在庫を持たず、レジもない。革新的な店舗運営で話題の、オーダーメイドスーツ・シャツを扱うスタートアップ「FABRIC TOKYO」をご存知でしょうか?
世界的にみても遅れていると言われる日本の小売業界。そこに一石を投じようと、ファッション × テクノロジーで、新たな価値を生み出しているのがFABRIC TOKYOです。
その裏には、採寸メモが記載された帳票をほぼ100%の精度で読み取り、圧倒的な業務効率化を果たす、なんとも美しいAI導入事例がありました。
手書き文字認識AI「Tegaki」の導入で、現場がアップデートされる
在庫もレジもないFABRIC TOKYOの店舗にユーザーが訪れてすることは一つ。「採寸」です。その業務の中で、AI界隈では有名な株式会社Cogent Labsの手書き文字認識AI「Tegaki」が活用されています。
Tegakiとは手書き書類をスキャンして取り込むだけで簡単にデータ化して保存ができる手書きOCRサービス。自動認識が難しかった手書き文字を高速・高精度に読み取ることができます。各種申込書類やアンケートをはじめ、医療機関での問診票など様々な手書き書類の読み取りに対応可能。手書き文字の認識率99.22%を達成した研究結果を元に、データ入力業務の効率化とコスト削減を実現します。
従来のワークフローが、AI導入によってどのように効率化されたのか、実際の店舗の様子を覗いてみます。
着心地のいいスーツを作るのに重要な体の部位、数十カ所を採寸
店舗を訪れると、壁一面に並んだ生地サンプル(通称:FABRIC WALL)から、ユーザーはお好みの生地を直感的に選ぶことができます。そしてメインとなるのが、採寸です。実際に採寸されている様子がこちら。
着心地のいいスーツを作るのに重要な体の部位、数十カ所を、店舗スタッフが丁寧に採寸してくれます。
手書きで帳票にメモ。データのクラウド管理がFABRIC TOKYOの強み
店舗スタッフは採寸をしながら、手書きで帳票にメモを取っていきます。
FABRIC TOKYOが強みとしているのが、この採寸データです。データはクラウドにアップロードされ、ユーザーはいつでも自分のデータにアクセス可能。さらに、オンライン上でスーツ・シャツのオーダーができます。
一度店舗で採寸をして、あとはインターネット上で商品を購入できるD2Cのオーダーメイドビジネスこそ、小売業界でFABRIC TOKYOが旋風を巻き起こしている所以です。
手書きメモをスキャンし、Tegakiで画像認識。API連携でデータベースに自動書き込み
Tegakiは、帳票に手書きでメモされた採寸データを、クラウド上のデータベースに登録する業務で使われます。
以前は、手書きのデータを、わざわざエクセルに平均13~15分かけてスタッフが手入力していましたが、AI導入後は帳票をスキャンするのみ。
スキャンの様子がこちらです。
スキャンされた帳票に記載された手書き文字をTegakiが認識、読み取ることで、自動的にクラウド上のデータベースに書き込まれます。
ここまでがAIによりアップデートされた、採寸の一連の業務フローですが、
- そもそもなぜ採寸データを直接iPad等のデバイスに入力しないのか?
- 導入にあたりどれくらいのコストがかかったのか?
- 既存ワークフローの変更で、新しい課題も出たのでは?
など、気になる点も多いです。
ということで、AIによる業務効率化のリアル、AI導入に至った背景、そしてAIがもたらした恩恵を、Tegaki導入プロジェクトチームの中筋 丈人氏、大森 慎平氏に聞きました。
FABRIC TOKYO 執行役員 CTO
大森 慎平
事業推進チーム マネジャー
労働時間を月180時間削減!驚異的な業務効率化を実現
――単刀直入にお聞きしたいのですが、AI導入は“成功した”と言えますか?
