Ledge.aiを運営する株式会社レッジは、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社、ソニービズネットワークス株式会社の協力のもと、画像判別ソリューション「ELFE」を用いた新しいアイデアを募集するコンテスト「エルコン」を2022年10月11日(火)から2022年11月8日(火)の期間で開催した。
エルコンでは、身の回りの生活や仕事で感じる「もしも○○を見分けられるAIがあったら」をテーマに、ELFEでどのようなことができるのか、こんなことができたらという想像を膨らませ、ELFEの実用可能性を広げるアイデアを募集するコンテスト。「エルコン」を通して多くの方々にELFEを知ってもらうと同時に、世にある課題のタネを発見することが本企画の目的だ。
今回は、一般参加者向けのアイデアのみ募集する「アイデア部門」と、事業会社向けの実際にPoCにチャレンジする「PoC部門」を同時開催。本記事ではアイデア部門で入賞した作品を振り返る。
メロンの食べ頃、船体の汚れ具合……多様なアイデアが集う
アイデア部門のエントリー数は169名を数え、アイデアのアウトプット総数は127件、複数アイデアの応募者も多く見られた。その中で、見事賞を勝ち取ったのは以下の3名のアイデアだ。
山崎建 『信号機の色を見分けられるAI』
・アイデア賞:発想が新しいまたは意表をついており、実現が楽しみに感じられるアイデア
小野伸哉 『マスクメロンの食べ頃を見分けられるAI』
・ビジネス賞:発想の新規性があり社会的に影響度が大きく、現在の技術で実現可能なアイデア
松岡和彦 『船舶の船体の汚れ具合を判定するAI』
惜しくも賞を逃したものの、「初恋の人に似た人を探すAI」「忘れ物を探すAI」といったユニークなアイデアも多く見られた。
優秀賞に輝いたのは「信号機の色を見分けるAI」
社会的に影響度が大きく、現在の技術で実現可能なアイデアとして優秀賞を勝ち取ったのは筑波大学に所属する山崎建氏の「信号機の色を見分けられるAI」のアイデア。昨年、河野大臣が視覚障害を持つ方々向けの歩行サポートシステムを体験するなど、社会的にもAIによるサポートが注目されている領域だ。
視覚障害をもつ方々が遭遇する事故で件数がもっとも多いのが自動車との衝突だ。横断歩道を渡る際、視覚障害を持つ方々は信号機の判断は主に「音」を頼りにしているが、全国の音響式信号機の設置率はなんと1割程度だという。そのため、信号が音響式ではない場合、周囲の人や車の音により判断を迫られるが、不確定要素が多く危険が伴う。
そこで山崎氏がたどり着いたのが信号機の色を見分けるAIというアイデアだ。白杖に信号の色を判別するエッジAIカメラを搭載することで、ユーザーは横断歩道に直面した際にカメラのボタンを押して撮影。AIで画像から信号機の色を判別し、フィードバックする。エッジAIのため、周囲の歩行者のプライバシーも保護できる。交通事故の防止につながり、視覚障害をもつ方々の外出への不安感を減らすことができる可能性のあるアイデアだ。
ソニービズネットワークス株式会社でAI事業推進の課長を務める高橋伸一郎氏は、本アイデアが優秀賞を勝ち取った理由をこう話す。
- ーー高橋
「まず、音響式信号機の設置率が全国で1割程度という事実を初めて知り、大きな衝撃を受けました。このアイデアが実現すれば全国で不幸な事故を減らすことができる可能性があり、社会的影響や意義が大きいと評価させていただきました。また、実現可能性という面でも、信号機の色や形状は全国で統一されているため、精度が高いAIモデルができる可能性も高いと感じ、今回優秀賞に選定させていただいた次第です」
「マスクメロンの食べ頃を見分けられるAI」が アイデア賞受賞
発想が新しいまたは意表をついており、実現が楽しみに感じられるアイデアとしてアイデア賞を受賞したのは、映像関係のお仕事をされている小野伸哉氏による「マスクメロンの食べ頃を見分けられるAI」というアイデアだ。
定年を迎えて改めてこうしたコンテストへチャレンジしたという小野氏が思いついたのは、夏に静岡の道の駅で買って食べたというマスクメロンだった。マスクメロンは高額であり、家庭で追熟させるには手間がかかる。購入すると食べごろの目安が書いてあるタグがついているものの、小野氏いわく「毎日にらめっこして確認する必要がある」という。そのため、小野氏は悪くさせたらいけないといつも少し早めに切ってしまい、身が青い硬めの果肉を食べていたという。
