短期間でのオフィス移転──それでも伊藤忠テクノソリューションズが、AIカメラによるカフェの混雑度を“簡単に”可視化できたわけ

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CTC 人事総務室 総務部 ファシリティマネジメント課 課長 横瀬裕氏と、CTC 広域・社会インフラ事業グループ 広域・社会インフラビジネス企画室 マーケティング企画部 新規技術推進課の渡邉千里氏(右から順に) ※写真撮影時のみマスク非着用



Gravio画像認識サービスについての調査資料


コロナ禍にはテレワークの推奨とともに、オフィス改革に乗り出す企業も少なくない。なかでも、注目すべきはAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの最新テクノロジーを活用し、感染予防のみならず、今後のオフィス改善も見据えた取り組みをしている企業だ。

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC)は2021年6月、東京都・港区の神谷町トラストタワーに本社を移転した。本社では16階にあるカフェラウンジスペースに、カメラAIを活用した混雑度チェックを導入した。

本移転では、あわせてグループ会社であるCTCテクノロジー株式会社、CTCシステムマネジメント株式会社、CTCエスピー株式会社、CTCビジネスサービス株式会社、CTCビジネスエキスパート株式会社およびCTCひなり株式会社の本社機能も移転。CTCグループの東京地区オフィスを移転統合した形だ。

新オフィスの敷地面積は約1万坪。CTCグループ全体で移動想定人数は約7,300人におよぶ。通常、これほど大規模な移転統合は数年の年月をかけて実施するが、今回CTCグループはわずか9カ月で移転統合を実現した。

そんな短期間の移転統合プロジェクトのなかで実施した、AI画像認識の導入の舞台裏はどのようなものだったのか──。

今回は、CTC 人事総務室 総務部 ファシリティマネジメント課 課長 横瀬裕氏と、CTC 広域・社会インフラ事業グループ 広域・社会インフラビジネス企画室 マーケティング企画部 新規技術推進課の渡邉千里氏に話を聞いた。

Gravioだったら簡単に実装できそう!

今回、CTCが16階にあるカフェラウンジスペースに導入したのはアステリア株式会社が提供しており、CTCが販売の代理店を務める、ノーコードでAI/IoTを構築できるミドルウェア「Gravio(グラヴィオ)」だ。

Gravioは法人向けのGravio Standardで月額2万円(税別)からと安価で、手軽に導入できるため、さまざまな企業で導入が進んでいる。たとえば、ネットワークカメラを使いAI画像認識技術による人数をカウントすることで、“人の密集”を検知したり、付属のCO2センサーを使うことで室内のCO2濃度から“人の密集”を類推したりできる。

CTC 人事総務室 総務部 ファシリティマネジメント課 課長 横瀬裕氏 ※写真撮影時のみマスク非着用

CTCがカメラAIを活用した混雑度チェックを導入した狙いは、感染拡大防止だけではなく、さらにその先にあるオフィスの効率利用(分散利用)、データをもとにしたオフィスの再設計も見越したものだ。

なぜ世の中に存在する数あるサービスのなかから、Gravioを選んだのか? 横瀬氏は当初はほかの製品も検討してみたものの、それでもGravioを選ぼうと思った理由をこう語る。

──横瀬氏

「コロナ禍における出社勤務では、ソーシャルディスタンスを保ちながら働くことが重要です。社員が出社した際に『今、自分が座りたい場所にはどれぐらい人がいるのだろう?』というのが簡単な設備で、視覚的にわかるようなシステムがあれば良いという思いがありました。今回はその第1弾として、“お試し”で16階からカメラAIの導入を始めました。

実は、ほかの製品も検討してみたのですが、ほかの製品はアンテナを多く設置する事や、定期的に電池の交換が必要といった課題がありました。Gravioは普通の電源で、視覚的に一目で見てわかるシステムを簡単に構築できるので選びました」

CTC 広域・社会インフラ事業グループ 広域・社会インフラビジネス企画室 マーケティング企画部 新規技術推進課の渡邉千里氏 ※写真撮影時のみマスク非着用

また、CTCの実装メンバーの1人である渡邉氏はもともとデータベースを専門としており、AIやIoTに関しては「まだまだ下っ端」と謙遜。Gravioに決めた理由については「導入の決め手は『Gravioだったら簡単に実装できそう!』と考えたことだと思います」と振り返った。

──渡邉氏

「弊社はIT企業なので、オフィスを統合移転する際、ただ移動するわけではなく、『せっかくならば新しいことやろう』という風向きが社内にありました。

私はもともとデータベースを担当しており、去年からAIやIoTを担当し始めました。Gravioについてよく知っていますが、業界全体を見渡せば私はまだまだ下っ端です。弊社はGravio販売の代理店契約を締結していることもありますが、導入の決め手は『Gravioだったら簡単に実装できそう!』と考えたことだと思います」

渡邉氏が語るとおり、Gravioの強みは実装が簡単であることだ。Ledge.ai編集部のインターンでAI開発未経験の「文系大学生」でも、AIを活用した「人数検知カメラ」はたった2時間、「3密検知ソリューション」はたった30分でゼロから実装できたほどである。

Gravioの導入そのものは「簡単だった」

一方で、CTCにおけるGravioの導入は短期間の移転統合プロジェクトの最中のため、ほんの少し苦労する場面もあった。それでも、Gravioの導入は「簡単だった」ため、無事乗り越えられたようだ。

