教育・人材育成分野に特化した国内外の先進事例、多様な教育イノベーションの体感を目的としたEdvation x Summit 2019が2019年11月5日、紀尾井町カンファレンスで催された。
本稿ではパネルディスカッション「AIは教育に何をもたらすのか?AIテクノロジーのいまとこれから」(11月5日開催)のセッション内容をレポートする。
今回のセッションでは、教育×AIに関する各トピックについて4名の登壇者が意見を交わし合った。登壇者は以下のとおり。
床鍋佳枝氏
株式会社 Cogent Labs
手書き文字AIデータ化サービス「Tegaki」を提供
原田英典氏
UIPath 株式会社 Head of Product Marketing
業務自動化サービス「UIPath」を提供
福原正大氏
Institution for a Global Society(igs)CEO/Founder
生徒個人の資質を分析・可視化する「Ai GROW」、人事向けAI適性検査ツール「GROW360」を提供
モデレーター
宮澤瑞希氏
アイード株式会社 代表取締役CEO
多次元音声評価AI「CHIVOX」を提供
セッションはAIを使った教育課題の解決、AI時代に必要な教育とは何か、の2部構成。1部では現役教師の声から教育現場の課題を取り上げ、議論のテーマとして選ばれたのは「英語教育改革最前線」「仕事多すぎ問題」の2つだ。
英語教育の課題は、AI活用のためのデータ集めと業務自動化
1つ目のテーマ「英語教育改革最前線」では、「大学受験以来英語に触れていない教員が、小学校での英語必修化に対応できるのか」という教師の声が紹介された。
写真左から、床鍋氏、原田氏、福原氏、宮澤氏
英語や国語といった教科では、AI技術のひとつ「自然言語処理」を用いる。ライティング文例の提案やスピーキングの補助など、現在のAIができることは少なくないものの、AIを使うためのデータ集めが難しい、と語るのは福原氏だ。
「自然言語処理を使うには、「子供が英語学習でつまづきがちなミス」を把握している膨大な辞書(コーパス)が必要です。以前私がこの領域に参入したときは、こうしたミスがデータ化されていなかったため、どんなに性能の良いAIを乗せようとしても機能しなかったのです。
国が事業として、民間企業と協力しあってコーパス作りを進められるといい」
議論では教育現場へのAI導入のボトルネックにも触れ、
- ツールの操作が難しい(もしくは、利用ハードルの高さを感じる)
- 属人的な部分が多く業務の言語化ができていない
という2つの問題が挙げられた。
後者について原田氏は「学校の先生ではなく専門家が自動化を進めるのが良い」として、三井住友銀行のロボット人事課を例に挙げた。
ロボット人事課は、「マニュアル化された作業を自動化する」業務自動化の専門家集団が、社員への業務に関するヒアリング結果から、自動化するためのロボットを制作し配信するという。
関連記事:IT企業の150人が競う、三井住友銀のRPA大作戦(外部リンク)
学校でも同様な仕組みが作れたら、AIやボットによる業務自動化が進むが、そのためには学校側が技術にキャッチアップしていく必要がありそう、とのことだ。
「日々の英語教育は「できる人がやればいい」という問題に陥りがちです。「英語教育ができない」という先生に対して、いかにAIがサポートできるのか、という側面から解決策を考えていく必要があると思っています」
人間よりAIが得意なことは「書き順のテスト」「ネットいじめの発見」など
もう1つのテーマは「仕事多すぎ問題」と題し、授業準備や家庭向けの資料作成などの事務業務で児童生徒と接する時間が少ない、という教師の声が紹介された。
「教育現場では、(教育の)足し算はできるけど、引き算はできないという問題をよく見かけました。生徒のために良いと思ってさまざまなカリキュラムやツールを用意するものの、結果として業務量が増えて忙しくなってしまう。
導入した施策が、本当に生徒の能力を伸ばす効果があるのかを測定しビッグデータ化して、教育の洗い出しをする必要があると思います」
逆に「人間よりAIが得意な領域もある」として、登壇者からは「画像認識技術を使って、書き上がった文字から書き順を指導する」(原田氏)「先生の目から隠れがちなLINEいじめなどは、ネットワーク情報からいじめの発生場所を探せる」(福原氏)などの意見も上がった。
「弊社の文章分析サービス「Kaidoku」では、文章がネガティブか、ポジティブなものかを判断できます。書きこまれた内容のほか、回数なども加味し、生徒個人の心の動きを知ることもできるでしょう」
AI時代に必要な教育は、徹底した個別最適化
「AI時代に求められる教育とは」の議論では「人と違う、ということを徹底的に肯定し、個性を認めるという方向になると思います」(福原氏)という意見があがった。
「従来の社会では繋がれなかった人たちと繋がり、日常生活では得られがたい成功経験ができるのがAI社会の良い点だと思います。
個人の嗜好や個性を見出し、各人に合ったコミュニティを紹介するなど、個人の嗜好、強さを生かした教育や学習ができる未来に期待したいです」
テクノロジーを活用した新たな教育の仕組みに期待
AI導入はまさにこれから、という教育業界。聴講者のモチベーションも高く、登壇者もまだまだ話足りない、という風に感じられた。当セッションのモデレーターを務めた宮澤氏に、今回のディスカッションに対するコメントをいただいたので最後に掲載したい。
ところで数十年後にはAIやロボット(以下、テクノロジー)によって職業の半分以上が代替されるという予測があるが、一方で失われる職業以上にそれらによって創出される職業もあると考えられ、どんなテクノロジーを何にどう活用していくのかを思考する能力が、個人の労働条件/環境を左右する未来が訪れると考えられている。
その中でセッションでは、テクノロジーによるアプリケーションの社会実装が進む未来に必要な教育として、「主体的に問題を発見し解決していく能力」の重要性が挙げられた。これらのモチベーションの構成要素にある「知的好奇心」や「興味関心」といった「教養」の涵養というのは、我が国では元来より重要視されてきた教育であり、AI時代を見据え登場する「新たな教育」と共に引き続き重要ではなかろうか。