AIが人々の心を救う?リモートワーク下でも個人の悩みを引き出すemol work

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新型コロナウイルス感染拡大により、人々は「新しい生活様式」への転換が求められた。

コロナ禍は、これまでの働き方や組織のあり方も大きく揺さぶった。リモートワーク(テレワーク)が導入された企業では喜びの声が上がる反面、「同僚との交流が減って寂しい」「誰とも話さず1日が終わる」という声も少なくない。

こうした組織で働く人の悩みにAIが対応するのがemol work(エモルワーク)だ。サービスを提供するemol創業者・千頭沙織氏が自身の経験をもとに得た「人に言いにくいことも、AIになら相談できるのではないか」という考えから生まれたとのことだが、”人の心を救う”AIとはどんなものなのか。emolのCOO、武川大輝氏に話を聞いてみた。

※今回の取材は2020年5月にメールにて実施している

emol workとは

emol workは、AIとのチャットを通じてメンバーの悩みを引き出したり、チーム内の「共有ボード」に匿名で悩みを投稿できたりするサービスだ。チャットでの会話はAIと本人だけしか見られないので、「原因がはっきりわからないけどなんとなくモヤモヤする」、というときでも、安心して悩みを吐き出せる。

月300円(1ユーザー)でチャット機能、ボードの作成が無制限に利用できるスタンダードプランのほか、利用上限を設けた無料プランも利用可能だ。

――武川
「emol workの目的は、心理的安全性の高いチームを作ること、自律した組織を作ることです。管理職の方に全ての負担がいくトップダウンの構造ではなく、上下関係なく、悩んでいることを相談でき、その悩みをチームメンバー1人1人が他人事ではなく自分のチームのことを考え、自律することを促し、結果、仕事の生産性が向上するということに繋がると考えています」

個人の悩みをチーム内で共有し、メンバー同士で解決するのがゴール

他社のHRサービスと比べ、emol workに特徴的な機能のひとつが「悩みの共有」だ。

悩みの共有、と聞いたとき、私は真っ先にマネージャー層や人事担当者に共有し、社員の本音を知ってもらうためのツールなのか?と思った。ちょっとうがった言い方をしてしまえば、「上司たちに代わって、AIがうまく社員のホンネを聞き出す」だけで、問題解決には結びつかないのでは……?というところだ。だか武川氏は「マネージャー層に社員の本音を知ってもらう、というより、悩みそのものを知ってチーム全体で解決に導くことが一番重要だ」と話す。

――武川
「ベータ版は、個人のメンタル状態を可視化して、メンタルトレーニング方法を提供するというサービスでした。しかしメンタル状態を可視化しても、悩みの解決方法としては

  • 飲みに誘って悩みを聞く
  • 最近の調子を聞く
  • 1on1でメンタリングする

というように、具体的な悩みを聞いて対策を考えるというものでした。そこで正式版では『悩み』によりフォーカスし、チームメンバー同士の悩みを共有できる機能を実装しています」

たしかに、従業員の状態を可視化して個人と向き合うのが有効な場合もあるだろう。しかし悩み事を共有できる環境をつくり、「悩み」そのものにフォーカスすることが、個人の不安を解消する近道になるのかもしれない。

匿名にすることでバイアスをなくす

メンバー同士が悩みを共有できる「共有ボード」では、投稿がふせん化され、回答者も匿名で意見を投稿できる。気軽な自己開示を重要視し、悩みを共有することへのハードルを下げている。

でも匿名で公開されていることで、誰かの悩みをばかにしたり、かえって暴言が飛び交うことにならないだろうか?

――武川
「共有スペースはなんでも話して良い場所ということではなく、『悩み』というテーマでの情報共有を目的としているので、弱い人を叩くというようなことは起こりにくいです。また、匿名とはいえ知り合い同士のチームなので、匿名SNSのようなことが起こることはなく、匿名でも知り合い同士での利用ということが暴言などの抑止力になっています。

回答時の無駄なバイアスを取り除くという意味でも、匿名性が良いと考えます」

これはサービス運営側も特に気を配っている点とのことで、チームによっては初回の運用開始のサポートも行っているという。

――武川
「emol workでのやりとりを通じ、困ったら素直に誰かを頼っていい、頼ることを否定されず、助けてくれる誰かがいる、安心して頼り頼られることができるチームを作る。結果、メンバーのストレスを削減でき、メンタルの低下を防ぐことができるのではないでしょうか」

ユーザーが本音を話しやすくするAI技術

ユーザーが本音を話しやすくするための工夫のひとつが、AIキャラクターの「ロク」だ。ひと昔前のAIボットといえば「発言を繰り返すだけで、会話が成立しない」というのが一般的だった。ユーザーに「悩みを聞いてくれる」という安心感を持たせる工夫はあるのか。

emol workでは、CCBT(コンピュータ認知行動療法)に基づいたログ型と選択肢型のハイブリッド方式を活用しているという。あいづちなど気軽な吐き出しはログ型に、悩み相談は選択肢型にし、具体的な会話が終結できるようにするほか、さまざまな悩みを引き出しやすくする。

また、キャラクターそのものに親しみを持ってもらうことも大切だという。公式Twitterでは、心の疲れをとるノウハウや、ロクの着せ替え実装情報などを発信している。サービスにAIを埋め込む、というと、どうしても精度向上や機能面に目が向きがちだが、ユーザー心理に寄り添うことも忘れてはいけない。

――武川
「ユーザーを絶対に否定しない、何が何でもユーザーの味方であるというスタンスを意識しています。ユーザーがSNSなどでAIの「ロク」の画像をアップしてくれていることも多く、着せ替えなども楽しんでいただいています。チャットボットへの愛着に関してはかなり高いのではないでしょうか」

そんなemol workだが、すでに40社でテスト導入した結果、悩みの共有や解決だけでなく、自身の内省や気分転換に使うといった利用法のほか、チーム内の雑談が増えた、という副次的効果もあったという。

――武川
「認知科学の研究でも、人よりも人でないものの方がネガティブな感情を引き出しやすいという結果が出ており、人の心をサポートするにあたってAIが適しているのではないかという仮説があります」

チャットツールとの連携で、より身近な存在をめざす

今後はチャットツールとの連携も考えており、emol workを起動せずにAIと会話ができ、悩み共有ボードにもアクセスができるよう開発を進めているという。

――武川
「新型コロナの影響もあり、今まで以上にストレスやモヤモヤした気持ちと一緒に日々を過ごしていくことになると思います。ニュースの話題も暗く、ネガティブな気持ちが周りでも溢れている中、emol workは皆様に少しでも楽しい気持ちで仕事をしてもらえるように日々サービスを良くしていきます」

インターネットの発達で、匿名で個人の悩みを語る場は爆発的に増えた。しかし個人を表現するツールとしてSNSが活用され、ユーザー自身とアカウントとが強くひも付き、リアルとネットの境界線が薄くなりつつある現在、プライドや世間体を全部無視して語れる場は貴重なのかもしれない。

「人間ではない信頼できる相談相手として、AIなら自分の素直な気持ちが言える」という千頭氏の言葉にうなずく人は少なくないだろう。約50年前に人々の悩みを聞いた人工無能「ELIZA」のように、AIが個人、ひいては組織を救う日が来るのだろうか。