AIを用いて、スマホで写真を撮るだけで「硬め」「普通」「柔らかめ」といった食べ頃が認識できれば、もっと気軽にマスクメロンを食べられる可能性がある。
ソニービズネットワークス株式会社でELFEの営業を務める守澤康之氏は、受賞理由をこう語る。
- ーー守澤
「実現可能性という面ではデータ収集に苦労しそうだという印象でした。しかし、食品の見た目で味や安全性を判別できるというアイデアはどんな方でもメリットを享受できますし、一般的なニーズが大きい非常にいいアイデアだと感じました。何より、小野様のアイデアを読んだときに、マスクメロンへの愛がこれでもかと伝わりましたので、今回アイデア賞に選定させていただきました」
ビジネス賞は「船舶の船体の汚れ具合を判定するAI」
発想の新規性があり社会的に影響度が大きく、現在の技術で実現可能なアイデアに贈られるビジネス賞に輝いたのは、船舶工学の教員をされている松岡和彦氏による「船舶の船体の汚れ具合を判定するAI」だ。
船舶の運航者から水中ロボットの活用アイデアを聞いた際にこのアイデアを思いついたという松岡氏。海水中にある船体は時間の経過とともに生物付着により汚れていくが、この汚れは、
①船体への有機物の付着
②付着した有機物にバクテリアがスライム状の皮膜を形成
③皮膜上にフジツボ、イガイ、アオサに代表される大型の海洋付着生物が付着
という過程をたどるという。船体への海洋生物の付着は、船舶の燃費の悪化や越境生物の輸送などの問題をもたらす。また、③の状態では燃費も悪化し、船体へもダメージをおよぼしている。少なくとも②の段階で清掃作業が必要だが、有機物の付着と成長は海洋環境によりさまざまで、数か月に一度の定期的な点検だけでは対応が難しい。
そこで、水中カメラやROV(遠隔操作型の無人潜水機)を用いて日常的に水中の船体を観察し、その画像から②の状態を画像判別AIで判断できれば、最適なタイミングで船体の清掃(潜水作業)が行える可能性がある。船体を適切な状態に保つことで、燃費効率改善を図るというアイデアだ。
ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社でAI事業推進の担当部長を務める田島精一郎氏は、受賞理由をこう語る。
- ーー田島
「まず、船舶は世界中どこにでもあるもので物流の要として市場も大きいです。加えて、変動しやすい燃料コストの低減や、船体ダメージ軽減による船舶の耐用年数の伸長といったメリットもある、昨今のSGDs文脈だけでなく、船主の方々にも価値をもたらす素晴らしいアイデアだと感じました。選定にあたって私も調べたのですが、フジツボの付着で船舶速度が10%も落ちて燃料効率も悪化することなどは初めて知りました。海洋生物が付着しにくい塗料もあるそうで、そうしたビジネスとセットで進めていける事業性も感じました。AIの学習には水質や船底の色、季節や時間による光の当たり具合によって膨大な枚数の学習が必要なことが実現可能性の第一歩と感じますが、そこをクリアできればビジネス性、社会的影響が大きく、今回ビジネス賞に選定させていただきました」
どのアイデアも実現には泥臭いデータ収集がカギ
2022年12月14日に行われた表彰式では、ELFEの企画・設計を担うソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社の成瀬禎史氏による総評が行われた。
- ーー成瀬
「アイデア部門でこれほど多くの件数をみなさまにアウトプットいただき、お礼申し上げます。今回受賞した3件は、すべてが素晴らしいアイデアでした。一方で、3件とも精度要求は高いもので、データの収集には苦労しそうな印象を受けました。画像認識AIを活用したアイデアを実現するには、画像を何千枚と仕分けるといった非常に泥臭いデータ収集が必要であり、データの質と量が正義な世界です。アイデアとプロトタイプはセットですので、ぜひこれを機会にプロトタイプの作成にチャレンジしてほしいと思います」
成瀬氏の言う通り、AIモデルの作成にはデータが不可欠であり、データの量と質を両立することが求められる。ELFEなどの画像判別ソリューションを使うにも、まずはデータを収集しなければならない。
その前段階として、AIを活用したいのなら、まずは実現したいアイデアを出してみることも重要だ。ELFEのようなソリューションで、アイデアを実現するハードルも下がっている。Ledge.aiを運営するレッジとして、エルコンを通してアイデアのその先に進む手伝いができたなら幸いだ。