【AI × 福祉】認知症ケア技法「ユマニチュード」をAI学習 ── テクノロジーは社会課題をどう解決する?

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超少子高齢化、労働者人口の減少、過剰労働など、世界でも類を見ない課題先進国、日本

他国が経験したことのない社会課題を、AIで解決しようとしているExaWizards(エクサウィザーズ)という企業があります。

『10の18乗の魔法使い』を意味するこの企業には、世界中から優秀な人材が集まり、福祉のあり方や医療・介護従事者の働き方に改革を起こそうとしています。

精神的、身体的なサポートが中心の介護業界にどうAIを活用していくのかどんな問題を解決できるのか

ExaWizardsのケア事業におけるAI活用について、クリシュナさんとサマンさんのお2人に聞きました。

Krishna Manda/クリシュナ マンダ
Head of Global Strategy/Mobility Division
様々な社会課題を解決することを目指すエクサウィザードのグローバルな成長とモビリティに関するソリューションの開発責任者。
前職はS&P Global RatingsのNY本社にてManaging Directorとして従事。
事業運営。製品開発及び販売、デジタル変換、予算管理、コスト削減、P&Lの管理等を行い、組織の効率的な改革の経験を持つ戦略リーダー。
戦略的アウトソーシングおよび部門横断的なビジネス統合により、組織の再編を通じて数百万ドルのコスト削減を実現。
日本には20年以上暮らしている。
Saman Herath/ヘーラト サマン
ASEAN and East Asia Division, Group Leader/ Mobility Division, Business Leader
米国University of Notre DameでFinanceとApplied Mathematicsの学士を取得後、ボストンコンサルティンググループの東京オフィスで約4年従事。
主に、日系企業のグローバル進出の戦略策定からパートナーシップ戦略とビッグデータを活用したマーケティング戦略、新規事業立上げ、コスト削減のプロジェクトに従事。
2018年7月より株式会社エクサウィザーズに参画し、ASEAN and East Asia Divisionのグループリーダー及びモビリティ事業部のビジネスデザイナーを担当。

労働人口の減りゆく社会では介護者一人一人の生産性向上が必須

近年、広がりつつあるAI×ケア事業。

Ledgeが過去に取材させてもらったWelmoは、AI活用によるケアマネジャーの負担軽減を通して日本のケア業界を変えていく取り組みをおこなっていました。

――ExaWizardsはどんなアプローチでケア業界にAIを活用していこうと考えているのでしょうか

――クリシュナ
「いくつかありますが、介護者に対する研修や教育において、AIが一部の役割を担うことで効果を高めるコーチングAIのアプローチがあります。

AIにその道の『達人』と呼ばれる人たちのケア技術を学習させ、研修中の介護者がどれだけガイドラインに沿ったケアを提供できているか、スコアで示した上で、改善ポイントをAIが指摘できるようになる形を目指しています。

現在、私たちは認知症を抱えた高齢者のケアに注力しているため、Humanitude(ユマニチュード)というケア技法をAIに学習させています」

ExaWizardsの目指すAI活用は、介護業務そのものの支援というよりは介護者の教育・学習の支援

業務効率化ではなく、一人一人の介護者をプロフェッショナルに育て上げるための支援をするAIを目指しているそうです。

Humanitudeは、介護における「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの働きかけから「あなたは大切な存在です」と伝えるケア技法。です。

  • 相手を見るときは水平に正面から視線を合わせる
  • 相手に触れるときには、手を掴むのではなく優しく支えるようにする
  • 話しかける時には、やや低めの声で歌うように抑揚をつけて話す

など、一見すると些細なことのように思える変化で患者の反応は劇的に変わるといいます。

実際、在宅ケアを行っている100名を対象に2時間のHumanitude研修を実施し、追跡調査をしたところ、被介護者の行動・心理症状が20%減少し、介護者の負担は28%低下するとの研究結果が出ているそうです。

その中でも、認知症患者をケアするための人材育成に焦点を合わせ、Humanitudeを採用したとのこと。

認知症患者の特徴のひとつとして、介護を「襲われている」「強要されている」と捉え、拒否反応を示す事例が挙げられます。

患者から介護を拒否されたとしても、介護者は介護をやめられません

そのため、患者一人当たりのケアにかかる時間が長くなり、介護者の負担は必然的に増加。結果的に介護が雑になり、さらに大きな拒否反応が起き介護者に負担がのしかかる……介護の現場ではこのような負の連鎖が起きるわけです。

――クリシュナ
「要介護者は増加を続け、介護人材の不足が日に日に深刻になっています。人口減少を続ける日本社会で、医療・介護者数を増やしていくことは難しい状況です。

2045年には50才以上の人口が全体の6割を占めると予測されている日本では、介護者一人当たりの生産性をどう上げていくかが福祉を成り立たせるための鍵となります。AIが教育を支援することで短期間で多くの優秀な介護人材を送り出すことができるようになると考えています」

AI活用で、経験に依存していたスキルをロジックに落とし込む

――今はまだAI活用を目指している段階とのことですが、どのような構想でAI開発を進めているのでしょう?

――サマン
「AIを実際に活用するようになるまで3段階あると考えています。第一段階は、Humanitudeの介護研修。通常の介護研修をおこなうことが第一です。

第二段階では、Humanitudeのインストラクターによるスマートフォンを利用した遠隔コーチングを実施します。

遠隔コーチングでは、研修参加者の動画をインストラクターがアプリ上で確認し、改善点を赤入れしていきます。
赤入れは教師データとして蓄積され、次の段階で活用されます。

第三段階目では、天井カメラスマートグラスなどを活用し、多角的な視点から研修者へのアドバイスを即時的に提供することに加え、人のアドバイスや指導を分析し、失敗や間違いをパターン化することで、人ではなく、AIがアドバイスできるようにしていこうと考えています」

これまで介護技術は経験からくる属人的なスキルという位置付けでしたが、ExaWizardsは科学的に立証された技法をAIの学習ターゲットに設定することで、経験をロジックに落とし込もうとしています。

認知症介護にAIを導入することは、同時に注目しなければならない動作が多すぎるため、まだまだ難しいようですが、動作の比較的少ないゴルフスイングを解析するなど、技術を他の分野に転用することで、精度向上に向けた検証をおこなっているとのこと。

――クリシュナ
「動作の複雑な介護にAIを活用しようと考えたことで、他の分野でも通用する基礎技術ができつつあります。ここで培った基礎技術が弊社の他事業にも活かされています。

近年では、産業革新機構などの政府系組織やSOMPOなどの大企業との連携が進み、技術開発にも弾みがついています。

まだまだこれからですが、弊社のビジョンでもある、『AIによる社会課題の解決』を目指していきます」

介護だけでなく、医療や製薬、スマートシティなど様々なプロジェクトに参画し、社会課題解決に向けて取り組んでいるExaWizards

国内の課題解決だけでなく、国境を飛び越え、インドでのモビリティ事業にも取り組んでいます。

日本はAI後進国」という論調がある中、日本で培った技術で世界を目指す姿がもっと多くの人に伝わってほしいと思います。