アシックス、トップアスリートのスポーツシューズをIoTで測定 ソールの厚みは30秒程度で測定可能

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世界中のアスリートたちのシューズを数多く手掛けるアシックス。同社のフットウエア生産統括部カスタム生産部では、属人性が高くなりがちな少量生産の生産現場における生産ライン改善を推し進めるために、アステリア株式会社が提供するAI/IoTプラットフォーム「Gravio(グラヴィオ)」を導入し、測定精度や効率を向上させたという。

詳細はGravioのサイト上にて公開されているが、Ledge.aiでも紹介させていただく。

月額500円のプランで始められるから上司に説得しやすかった

アシックスのフットウエア生産統括部カスタム生産部では、アスリート向けのスポーツシューズを生産している。国際的な競技大会に出場するトップアスリートをはじめ、国内外のアスリート向けにシューズを数多く手掛ける大手メーカーだ。

一般向けのスポーツシューズと異なり、同部署で生産するシューズはそれぞれのアスリート特別仕様。いわゆるオーダーメイドのような個別生産が中心のため、デジタル化による効率性の追求や、無駄を削減するサステナブルな工数の確立にはハードルが高かったという。なかでも、一部の工程においては属人性が高く、技術伝承が難しい箇所もあったそうだ。経験則で品質確保が維持できているかどうかを判断する場面もあったため、データとしての蓄積が不足していた。

以前からアシックスではIoTなどの先端技術を活用し、業務を改善できないか探していたという。改善対象にまず挙がったのは、「ソール(靴底)とアッパー(足が入る部分)に熱をかける機器内の温度管理」だ。温度管理は接着の品質――つまり、アッパーとソールが実際に使われてもはがれない強度を確保できるかを左右するという。

だが、IoTシステムを探していたとき、センサーを既存の機器に後付けしようとすると、取り付けコストがかかったり、センサー自体も高かったりと、実験的な取り組みでは難しいと判断し、同社では導入を見合わせていた。そのとき出会ったのがアステリアのGravioだ。なによりも導入コストがキモになったとのことで、「月額500円のプランで始められるということで、これなら上司も説得できるだろうと確信し、上申したところ導入できる運びとなりました」とアシックスの担当者は話す。

一定の温湿度で保存しなければならない天然皮革 倉庫環境もリモートで確認

Gravioを導入したアシックスでは、乾燥させるコンベアー部に温度センサーを取り付け、測定データをGoogleデータポータルによって可視化。1日の温度変化レポートを関係者にメール共有しているそうだ。従来は1日2回アナログ温度計を使って測定していたので、確認に関する手間も低減しているという。

測定データをクラウド系BIツールにて可視化、さらに1日の温度変化レポートを関係者へメール共有

「Gravioを活用することで、微細な温度変化が把握でき、さらにより良い設定へ調整できるようになり、かつ許容範囲内により近い設定へも調整可能になり、第一歩の成果があったと考えています」(アシックス担当者)

また、乾燥機器だけでなく、温度が許容範囲から外れるとGravioライトが赤く点灯し、周囲に通知する仕組みも活用されている。ライトを取り付けるまでは、PCの画面を見て温度状態を確認していたそうだが、PCまで確認に行かなくても離れた場所から温度状態をチェックできるようになった。つまり、管理の負担を軽減しているのだ。

許容範囲内は警告ライトが緑点灯し、加熱機器の温度状況(6カ所)がひと目で把握可能

アシックスでは現在、Gravio活用が進んだことで、当初から利用していた月額500円のプランではなく、上位グレードに移行している。Gravioでできることが社内でも認識され、さらには導入におけるメリットも明確になったため社内承認を得られたそうだ。

いまでは、乾燥機器による乾燥工程の完了を通知したり、材料倉庫における温湿度管理だったりでGravioが活用されているという。とくに、材料倉庫においては、アッパーに使うメッシュ材や天然皮革、ソールが保存してあり、特に天然皮革は一定の温湿度で保存しておく必要があるため、倉庫環境の迅速かつ定期的な確認は不可欠。以前は1日2回程度の確認だったが、現在ではリアルタイムで常に倉庫内の環境を把握できるようになった。また、Googleデータポータルで温湿度を管理しているため、リモートワークなど遠隔地からでも倉庫内の環境を確認可能になったそうだ。