「大成功ですね。Tegakiの精度はほぼ100%ですし、実際Tegakiによるデータの誤認識はまだありません。業務システム、スタッフ、コストなど、あらゆる観点でネガティブ要素はゼロです」
本来は、店舗スタッフが顧客管理ツールに手動で入力していた月間数千件、1回あたり平均13~15分の作業が、Tegakiを導入したことでたったの2分になり、月間およそ180時間という驚異的な業務時間の削減を実現しているそう。
しかし、なぜわざわざ手書きで帳票にメモするのか、たとえばiPad等のデバイスに採寸データを直接入力する方法でも良いのでは…? と思うのですが、デバイスに直接入力する方法は、スタッフのUXを考えた際に、不採用となったそう。
「採寸は、メジャーで測って終わりではありません。実は細かい計算を紙で行っています。スタッフの声を聞き、UXを考慮した結果、採寸データの記録については既存の業務を引き継いだほうが効率が良いと判断しました」
「システム全体の仕組みとしては、
- 帳票をスキャンしてイメージ化
- Tegakiが文字を認識してデジタル化
- デジタル化されたデータをAPIを使い自社データベースに追加
- ユーザーがオンライン上で採寸データを即座に閲覧可能
という流れです。
ここで重要なのが、TegakiにはAPIが用意されている点です。別のOCRサービスももちろん比較しましたが、ツール上にデータが溜まるだけでは意味がありません。自社システムとAPI連携でき、精度が高いのが、Tegakiを選んだ理由です」
こちらの画像はTegakiのサービス画面です。GUIで、読み取る際の細かい調整が可能です。
APIで渡すデータをGUIから事前に調整することで、システムとのスムーズな連携が可能になるといいます。
AIを疑うな。通常のシステムと同じように検証し、使えるなら使えばいい
――Tegakiを導入し、結果的にメリットしかなかったということですが、導入前の不安はなかったのでしょうか?
「不安要素は一切なかったですね。Tegaki導入後の見積もりをしても、Tegaki導入後のコストのほうが圧倒的に低かったので。
Tegaki導入前の準備期間も約1ヶ月ほどで、ほとんどコストはかかっていません。やったことといえば、自社システム連携部分の構築と、帳票の構成を少し変えたくらいです」
システムについては、デメリットはない。すると気になるのが、現場スタッフの声。AIが導入されることで、既存の業務フローが変わり、不満などはないのでしょうか。
「むしろスタッフからは、良い声しか挙がっていないですね。店舗でお客様の全身数十箇所のサイズデータを取得し、すべてスタッフが手入力していました。そのため、どうしても残業時間が増えてしまっていた課題もありました。
Tegaki導入後は、帳票をスキャンするだけなので、大幅に業務時間が削減され、残業がなくなっています」
残業がなくなる……!これはスタッフのモチベーション、精神衛生面でも非常にポジティブな影響です。
「加えて、単純に作業時間が大きく短縮され、それにより今までなかった時間と余裕が生まれます。単純に、接客の質も上がり、お客様満足度も向上しています」
AI導入成功のヒントは「フルオートメーション化」にあり
――あらゆる観点で、AI導入の好事例とみて間違いなさそうですが、秘訣はなんでしょうか?
「AI導入のカギは、完全自動化だと思っています。
ここはAI、ここは人間がやるといった業務フローではかえって運用コストが高くなりがちです。人がやるべきタスクは最初か最後に持ってくる。そうすることで、AIの価値を最大限に引き出します」
「テクノロジーが浸透していない領域はまだまだ多いです。そして小売業界もその中心に位置しています。そんな状況をFABRIC TOKYOが最先端テクノロジーを駆使して、結果を出していくことで、業界全体をアップデートしていきたいです」
Tegakiの導入は、まだまだ始まったに過ぎないといいます。今後はTegakiを始め、さらなる業務効率化、サービス向上に向け、テクノロジーが融合された次世代の働き方を作っていくFABRIC TOKYO。確実に結果が出ている今回の事例は、参考になる企業も多いのではないでしょうか。