【FiNC Technologies CTO】“面倒”なヘルスケアアプリは、AIでこうして消えていく

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一度でもヘルスケアアプリ、ダイエットアプリを使ったことがあれば分かるが、

  • いつ
  • どこで
  • どれくらい

と、食事や運動についての面倒な入力作業が待っている。ゆえに、多くのユーザーが離脱してしまうのも当然のことだ。

そういった課題をAIによって一掃しようとしているのが、Google Playベストオブ 2018「自己改善部門」大賞を受賞した、「ヘルスケア/フィットネス」カテゴリにおいてダウンロード数国内No.1 アプリFiNC」だ。FiNCは、チャットボットや画像認識によって“面倒”をどのようにしてなくしたのか。

※『日本国内App Store/ Google Play「ヘルスケア&フィットネス」カテゴリにおける1年間(2017年11月〜2018年10月)の合算です。/出展:App Annie』

AIを活用した新時代のUI・UX体験の開発からAI搭載までのストーリーを、FiNC Technologies 代表取締役 CTO 南野充則氏に聞いた。

南野 充則

株式会社 FiNC Technologies 代表取締役CTO
日本ディープラーニング協会(JDLA)理事

AI、チャットボットなどの最先端技術を惜しみなく使う

FiNCのアプリを開くとユーザーを迎えてくれるのは、チャットボットだ。わかりにくいチュートリアルや説明を読む必要はない。チャットボットと会話するだけで、必要な情報の入力は終わり、アプリを使う準備が整う仕組みになっている。

  • 食事
  • 睡眠
  • 運動

などのデータをもとに、管理栄養士や料理研究家が作ったヘルシーなレシピや、プロトレーナーが提案するフィットネスメニューなどを届けてくれる。

――南野
歩数、体重、食事、睡眠時間の入力作業は、AIがサポートしてくれます。たとえば、食事の記録って結構面倒な作業ですよね。それは画像認識で解決しています」

画像認識によって、ユーザーはわざわざランチやディナーを思い出して食事を検索して入力する手間が省ける。

以下が料理の画像をアップロードした結果だ。

精度に関してはまだまだ研究、開発の真っ最中だという。しかし、FiNCに搭載されたチャットボットや画像認識が、ユーザー体験を変えているのは確かだろう。

待っていたのはひたすら泥臭い作業の連続だった

――料理の認識において、AIの学習や搭載には手間がかかったのではないでしょうか?

――南野
「とにかく泥臭い作業の連続でしたね。料理を画像から認識するためには、当然料理の画像を学習させる必要があります。そのために、専任の料理人を雇い、料理を作ってもらうところから始めました

料理1品を認識するためには、約100枚の画像データが必要です。料理を作り、撮影し、学習させる。そのサイクルを回し続けて、今では約3000品を認識できます」

現在は画像から料理を認識する機能に留まるが、今後はカロリーまでも取得できるようになると南野氏はいう。

――南野
「カロリーを推定するためには、学習する料理がレシピ通りに作られている必要がありました。しかし、世の中に落ちているデータは、レシピもバラバラでボリュームもまったく違います。

社内で料理しデータを作ることで、この画像はこのカロリーと、正解データを持てるので非常に良かったですね」

(データ作成のために作られた料理は、従業員が食べたという)

正確なデータを集めるために、たとえばキャベツはグラム単位で分量を変えて料理を作った。カレーにしても、ビーフカレーやグリーンカレーなど、種類別でデータを溜めたという。

――カレーは、ルーで野菜が隠れてしまいますが、正確に学習できるのでしょうか?

――南野
「そういった課題は、アノテーション(データに対してタグ付けなどを行う作業)するしかないです。人間が認識できない部分はそもそも諦めたり。

データ作成は非常に泥臭い作業でしたが、ディープラーニング以外の選択肢がなかったんですよね。料理は特徴量が多すぎて、それ以外の選択肢は考えられませんでした

睡眠時間入力率、食事の入力率ともに脅威の向上をみせた

――かなりの労力と時間をかけて搭載した画像認識機能によって、ユーザー体験は変わったのでしょうか。ユーザーからの反応は?

