グーグル、著名なAI研究者の解雇に反発 2名が辞職「疲れ果ててしまった」

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画像はUnsplashより

米グーグル(Google)で倫理的AIチームの共同リーダーを務めていたティムニット・ゲブル(Timnit Gebru)氏が2020年末に解雇されたことを理由に、グーグルの技術者2名が辞職した。米CNNや英The Guardianなどが報じている。

今回、同社の辞職が明らかになったのは、グーグル Trust & Safety(トラスト&セーフティ)でエンジニアリングディレクターを務めるデヴィッド・ベーカー(David Baker)氏および、グーグルのソフトウェアエンジニアであるヴィネシュ・カナン(Vinesh Kannan)氏だ。

デヴィッド・ベーカー氏は、2004年11月〜2021年1月と16年3カ月もの間、同社に勤めていた。しかし、LinkedInでの本人の投稿によると、現在のグーグルとティムニット・ゲブル氏との状況を受け、同社の辞職を判断したという。デヴィッド・ベーカー氏はLinkedInでの投稿のなかで、「グーグルは世界中の多様性と黒人をサポートするために、もっと努力しなければいけない。私の辞表は考えを要約したものだ」と述べている。

>>デヴィッド・ベーカー氏によるLinkedInの投稿

また、デヴィッド・ベーカー氏は米CNNと取材に応じ、「会社の文化を改善しようとしているうちに、疲れ果ててしまった」「ティムニットのような素晴らしい人がグーグルで働くべきだ。彼女がいることが重要だ」「グーグルは彼女の雇用を維持できなかった」などと述べているという。

>>米CNNによる報道

一方で、ヴィネシュ・カナン氏は2月4日に、自身のTwitterアカウントにおいて、「昨日はGoogleでの最後の日でした」と切り出した。また、退職の理由として、ティムニット・ゲブル氏、元グーグルのダイバーシティ採用担当のエイプリル・クリスティーナ・カーリー(April Christina Curley)氏が不当な扱いを受けたことを挙げている。

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事の発端は、ティムニット・ゲブル氏が現地時間2020年12月2日、自身のTwitterアカウントで、同社に解雇を通告されたと明らかにしたことだ。ティムニット・ゲブル氏は、スタンフォード人工知能研究所(スタンフォードAIラボ、SAIL)の出身で、AI倫理研究の第一人者である。

とくに、米マイクロソフト研究所(Microsoft Research)に所属していた2018年には、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者であるジョイ・ブオラムウィニ氏(Joy Buolamwini)と共同研究した、AIによる顔認証が白人男性では高い精度を発揮できるものの、アフリカ系(黒人)などの有色人種では精度が低くなってしまうことを明らかにした論文は大きな話題となった。

このような多大な功績もあり、インターネット上では、グーグルに対して反発する署名に、グーグル社員2695人に加え、学術・産業・市民社会の支援者4302人が署名した。また、SNS上でも、グーグルのほか、マイクロソフトやNVIDIAなど、さまざまな企業の研究者たちがティムニット・ゲブル氏への支持を表明している。

ところが、グーグルと研究者たち、もっと言えば社員たちとの攻防は終わらなかった。現地時間2020年12月23日には、グーグルのAI研究において、同社に所属する科学者たちの論文の管理を強化し、同社の技術を肯定的に評価するように指示していた、と英ロイターに報じられた。

また、現地時間2021年1月4日、米Googleなどアルファベットの社員200人超が同社初の労働組合を結成したことを発表した。日本経済新聞の報道によると、労働組合は雇用や賃金の問題だけではなく、経営陣がAIを活用する場面などでも、倫理的に行動するように求めていくという。

ティムニット・ゲブル氏がグーグルを解雇されたことを報じた記事のなかで、私は「改めて言うまでもないが、ティムニット・ゲブル氏はAIの倫理的な問題に積極的に向き合っており、現在のAI研究に欠かせない人物である」と書き記した。グーグルはティムニット・ゲブル氏を解雇したことで、優秀な技術者2名も失った形となる。