昨春、政府は2025年までにAI人材を年間25万人育成するための教育改革を整備することを発表した。この教育改革は小学校から始まり、早い段階からAIリテラシーを身に着けることを目的としている。また、2020年からは小学校でのプログラミング教育が始まり、若年層にいかに早くITスキルを獲得させるかが今後の新たな教育価値につながると予想される。
参考:AI戦略 2019 ~人・産業・地域・政府全てにAI~(外部リンク)
AI人材への需要が高まる中、2019年11月20日、21日に高校生に向けたAIの活用方法を学んでもらうAIアイディアソンが実施された。
このイベントを開催したグリッドは、誰でも簡単にAIモデルが開発できるプラットフォーム「ReNom」や、インフラを中心としたAIによる課題解決に向けたサービスを提供しているAIベンチャー企業だ。
同社は昨今のAI人材不足問題に伴い、若年層に向けたAI人材教育にも力を入れている。これまで、大学生向けの国内外でのハッカソンイベントを開催したり、才能があれば年齢を問わずに個別教育も行ってきた。
これから始まるAI人材教育の現場から、教育業界の未来はどうなっていくのかを紐解いていこう。
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プロジェクト発足の経緯「日本のAI分野の遅れに歯止めをかける第一歩になる」
今回、高校生に向けたAIアイディアソンを開催した背景として、代表取締役の中村 秀樹氏は日本の若者のAI分野に対する意識の遅れを感じていることを挙げた。
「アメリカや中国などAI先進国はもちろんのこと、他の国に目を向けた時に日本の若者のAI分野に対する意識の遅れをここ数年痛感しています。
世界では若いうちに、AIスキルやマインドを学び、スキルアップして社会に還元している人が増えている中、日本はまだまだ遅れを取っているように思います。
大学では研究室やAIに特化した学科が開設されていますが、もっと若い中高生への教育はまだまだです。より早い段階からテクノロジーに触れ、興味を持つことが大事だと思っています。若い方がSNSやアプリに夢中になるように、もっとテクノロジーとの距離を近づけることでいろんなアイディアが生れる可能性があります。
今回のアイディアソン合宿も、『自分の好きな物とテクノロジーを使ってワクワクを体感してもらいたい』という思いで開催しました。これからの時代、何をするにおいても自分の夢を叶えるためにテクノロジーが必要になるので、その第一歩にできたらと思っております。」
1泊2日のアイディアソン。AI知識のインプットから、アイディアのビジネス実践まで考える
アイディアソンの対象となったのは、渋谷区にあるルークス高等学院。同校は若年層に向けた AI人材教育に力を入れていくべく、先進的な教育を取り入れており、今回のアイディアソンもカリキュラムとして実施することとなった。
アイディアソンは、1泊2日の合宿形式。AI概論から始まり、グリッドが提供する AI プラットフォーム「ReNom」の活用方法・事例を学ぶ。その後、ルークス高等学院の生徒の通学圏である、渋谷が抱える課題を生徒たちで洗い出し、課題に対してAIを活用するとどのような解決策が見出せるのかアイディアを練ってもらう。
アイディアソンの流れは以下の通り。
2日目
中村氏によるAIテクノロジー特別講座
1日目の午前中は、中村氏によるAIテクノロジー特別講座が開講された。AIに関する基本的な知識のインプットをしながら、近くの生徒同士で適宜話し合う。ディスカッションの中では、10年後に残る職業、なくなる職業、新しく生まれる職業について意見を交わす場面もあった。講義のスライド
など
講座前はAIの仕組みについて、難しいと感じた生徒も多かったが、実際に授業が進むにつれて、少しずつ理解が深まっていく様子が見て取れた。
アイディアを形にしてビジネス実践への活用までのロードマップを描く
午前中のインプットをもとに、午後は実際に渋谷区の課題を考え、解決策を4人ほどのチームで話し合いプレゼンを行なう。2日目のプレゼンに向け、午後〜夜にかけ、合間に課題分析方法ワークやビジネス知識インプットを挟みつつ、合計3回のプレゼンを行うハードスケジュールだ。
具体的な流れは以下の通り。
※1 課題分析方法ワーク内容
(インプットテーマ: 課題解決とは何か? / 分析の方法論 / イノベーションとは何か? /アウトプットテーマ:渋谷の課題を考えよう)
※2 ビジネス系知識のインプット内容
(インプットテーマ:市場規模 / ブランディング / ペルソナ分析 / KPI の計画)
「新規事業をいかに実現するか」というビジネス的側面、「AIにはどのようなポテンシャルがあるのか」というAI分野の知識と可能性、の2つについて理解を深めていく。
イベントを通して以下のようなアイディアが生徒たちから出た。「課題の解決」を考える上で、ビジネスプランやエンターテインメントより、社会的課題を重視した企画が多く出たことも印象的だった。
数あるアイディアの中で優秀賞を獲得したのは、横断歩道でホログラムを活用し交通事故を防ぐ「order HOLO」だ。
「自分の実現したいことのためにテクノロジーを使って欲しい」若者に伝えたいAIテクノロジーのこれから
今回のイベントを通して、ルークス高等学院の生徒たちや、これからAI教育を受ける子どもたちに対して、中村氏は「自分の実現したいことのための1つの手段として、テクノロジーをどんどん使ってほしい」と語る。
「好きなことを実現するためにテクノロジーを活用する若者が増えて、ワクワクするような世の中を作っていってほしいと思います。
AIを身近なツールとして捉え、同世代がどんどん刺激を受け、自分もやってみようという人たちが1人でも増えると嬉しいです。」
また、AI人材教育の課題について中村氏は、AIテクノロジーがやりたいことを実現するためのツールとして浸透していないことを挙げた。
「AIテクノロジーは文系、理系分け隔てなく人々が好きなこと、やりたいことを実現するためのツールです。しかしその教育体制はまだ浸透していません。また、現状ではAI技術を教える人が少ないこと、教える人もどのように教えたらよいのかが分からないことが課題にあります。これらの課題を解決するためにもテクノロジーを浸透させる必要があり、その第一歩になれたらと思っております。」
世界から遅れをとっている日本のAI人材教育のため、いち早くAI人材教育に取り組んでいるグリッド。今回のイベントも、これからの日本を担う若者がAI分野に興味を持つ第一歩となったことは間違いない。今後もAI人材教育のフロントランナーであるグリッドの活動に注目したい。