データドリブンの「ラストワンマイル」を超えろ──営業の生産性向上、次の一手は「ワークログ」活用

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働き方改革が叫ばれて久しい昨今。こと営業においても、CRMやSFA、タブレットによるコンテンツを使った営業手法など、数々のツールが導入されてきた。

しかし、営業の生産性は向上したのだろうか。残念ながら、いまだに営業現場からはそうした声は聞こえてこない。村田製作所の笹野氏とEYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(以下EY)の千葉氏は、営業の働き方改革・生産性向上が進まない理由は、まさに営業「現場」の可視化・分析が進んでいないからだという。





その「ラストワンマイル」に切り込もうとしている2社に話を聞いた。営業の生産性向上というトピックから、監視社会への危機感、対話という行為の再考など、話は多岐にわたった。

ツールは数あれど、営業の生産性が向上しない理由

前述の通り、営業の生産性を向上させるため、これまでさまざまなツールが考案されてきた。しかし、EYの千葉氏は「これまで導入が進んだツールは、顧客管理や商談プロセスの管理など、数字上のマネジメントを改善するものにとどまっている」と指摘する。

大学院在学中よりソフトウェアベンチャー立ち上げに参画後、会計系コンサルティングファーム、IoT系ベンチャーの役員、 AIやブロックチェーンベンチャー企業の顧問などを務め、2019年3月より現職。20年近いコンサルティング経験を通じて、事業戦略策定からPoCなどの実行までを総合的に支援。「Executable Strategy」をモットーに、営業組織を中心に先進テクノロジーを活用したDX支援を手掛ける。

――千葉
「スマートフォンやタブレットを使った営業コンテンツや、CRMやSFAなど、営業のDXはこれまで大きく進んできました。一方で、じゃあCRMを導入すれば受注率がいきなり向上するかというとそうではない。営業のまさにその瞬間、『現場』のデータが取れていないんです

営業のトーク、顧客の反応、場の雰囲気……こういった営業のまさに現場にいる人にしかわからない情報はブラックボックス化し、これまで客観的なデータを取得することは極めて困難だった。

これまでは上司が部下の営業に同行し、フィードバックすることができた。しかし、そうした「師弟関係」も、上司も働き方改革の対象となり、営業動向をし、フィードバックを逐次行うことは難しくなってきている現状がある、と千葉氏は指摘。村田製作所の笹野氏もこれには同意する。

株式会社村田製作所 モジュール事業本部 IoT事業推進部 データソリューション企画開発課 シニアマネージャー。センシングデータプラットフォームNAONAプロジェクトの販推、開発に従事。NAONAではこれまで可視化、定量化が難しかった人のコミュニケーションに関わる領域を中心に価値の訴求を行っている。

――笹野
上司が直接フィードバックできなければ、営業の結果だけを見てフィードバックすることになり、『教科書的』になりがち。言われても『そんなことはわかってるんだけど……』と反応に窮するでしょう。テクノロジーによる、客観的なアドバイスが求められているでしょうね」

千葉氏によれば、営業を改善するにあたっては、以下の3つの要素が重要だという。

  • コンテンツ
    どのような媒体でどのようなコンテンツを見せるのか?

  • コミュニケーション
    どのようなコミュニケーションを取るべきか?

  • トレーニング
    どう営業を習得するのか?

コンテンツ設計を考える際は、どのようなコンテンツを会話のなかでいつ見せればよいのかを考える。それにより、本当に有効なコンテンツとはどのようなものかという議論ができる。

トレーニング体系を考える際は、たとえばロールプレイングなどを行ったり、いわゆる「デキる」営業マンのノウハウを蓄積し、社内で横展開することでボトムアップを計ることなどが可能だ。

しかし、営業マンの声のトーンや、商談の「空気」、顧客の反応といった定性的なコミュニケーションの部分は、そもそも取得が難しかったのは前述の通りだ。営業の生産性向上における「ラストワンマイル」とも呼べる部分に、これまでメスが入ることはなかった。

「仕事のログを可視化する」ワークログの重要性

コミュニケーションにおけるデータを可視化し、客観的に分析できるようにするのが、EYが提唱する「ワークログ」の活用だ。

ワークログとは、IoTなどの「テクノロジーによって⾃動的に捕捉される営業活動における客観データ(ログ)」のこと。これまでデータを取得することが難しかった領域だが、IoTデバイスなどの普及により、データを取得することが飛躍的に容易になった。

ワークログを取得するためのIoTデバイスのひとつが、村田製作所が昨年から提供を開始したIoT製品「NAONA (外部サイト)」だ。これは、IoTデバイスを会話を行う場所に設置するだけで、発言回数や割合、会話のテンポや個々人のコミュニケーションのスタイルといった要素を可視化できるというもの。

