量子コンピュータのビジネス活用は10年以内に実現か グリッド代表取締役・曽我部氏が語る

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株式会社グリッド 代表取締役 曽我部完氏。写真はグリッド社による提供のもの

一般財団法人バイオインダストリー協会は8月24日、同協会初となる「量子コンピュータ」の勉強会を開催した。

本勉強会では、株式会社グリッドの代表取締役である曽我部完氏が登壇し、「量子コンピュータの現在と未来」をテーマに、最先端の量子コンピュータを取り巻く研究開発の状況と共に将来的な応用の可能性について講演した。

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グリッド社は、インフラ分野を中心としたAI開発を行ってきたAIベンチャー。量子コンピュータに関しては、2019年4月に量子コンピュータ向けアプリケーション開発フレームワーク「ReNom Q」を開発。同年の9月からはIBM Q Networkに参加し、IBMが提供する最新の汎用近似量子コンピュータでソフトウェア、アルゴリズムの開発を進めている。

「10年以内には量子超越性が実ビジネスにおいて実現するのでは」

曽我部氏は本勉強会で、「ハードとソフトそれぞれで技術的な大きな課題がある。ひとつはソフト面で、量子コンピュータ上で計算させる量子回路をつくるのが非常に難しい。もうひとつハードウェアの課題として、ノイズの影響で計算させても正しい計算結果を出すことができず量子エラーの発生がある」と話す。

量子コンピュータハードウェアの開発は、大手企業からベンチャー企業まで、世界中で取り組まれている。量子コンピュータへの期待が先行している部分も一部あるが、実ビジネスでの活用には越えるべきハードルがまだあると、曽我部氏は考えている。

しかし、曽我部氏は世界中での研究が進んでいることを踏まえ、「5年以内には量子エラー問題が解決され、10年以内には量子超越性が実ビジネスにおいて実現できるのでは」と期待を寄せている。

「電子がその軌道に入っているかどうかを量子ビットの0、1で表現可能」

また、量子コンピュータの活用が期待されている化学分野における量子化学計算をするメリットについても曽我部氏は、「量子コンピュータは分子中の電子の量子力学的な動きをシミュレートしているので、化学計算との相性が良い」「分子軌道を量子ビットに割り当てることで、電子がその軌道に入っているかどうかを量子ビットの0、1で表現することが可能」という。

くわえて、量子化学の計算手法として期待されるアルゴリズムである「Variational Quantum Eigensolver」(VQE)についても「VQEは物質の分子軌道の基底エネルギー値計算に用いられるアルゴリズムで、量子化学計算でも必要になる励起状態の計算も可能にするためのポテンシャルがあるアルゴリズム。だが、VQEで量子化学計算が求める計算性能を実現することは現実的ではなく、アルゴリズムの大幅な改善、もしくはまったく異なる概念のアルゴリズムを生み出す必要がある」と述べる。

「そこまで遠くない将来にブレイクスルーが起きると信じ研究を重ねている」

そして曽我部氏は、現状の量子コンピュータの方向性を「量子コンピュータの特性が活かせる計算のみを量子コンピュータ上で行ない、ほとんどの計算は古典コンピュータで計算する『量子古典ハイブリット』が主流となっている」と話した。

しかし、現状では実問題を解けるようになるまでにはハードウェア、アルゴリズムのブレイクスルーを数回重ねる必要がある。これについても、「時間はかかるが、そこまで遠くない将来にブレイクスルーが起きると信じ研究を重ねているので、技術の進歩を是非注目していてほしい」といった。

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グリッド社の取り組み 出光興産がAIで配船計画を最適化した事例も

グリッド社では量子コンピュータの研究だけでなく、AI開発におけるGUIツールである「ReNom」の展開や、深層強化学習などのAI技術を活用する「最適化」にも取り組んでいる。

直近のニュースでは、6月30日に出光興産株式会社とともに「内航船による海上輸送計画の最適化」の第一弾となる実証実験を完了したと発表している。

出光興産とグリッドによる実証実験は、石油元売り業界の喫緊の課題であった熟練担当者の経験や職人技に依存した配船計画策定を、AI最適化技術を用いて最適化および自動化を目指すというもの。

実証実験では、製油所から油槽所に製品を海上輸送する現実の配船オペレーションを再現するシミュレータ構築およびAI配船最適化モデルを構築し、AIによる最適な配船計画策定を実現した。

プレスリリースによれば、過去の実績データとAIによる配船結果を比較検証したところ、安定供給を実現しつつ輸送効率を最大20%程度改善できる配船計画の作成に成功したという。さらに、計画立案速度も格段に向上し、これまで計画立案に要していた時間のおよそ1/60まで削減できた。これは、約1ヵ月の計画を数分で立案できるほどだそうだ。

詳しくは、下記リンク先の記事を読んでほしい。