一問一答:「AIとデジタルツインでサプライチェーンは再構築できるのか」

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AI関連メディア「Ledge.ai」を運営するレッジは、さまざまな企業や業界からAIのスペシャリストを招き、「各業界の課題や最新事例」を「AIをはじめとするテクノロジー」の観点から、パネルディスカッション形式で語り合うウェブセミナー「Ledge.ai Webinar」を定期的に開催しています。

8月24日(火)に開催した回では、「AIとデジタルツインでサプライチェーンは再構築できるのか」をテーマに、サプライチェーンや社会インフラにおける課題を解決するソリューションを提供する株式会社グリッド代表の曽我部 完氏が登壇。曽我部氏によるプレゼンテーションをはじめ、「サプライチェーンの再構築」をキーワードに、企業がサプライチェーンを可視化・最適化するにはどうしたらよいのか?といったテーマを語るパネルディスカッションをお届けしました。

本記事ではウェビナーで視聴者からいただいた質問の回答を一問一答形式でお送りします。より詳しく内容を知りたい方は、記事下段にあるフォームに必要事項を記入し、アーカイブ視聴をお申し込みください。視聴可能なURLをお送りいたします。

こんな方におすすめのウェビナーです

  • サプライチェーンを可視化・最適化したい方
  • SCM管理組織を強化したい方
  • サプライチェーンの課題をテクノロジーで解決する方法を学びたい方
  • 現業でサプライチェーンに関わる業務を担当されている方

登壇者紹介

株式会社グリッド 代表取締役社長
曽我部 完

2009年にGRID創業。機械学習/深層学習AI開発プラットフォーム「ReNom」を開発・提供。「インフラライフイノベーション」を使命に、サプライチェーン、エネルギー、交通、通信などの社会インフラを中心にAI開発に取り組む。各分野のドメイン知識とAI技術を融合させ社会インフラの様々な課題解決事業を展開する。

Ledge.ai 編集/広報
高島 圭介(モデレーター)

前職では、PRコンサルタントとしてBtoB企業を中心に、数々の企業のメディアリレーションを担当。Ledge.aiでは最先端のAIビジネス活用について数々の企業に取材するとともに、レッジ自体の広報活動も行なっている。

Q.ReNom Appsは、GEが提唱しているデジタルツインというよりは、シミュレータの色合いが強いように思いますが、そのような理解でよろしいですか?

A.はい

ReNom Appsはプラントのタービン、自動搬送機向けといった特定分野ではなく、汎用的なモジュールを組み合わせ、企業のあらゆるものを再現するためのアーキテクチャーです。顧客の業務やサプライチェーンを再現するためのかたまりのようなものがあって、その上にドメインナレッジを乗せ、やりたい計算をかけていくという考え方のプロダクトなので、通常のシミュレーターよりは汎用的に使用することができます。

Q.デジタルツイン、シミュレーターを構築するために、どのような追加的な設備投資が必要でしょうか。また、構築までどの程度の期間を見ておくべきでしょうか。工場、生産ラインのサイズによると思いますが、一定の仮定をおいてご教示ください。

A.設備投資は基本的には必要ない。構築までの期間は最短3ヶ月程度

基本的にはクラウド上で動くので、設備投資は必要ありません。IoTとはちがい物理センサーは不要です。そのうえでどこまで粒度を細かく再現するか条件を考える際に、たとえば生産ラインにおいては時間単位でどれくらい生産性があるのか?などの情報を集めるのにみなさん苦労されているイメージですね。

期間としては、あるクライアントから特定の製品の特定のプロセスに絞ってシミュレーションを行いたいというオーダーに対して、3ヶ月程度で計算できる状態にまで持っていけました。

Q.デジタル化されていない機材からの情報はどのようにデジタル化するのでしょうか?ITとOTがクロスするところのカバーはどうやるのか?

A.現場の情報をもとに再現するための計算式を作成する

たとえば液体プロセスであれば、これくらいの原料いれたらこれくらいのリードタイムでこれくらいの量ができあがる、という生産性の目安を各現場で持たれているものです。それらの情報を式にして再現していきいます。

Q.本日のご講演では、需要は予測出来ないので様々なシナリオをシミュレートすることの利点のご説明があったかと思います。一方で、弊社ではAIを活用した需要予測が社内のテーマとして挙がっております。需要予測にリソースを掛けようとしていることについて、ご意見やご経験を紹介頂ければ幸いです。

A.予測を過信するのではなく、外れる前提の計画を立てる

需要予測の手法には線形近似、機械学習、ディープラーニングなどさまざまな手法があり、それぞれのモデルに特性、良し悪しがあることを理解する必要があります。基本的には、学習理論上、今あるデータに過剰にフィッティング(過学習)という宿命があるので、状況が変わったときにアウトプットが乖離してしまうのは避けられません。説明変数も調べてみると数変数しか効いていない、というのはよくある話です。