ドームカメラ ※写真はイメージです

第一に、工事中でオフィス家具をまだ搬入していない段階で、カメラの位置を決めなければいけなかった。カメラは導入にあたり、事前に使用していた人の手で調節する必要があるボックスカメラから、途中からリモートで調節できるドームカメラに変更した。しかし、思わぬ事態が起きた。

渡邉氏は当時をこう振り返る。

──渡邉氏

「実際に業者の方にドームカメラを施工していただいてつないでみたら、フロアがすべて映らなかったんですよ(笑)。違うカメラなので、焦点距離などの問題で、引いた状態でもすべて映りきりませんでした。『カメラの設置は立ち会って、画像を見ながら微調整しないとダメなんだな』ということがわかりました。

急遽、画像を認識しやすいように、カメラの位置を後ろに下げたり、レンズを変えたりする検討をしました。たった1ミリの違いがこんなに響くとは思いませんでした。Gravioの導入そのものは簡単だったこともあり、無事構築スケジュールに影響を与えず終えられました」

第二に、セキュリティ上の都合でカメラAIを設置する際にはクラウドではなく、エッジで完結させる必要があった。しかし、この課題はGravioでは簡単に解決できたという。

IoTゲートウェイ「Gravio Hub」

Gravioは契約するだけで、温度・湿度・大気圧を検知する「クライメートセンサー」、ドアや窓の開閉情報を送信する「ドア・窓開閉センサー」など、目的に応じたセンサーに加え、法人向けのGravio Standard以上のプランではIoTゲートウェイ「Gravio Hub」を提供してもらえる。

Gravio Hubはカメラやセンサーなどから送られたデータを現場で取りまとめる機器で、小さいパソコンのようなものだと考えれば良いだろう。渡邉氏はこのGravio Hubがセキュリティの課題解決につながったと教えてくれた。

──渡邉氏

「『エンタープライズあるある』なのですが、弊社はネットワークのプロキシが非常に厳しいです。その影響で、当初、Gravioにログインができませんでした。社外に1回認証をかけて戻ってくるという仕組みがあるのですが、それがでなかったからです。しかし、結果的には『Gravio Hub』をサーバーの近くに設置することで、ローカル認証をしてすべてクラウドではなくエッジで完結できました」

短期間の移転統合プロジェクトの最中のため、予想外の事態は付きものだ。これらのハプニングは「Gravioの導入そのものは簡単」であり、セットでGravio Hubも提供しているからこそ、乗り越えられたと言えるだろう。

カバー領域をカフェラウンジ全体に拡大しようという声も

CTC 人事総務室 総務部 ファシリティマネジメント課 課長 横瀬裕氏と、CTC 広域・社会インフラ事業グループ 広域・社会インフラビジネス企画室 マーケティング企画部 新規技術推進課の渡邉千里氏(右から順に) ※写真撮影時のみマスク非着用

現在、CTCではGravioを導入したことで、感染拡大防止のための「ソーシャルディスタンス確保」という当初の狙いは果たせた。CTCはすでに社員向けに混雑モニタリングWeb表示を開始している。社員ならば誰でもパソコンやスマホから、Webでカフェラウンジスペースの混雑を確認できるシステムだ。

システムの実装に関わった渡邉氏は「CTCとしてカフェテリアでも新しい取り組みをしているというアピールになる」ことに期待していると語った。

──渡邉氏

「カフェラウンジの混雑については社内のサイトで公開され、社員はすぐに混雑情報にアクセスできます。社員からフィードバックのみならず、新しいオフィスにGravioを導入したことで、カフェラウンジでも新しい取り組みをしているというCTCとしてのアピールになるのではないかと期待しています」

CTCではGravioを導入したことで、オフィスの効率利用(分散利用)、データをもとにしたオフィスの再設計にあたり必要となる、社員がどの時間帯やどの席に多く座ったり、あまり座らなかったりするのかという傾向も明らかにできた。

時間帯では朝、場所では窓際の座席や周囲が囲われた場所が利用されやすいという。今後、このようなデータを利用してどのように再設計を図っていくのか? 横瀬氏は展望をこう語る。

──横瀬氏

「今後の展開としては、人気がある場所と人気がない場所がわかるので、その理由を社員に聞いてみたいと思っています。人気がある場所は『居心地が良い』とか『座りやすい』とか、人気がない場所は『この座席は使いづらい』とか『この座席は座りづらい』とかという意見をもらえると、あまり使われないスペースを使ってもらえるようにどう変えていくのかということにデータを活用できます」

横瀬氏が「新オフィスのなかで1番みんなに使ってもらいたい」と語るのが16階にあるカフェラウンジだ。カフェラウンジは仕事や休憩だけの利用ではなく、これまでオフィスが離れていたグループ会社の社員たちの「出会いの場」として活用してほしいという。

今回の取材では、短期間の移転統合プロジェクトの最中でも無事実装でき、実装メンバーも導入について「簡単だった」と語るGravioの話を現場担当者から聞けた。現在、CTC社内にはカメラAIでカバーする領域をカフェラウンジ全体に拡大しようという声もある。CTCの新オフィスでの今後の取り組みにも注目したい。

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Gravioは法人向けのGravio Standardで月額2万円(税別)からと安価かつ、ノーコードでAI/IoTを構築できるミドルウェアだ。

当初からの導入も可能だが、既存のネットワークをそのまま利用することで、新規に大きな投資をせずに“後付け”で環境整備することも可能である。気になる人はGravio公式サイトをのぞいてみてほしい。