・エンジニアリング事業本部長の関口 猛氏がコメントした。

――関口氏
「2017年、(母体・出資会社である)クラウディアン社とともに工場や物流施設におけるAI導入プロジェクトに携わり、安心・安全・生産性の向上、省人化に向けた取り組みを行ってきました。

建物を建てるだけではなく、ソリューションで付加価値の高い施設、進化できる施設の提案ができないかと考えていたなか、(EDGEMATRIX社の)太田社長との出会いがあり、物流施設の火災検知や構内の車両誘導システム、工場の製品検査などの分野におけるAI導入の実績をともに積みあげてきました。今回(出資を通じて)一緒になることで、新たなシナジーが作れるのではないかと考えています。

オフィスや商業施設など、いろんな用途の建物においてAIは隠れたニーズがあります。施設管理や建物インフラとしてのIoTプラットフォームとしての標準形を作りあげるとともに、個別のニーズに答えられるソリューションを提供し、エッジAI市場を拡大させていきたいです」

前身企業の時代より豊富な実績を持つパートナーとの協業による強みを強調する形となった、今回の設立記者会見。

海外でも同様のソリューションを提供する企業が多数生まれており、国内におけるシェア見込みは未知数といったところだが、出資企業各社の既存顧客へアプローチが可能という点では大きなアドバンテージを抱えているともいえる。

今後の同社の動向に注目したい。