ですので、予測する際には確率分布で考えるべきです。最小値と最大値がわかった上で実行するのと、絶対に〇〇の数値なんだ、と考えるのとではとるべき行動も変わってきます。その上で、予測値が100%当たるというのは起こり得ないので、上振れ、下振れした際にどうするかまで織り込んでプランを考えるべきです。予測というのは基本的には当たらないので、フォーカスしすぎないほうがいいと思いますね。

Q.カーボンフットプリントの排出量は工場レベルで表示されるのでしょうか?工場のサイバーセキュリティ対策も可能でしょうか

A.はい

デジタルツインではどの工程で、どの時間帯で、どのプロセスで、どれくらいCO2を出すのかまで細かく計算できるので、可能という答えになります。サイバーセキュリティについては考えたことがなかったので、個別でご相談ください。

Q.排出量が分かったとして、それをどのように解決していくかのソリューションもAIで提示してくれるのでしょうか?

A.基本的には導入企業が計画を考える

導入いただいている企業様はいくつかの使い方を考えられていて、たとえば拠点の統廃合などですね。排出量とコストのバランスがいい場所はどこなのか、サプライヤーはどこから仕入れるのが一番コストと排出量のバランスが取れるのか。コストと販売機会ロスといった指標の横にCO2排出量というファクターがある状態で意思決定が可能です。ビフォーアフターが見えるので、基本的にはそこからどうするのか、導入企業様に考えていただくイメージですね。

Q.IoTでつながればつながるほど、サイバー攻撃のリスクが高まると思いますが、デジタルツインを作成しておくことでその対策になったりするのでしょうか?どのような対策をとっていますか?

A.デジタルツインで可視化するものと、IoTでデータを取るものは分けて考えるべき

仰るとおりで、IoTでつながることでサイバー攻撃のリスクは高まります。ただデータをとっても有効に使われないケースも多いです。データに偏りもあったりしますので、人間がすでにわかっていることが可視化されるだけといったことも多いです。

デジタルツインでは事前に明日運行するのであればどこに誰がいるのか、データを取らなくてもイレギュラーがない限りこう動いているはず、というふうにシミュレーションできることが利点なので、IoTでデータを取るものとデジタルツインで計算するもの、分けて考えるべきです。不確実なものの動きを見るにはIoTのほうが向いているので。

Q.製造や物流において、計測可能な生産や配送活動と、対応する二酸化炭素排出の関係式やパラメーターの作成は、どの様に実施することになるでしょうか?過去の一般化されたナレッジで十分な予測精度で利用可能なものでしょうか?

A.一般化されたデータベースを活用する

環境省が出している、この原料でこれを製造するとこれくらいのCO2を出しますよ、という排出量の目安が網羅されているデータベースがすでにあるので、基本的にはこれを目安として計算することが可能です。

Q.製造工程でどこかの機器が故障しているなど、アウトプットが低下していればそのラインが故障していることは可能ですが、部分として捉えることも可能でしょうか。

A.IoTでないと難しいが、意図的にデジタルツインで故障を引き起こしてのシミュレーションは可能

故障検知はIoTではないと難しいので、基本的にはシミュレーションでは行いません。摩耗モデルがあれば、摩耗係数をシミュレーションに入れるなどで対応は可能ですが、すべての機種が絶対に壊れるわけではありません。

ただデジタルツインであれば意図的に故障やメンテナンスを引き起こすことができるので、たとえば生産ラインが一定の期間故障したときに、適切にデリバリーができるのか、といったシミュレーションが可能です。

Q.長期的な利用を考えた際、ビジネスルールの更新など、デジタルツインが初期立ち上げから徐々に実態と乖離する可能性もあると想像しました。例えばこの点では何か施策も行われるのでしょうか(顧客先にデジタルツイン技術を使いこなす人の育成を行うなど)

A.開発メソッドが用意されている

デジタルツインを再現する際の開発メソッドをご用意しています。構築の際は、演算のパーツをプログラミングのシーケンス図のように細かく組み合わせていくので、パーツがどう結合されているのか、プログラミングできる人であれば改修できるような配慮をしながら開発を行います。再利用性も高いので、同じような計算であればほかの領域でも再利用できます。

Q.平常時や多少の景気変動に加え、10年に1度のような非常に大きな需要変動にも今回ご紹介頂いたシステムはカバー出来るという理解で宜しいでしょうか?

A.各企業のBCPの想定している範囲による

いきなり特定の製品の需要がとんでもなく減った、サプライヤーがいきなり50%減ったなど、想定していないような状況のシミュレーションは困難です。結局のところどこまでシナリオを想定しているか、なので、想定しているBCPのシナリオの範囲内であればシミュレーションすることは可能です。

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