――南野
「食事や睡眠の入力率やアプリの継続率は変わりましたね。詳細の数字は非公開で言えないのですが、AIが入力をサポートすることで、どちらも大きく向上しました」

睡眠時間や食事の面倒な記録がより簡単になったことで、アプリの継続率も向上したという。

――AIやチャットボットが搭載されたことで、インターフェースも変わり、ユーザーの体験も変わったと思います。ユーザーが使いにくいと感じる可能性もあったのではないでしょうか?

――南野
「ないですね。アプリは、画像認識やチャットボットを搭載する想定で設計していたので。面倒だった入力作業がラクになったので、特にデメリットはないです。

当然、AIの精度は100%ではありません。料理などが正確に認識されなければ、ユーザーに入力してもらいます。しかし、ゼロから入力するよりかは、ユーザーにとっても負担は少ないです」

AIを搭載したアプリは、ユーザーの期待値コントロールが重要だと南野氏は指摘する。

まだまだAIについての認識はバラバラだ。なかには、AIは100%の精度が出て当たり前だと思っているユーザーもいる。100%ではないことをユーザーに理解させつつ、新しい機能によってユーザーが迷わない設計が必要だという。

「AI」の開発を「AI」で効率化するのはマスト

――今では、最先端技術がアプリにふんだんに使われているわけですが、AIをアプリに導入するポイントや工夫している点はあるのでしょうか?

――南野
「苦労したのは、料理を作って、撮影して、開発するといったフローにおいて、参考にできるお手本がなかったことです。

料理を作るだけでも準備することは多いですし、学習データのために必要な料理の要件は何か、なども考える必要がありました。料理から学習させるフローの構築は意外と時間がかかりましたね」

FiNCの一番の強みは、「レシピ通りで作られた料理のデータ」「毎日食事画像が投稿される仕組み」。もはや、ディープラーニングのモデル自体は汎用化されていくので差別化になっていかないと南野氏はいう。

――南野
「データ作成のほかに、もう1つ重要なことがあります。AI開発の自動化です。

  • 食事
  • 撮影
  • データ整形
  • 学習
  • 実装

など、それぞれの工程で積極的に自動化を進めています。もはや、自動化しないと手が追いつかなんですよ。ディープラーニングの学習させる作業自体をディープラーニングで自動化したり

FiNCは、社内エンジニアの教育にも取り組んでいる。AI技術に詳しい人材、AIを実装できる人材を育てることで、人材不足の壁を乗り越えているのだ。

――南野
「たとえばサーバーサイドエンジニアであれば、およそ2~3ヶ月でAIを実装するためのスキルが付きます。弊社は2~3ヶ月でスキルアップできるためのカリキュラムも作っているので」

教育コストはかかるものの、すでにカルチャーやマインドがフィットしているメンバーは、新規雇用と比較すると圧倒的にコストが低い。さらに、一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)が実施する「G検定(ジェネラリスト)」の資格取得も、全社員必須で取得に励んでいるという徹底したAI教育だ。

FiNCにみるベンチャーの戦闘術

――ヘルスケア×AIにおいて圧倒的な存在感を見せるFiNC。企業としての強みはなんでしょうか?

――南野
「特許ですね。弊社はすでに52件(2019年3月現在)ものAI関連の特許を取得しています。例えば、ユーザーの健康状態に適したアドバイスをする特許などです。

当然、大企業の参入もあるんですが、特許が良い防御壁となっています」

FiNCがここまでスムーズに特許が取得できているのは、内閣府 革新的研究開発推進プログラムへの選定、累計100億円強の資金調達実施などの背景がある。

――南野
「特許の取得は引き続き積極的に行っていきます。さらに、海外展開も加速させていきます。海外における日本のヘルスケアへの評価は非常に高く、勝ち筋も見えています。

料理は変わってきますが、学習までのフローは変わりません。国内外で豊富なデータを溜め、画像認識などの精度、ユーザー体験のさらなる向上を目指していきたいです」