――笹野
「既存のIoT製品は、たとえば生産設備にセンサーを取り付けて稼働率を確認したり、故障を予知したりと、一般的な『物理情報』を取得するという面ではずいぶん進んできました。ウェアラブルデバイスと呼ばれるものもそうですよね。

NAONAでは、これまで人間が主観的に把握しがちだった、コミュニケーションの状態を可視化することができます

たとえば、上司の経験と勘で行っていた部下へのフィードバックを、営業現場そのものを客観的に計測し、フィードバックすることができる。

例として、下の図を見てもらいたい。

出典:EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング提供資料より

この図は、それぞれ営業担当者Aと、顧客側B、C、Dの会話の様子をNAONAで記録し、グラフで可視化したもの。左上の図を見ると、終始営業担当者Aが喋り通しで、顧客側に会話の機会を与えないまま一方的に話していることがわかる。

また、右上の図は、発言回数を表すパイチャートだが、これを左図の発言の割合と突き合わせることで、顧客側のB、C、Dが関心をもってこの商談に参加していたかどうかという踏み込んだ分析も可能だ。

今回のデータからは、端的にいえば顧客にヒアリングをしない「ダメ営業マン」ということがうかがえる。おそらく、商談の結果も良いとは言えないものだろう。しかし、ワークログを可視化しなければ、こうした事実はブラックボックスのままで、本人すらも何がダメなのか永久に気がつかないかもしれない。

村田製作所では自社でNAONAをトライアル利用した事例もあるという。

――笹野
「弊社にコーチングマスターの資格を持つ者がおり、NAONAを実際の対面面談の場で使用してみたんです。すると、コーチングどころか指導的なティーチングモードとNAONAに判定され、コーチングができていなかったという結果が出たんです。この結果には本人も打ちのめされていました(笑)」

「監視社会」になるかどうかは使い方次第

コミュニケーションというブラックボックスを丸裸にするツールの登場は、コミュニケーションの改善という面では良いかも知れない。

一方で、これまである程度自由に行うことのできたコミュニケーションを分析することによる弊害も生まれることが予想される。たとえば1on1でこのようなツールを使うことで、部下が上司に本音を言えなくなるといった事態もあり得るのではないか?

疑問を笹野氏にぶつけてみると、意外にも「そうかもしれない」という答えが帰ってきた。

――笹野
「たしかに、使い始めた当初は、『監視されているみたいで嫌だ』と、言う人が多かったのは事実です。しかし、使い続けるうちに、自分にとってメリットになることが理解できると、前向きに使っていただけるのではないかと思います。

結局のところ、使い方がすべてだと思っていて。『自らのコミュニケーションを自ら改善する』、「デキル営業マンのコミュニケーションスキルを見て、まねて、自分のものにする」といった当人が自発的に使うことに価値があるように感じます。ただ、当人に自発的に使うようになってもらうにはデータの可視化だけではなく、もう少し工夫は必要だと我々も思っています」

レコーディングダイエットのように、まずは自分の現状を可視化することで、改善へのモチベーションが生まれることが理想だという。

千葉氏も笹野氏に同意する。

――千葉
「まさにレコーディングダイエットのようなもので、自分の状況がどうなのかがわからないと、改善しようというモチベーションが湧きません。前日に焼肉を食べた後は、翌日に後悔して自制しようと思いますよね。スマートウォッチで自分の生体情報や体調などを確認するなど、自分の現状の可視化はすでに誰しもが行っていることで、ビジネスシーンでそれがあってもおかしくはない。

データを人に見せて改善してもらうのではなく、データを『自分が見る』というモチベーションに移行してはじめて、意識改善になる

対話の重要性が見直される時代に

こうしたデータによるコミュニケーションの見える化は、現在、人事領域での引き合いが多いが、今後は他分野にも積極的に導入を進めていきたいと笹野氏は語る。

――笹野
「現在は働き方改革の兼ね合いで、人事領域での引き合いが多いです。働き方改革というと、みなさん時間を削減する方向に行きがちですが、それだけでは足りない、上司と部下のコミュニケーションを改革する必要があることに気づき始めていると思います。

今後は営業現場はもちろん、病院でも医師と患者のコミュニケーションや教育現場、就職活動における集団面接やグループディスカッションといった場でも活用できるのではないか、と思っています」

また、最後に千葉氏はこう語った。

――千葉
「体験の暗黙知が、テキストに変換される今のデジタル化の時代においては対話によって、『行間を読む』といった価値観を忘れてしまっているのではないかと感じます。

しかし、現在は、従業員の組織へのエンゲージメントが企業の競争力に直結する時代になり、改めて、対話の必要性・重要性が見直されてきているのも事実。それは、デジタルテクノロジーを活用して対話を科学することで、その行間を読みといていこうとしているといっても過言ではありません。

ワークログの取得と分析、そして可視化が『対話の科学』の助けになると思います」