倉庫内4カ所の温湿度の変化をセンサーにて常時計測
クラウド系BIツールにて倉庫内の温湿度をリアルタイム表示、在宅ワークでも倉庫内環境を確認可能

ソールの厚みはレーザー光によって検知・測距 わずか20~30秒で測定完了

アシックスでは2021年からアステリアが提供するLiDAR(レーザー光による検知・測距)搭載のディスタンスセンサーを使った、シューズのソールやその他部品の厚さの測定システムも活用している。

スポーツ業界、なかでもマラソンにおいては、公認競技会におけるソールの厚みについて話題になったのは記憶に新しい。シューズの機能を十分に発揮し、アスリートが安心してシューズを使うためにも、ソールの厚さを正確に計測することはこれまで以上に重要になっている。

以前はノギスを使ってソールの厚みを測定していた。しかし、計測には1足あたり5分程度かかり、弾力をもつソールを正確に測るには、ソールに力がかからないように細心の注意が必要だった。また、測定者の力加減によってばらつくこともあったので、複数の測定者によるダブルチェックが必要だった。それだけでなく、測定後の作業も複雑で、計測値は手書きされ、PCへの入力業務も発生していたという。

アステリアが提供するディスタンスセンサーを使ったところ、計測はわずか20~30秒で完了。測定はレーザー光による検知のため、測定者によるばらつきもなくなった。

同社の担当者は活用方法について次にように話す。

「計測はシューズに取り付けられている管理タグのバーコードを読み取ることで開始、測定した両足のソール厚、シューズの個体識別番号を管理シートへ投げ込み、アスリートのカルテデータと連携することで作業工程のトレースが可能となります。つまり、測定効率と精度を上げつつ、トレーサビリティも実現したのがこのシステムです」

「Gravioの魅力は低コストで新しい取り組みが躊躇なくできること」

アシックスがGravioを活用したなかで、“うまくいかなかった”こともあるそうだ。ミシンにGravioの振動センサーをつけて稼働率やタクトタイムなどを取得しようとしたが、役立つデータを取れなかったという。ただ、アシックスの担当者は「トライ・アンド・エラーが手軽にできるのもGravioのメリットだと思います」という。

Gravioの魅力は月額500円から始められる金額面はもちろん、各種センサーと組み合わせることでさまざまなデータを取得できる点だ。つまりは、アイデア次第でさまざまなシーンにIoTの導入を推進できるのである。一般的なIoT機器だとコストや設置の手間から“簡単に中断できない”ことがあるが、Gravioは、トライ・アンド・エラーを繰り返せる大きなメリットをもつ。

アシックスのフットウエア生産統括部 カスタム生産部長 萩原 祥仁氏とカスタム生産部 生産第2チーム 酒井 大樹氏はそれぞれ以下のように感想を述べている。
―― 萩原 祥仁氏
「スモールスタートができるGravioは、少量多種生産を行うこの特別な生産ラインでさまざまな取り組みをするにはうってつけのIoTソリューションです。無駄を無くすためのさまざまなIoT活用事例をこの場で実証実験し、将来的には量産工場へ展開することで、アシックスの目指す『サステナブルな社会の実現』の原動力になると期待しています」

―― 酒井 大樹氏
「Gravioの魅力は、新しい取り組みが躊躇なくできることです。低コストで自由度も高いので、トライ・アンド・エラーでさまざまな取組ができます。その中から、品質・生産性の向上や無駄の削減が可能となる活用法を見つけ出し、集積したデータから新たな改善につながる情報が得られる環境づくりができつつあると確信しています」

株式会社アシックス フットウエア生産統括部 カスタム生産部長 萩原祥仁氏(写真右)、カスタム生産部 生産第2チーム 酒井大樹氏(写真左)

アシックスでは各シューズの製造工程においてさまざまなデータを取得したことで、今後はこれらのデータを活用し、製造工程における不具合の未然防止や、不良ロットの絞り込みなどにデータを活用していきたいとしている。