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サイバネットシステム株式会社は1月29日、人工知能(AI)を用いて大腸内視鏡診断におけるポリープなどの病変の検出を支援するソフトウェア「EndoBRAIN-EYE(エンドブレインアイ)」について、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」に基づき、クラスII・管理医療機器として承認の取得を発表した。
エンドブレインアイは、昭和大学横浜市北部病院消化器センターの工藤進英教授、名古屋大学大学院情報学研究科の森健策教授らのグループと共同で開発したものだ。
※医療機器は多種多様であるため、患者に与えるリスクに応じて、一般医療機器(クラスⅠ)、管理医療機器(クラスⅡ)、ならびに高度管理医療機器(クラスⅢとクラスⅣ)に分類されている。クラスII・管理医療機器は不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが比較的低いと考えられるもので、レントゲン撮影装置や心電計、注射針、さらにはEndoBRAIN-EYEのような一部の診断支援プログラムが該当する。
画像はプレスリリースより
ポリープなどを検出すると警告を発し病変の発見を補助
サイバネットは2018年に大腸内視鏡診断支援ソフトウェアとして、超拡大内視鏡の画像を対象に“診断”を支援する「EndoBRAIN(エンドブレイン)」の医薬品医療機器等法の承認を取得していた。
今回開発されたエンドブレインアイは、“病変の発見”を補助するものだ。昭和大学横浜市北部病院、国立がん研究センター中央病院、静岡県立静岡がんセンター、東京医科歯科大学附属病院、がん研究会有明病院の国内5施設共同の臨床性能試験を経て、医薬品医療機器等法に基づき、クラスII・管理医療機器として承認(承認番号:30200BZX00021000)を取得した。
エンドブレインアイは、大腸内視鏡で撮影された内視鏡画像をAIが解析し、ポリープなどを検出すると警告を発し、医師による病変の発見を補助するソフトウェア。設計上、あえて検出した病変の位置まで特定することはせずに、音と画面上の色によって医師に警告を発するにとどめているとのこと。これによって、医師の診断する余地を残しつつ検出を支援することが可能で、医師の診断に寄り添った設計になっているそうだ。
また、オリンパス社製の汎用大腸内視鏡(ハイビジョン画質以上)に使用でき、多くの内視鏡機種と組み合わせて使用可能なのも特徴だという。
臨床性能試験では感度95%、特異度89%の精度で病変の検出が可能
本ソフトウェアには、AI研究で実績のある名古屋大学大学院情報学研究科森健策研究室にて研究されてきたアルゴリズム・ノウハウを実装している。国内5施設から集積した動画から抽出された約395万枚の内視鏡画像を学習し、臨床性能試験では感度95%、特異度89%の精度で病変の検出が可能で、内視鏡医の支援に足る十分な精度を達成した。
市販後に自律的な学習による性能向上はしないものの、学習画像数の増加やアルゴリズムの改良で性能向上が期待できる場合には、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に申請し、承認取得後、適宜バージョンアップをする方針だ。
もともと、大腸内視鏡の検査は、経験豊富な医師でも負担の大きい複雑な検査と言われていたようだ。それは、大腸の長短や形状の個人差が大きいことが理由にあるとされる。
エンドブレインアイを使用することで、医師の内視鏡観察を支援し、病変の発見割合が向上することが期待されている。また、すでに販売されているエンドブレインとの連携によって、病変検出から診断の一連の工程をAIが支援する環境が整うことで、内視鏡検査に携わる医療従事者の負担を軽減させ、ポリープなどの検出率を更に高めることも狙っている。
※感度とは画像中に病変があるときにAIが正しく病変があると判定できる確率であり、特異度とは画像中に病変がないときにAIが正しく病変がないと判定する確率である。つまり感度が高ければ高いほどAIによる見落としが減り、特異度が高ければ高いほど誤検出が減ることを意味する。
大腸がんは日本人女性のがん死亡数の1位、男性でも3位
国立がん研究センターが発表する2019年10月04日付「最新がん統計“2017年の死亡数が多い部位”」がん情報サービス統計値(外部サイト)によれば、大腸がんは日本人女性のがん死亡数の1位、男性でも3位だそうだ。そのため、効果的な対策が求められるがん種だという。
プレスリリースによれば、大腸がん対策として、大腸内視鏡で早期がんや前がん病変である腫瘍性ポリープを切除することで、大腸がんによる死亡を大幅(53-68%)に減らせるとのこと。しかし、1回の検査当たり腫瘍性ポリープの約22%が見落とされている可能性が指摘されていた。
見落としの原因は、大腸のヒダや便に隠れてしまって描出ができていない場合と、ヒューマンエラーによる2点のケースがあるそうだ。
そこでサイバネットシステムは、昭和大学横浜市北部病院消化器センター及び名古屋大学大学院情報学研究科の森健策研究室と連携し、なかでもヒューマンエラーによる見落としを防ぐことを主眼として、医師による内視鏡検査を補助するAIを2013年から研究・開発している。
医療データサイエンティスト養成プログラムを開始
医療向けのAI活用はいま急速に進もうとしている。
1月10日には、株式会社HACARUSが医師や製薬企業をはじめとする医療事業者向けのAIトレーニングプログラムの提供を開始した。同社は医療AI、スパースモデリングなどに強みを持っている。
この養成プログラム受講者は、AI開発に必要なツールの使い方や、統計、機械学習の基礎的な内容を学べる。また、プロジェクト演習では、講習で学んだ知識を生かし、医療データを用いた AI開発を実際に体験する。プログラムの内容はすべて医療データを前提として設計されており、プログラム受講後に実務ですぐに活用も可能だ。
主に、自社・自院保有のデータで何ができるのかがわからない、患者情報を扱うためプロジェクト立ち上げに時間がかかる、外部委託のベンダー選定に判断基準がないといった課題の解決が可能になるそうだ。