「人間の本能としての多様性」が顕在化しつつある

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Netflixなどに使われているレコメンデーション技術によって、私たちは自分が思いもよらない作品に出会うことが可能になり、天候や顧客データを加味した商品の需要予測によって、欲しい製品を高い確率で手にすることが可能になった。AI技術はすでに、生活の「屋台骨」としての機能を持ち始めている。

今回インタビューしたAIと量子コンピュータを組み合わせたソリューションを提供する株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長の最首英裕氏は「AIが量子コンピュータと組み合わさることで、『より人間らしい温かみと豊かさ』を持つ社会になる」と語る。

同氏へのインタビューを、前後編にわたってお届けする。今回は前編。

後編はこちら:量子コンピュータとディープラーニングで、人間は救われる

人間は「その土地に生きる生き物」でしかない

量子コンピュータ、ディープラーニングと、字面だけ見ると、話題の技術にいち早く取り組めているように映る。しかし、それら先端技術の普及に取り組むのは、最首氏の人間社会に対する捉え方があった。

――最首
「人間を生き物として捉えると、企業の所有物ではなく、たとえば東京に生きているなら、その人は東京という土地に生きる生き物、でしかない。

そして土地全体を人間という生物が共生している空間だと考えたときに、企業活動は都市空間を快適にするため、継続的に富をもたらすという点で重要です」

一方、一人ひとりが特定の企業組織に属する必要があるのかは疑問が残る。ましてや、人口減少社会という課題に直面する今こそ、働く場所や時間、仕事内容ひとつとっても、一人ひとりの働き方を最適化できる仕組みが必要だ。

個人の強みを活かして短時間の労働で別々の企業を支援することで、人間が生きている空間全体を効果的に運営していくという選択肢もある」と最首氏は言う。

――最首
「人間が生きている空間全体を豊かにすることが、ある意味で人間がもっとも目指していることに近い……それは統制経済といった観点ではなく、豊かさの追求と多様性のバランスをどう図っていくのかを考えるべきです。

都市全体の効率良い人材配置と捉えると、昨今、企業で短時間労働を推進する取り組みが進んでいるのは、多様性を求める現代の潮流と重なります。

ビジネスにおいても、近年は自社だけの個別最適を目指す考え方ではうまくいきません。MaaS(※)も移動手段のことだけを考えるのではない。人間は目的を持ってどこかに移動するとした場合、目的地での快適な過ごし方もサービスとして提供できたらいいはずです。

年齢や性別といったステレオタイプに当てはめるのではなく、何をその先で求めるかは個人の自由であり、一人ひとりの個性の多様性を受け入れ、それに応じた快適な空間をつくること。ただ、現状そこまでたどり着いていないのは、都市機能の最適配置ができていない、その解がまだ導き出せていないからだと思います」

MaaSとは
MaaSは、ICTを活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念。
出典:国土交通省資料

人間の本能としての多様性が顕在化してきた

今社会には、人口が減るのに多様であることを許容しようという潮流がある。その逆行する状態をどう解消するかの部分に答えを出せるかが大きい、と最首氏は言う。

――最首
「たとえば、子どもの教育だってそうです。良い大学に入学することだけがすべてではなく、子どもにとって学ぶべきものの本質は何なのかを考えることが大切だと思います。教育現場という確立された枠組みから一歩引いて捉えると、大人には子どもに何か自分の得意分野を教える、ということができます。

つまり、大人の数だけ先生がいる。プロフェッショナルという先生がいなくなることもないが、先生だけが教える人ではないとも言えます」

多様性を許容する傾向は、未来が不透明であればあるほど現れてくるという。一方で、「周りと同じにする」という同調圧力が強い、とも言われる日本においてはどうか。

――最首
「もちろん、みんなと同じようにしたい人もいるでしょう。そういう意味で幅はありますし、幅があることこそが多様性です。多様性こそが人間の本性だとすれば、それが現代になって顕在化してきた背景には、劇的に変化し続ける未来を想像できないことにあります。

一様に同じようなことをしていると、何かが起った際に一斉に滅びてしまう。生活に危険がなくなり、安心・安全な社会だからこそ、素直に人間の本性が顕在化してきたのだと思います。そして、選択肢に幅があるからこそ、人間は個の可能性を広げることができるのです」

本能的に許容できない不合理を解決するのがテクノロジーの存在意義

最首氏が量子コンピュータに注目したきっかけは何だったのか。

――最首
「そもそも、量子コンピュータありきでサービス化したわけではありません。しかし、AI、特にディープラーニングを突き詰めると使わざるを得なかった。

たとえば、コールセンターにかかってくる電話の本数をAIで予測したとする。その後、重要なオペレーションとしてあるのが、その予測結果に基づいてオペレーターのシフトを組むということ、つまり組合せ最適化の問題になるわけです。AIの精度を向上させ、より正確な予測ができるようになればなるほど、AIの出口として最適な状態を設計することが求められるのです

2017年末ごろから、未来予測に加えて最適解を導くソリューション開発の構想を練っていた。その際、技術トレンドや進歩をみながら、行き着いたのが量子コンピュータだったという。

2018年初夏には、独自の量子アルゴリズムの開発を実現。量子コンピューティングマシンとして、カナダを拠点とする量子コンピュータ企業であるD-Wave社の「D-Wave 2000Q」で試しに動かしてみたところ、実業務で使えるレベルのいい結果を出すことができたため、商用サービスとして提供するに至ったという。

グルーヴノーツは、ノンプログラミングでディープラーニングによる未来予測ができるクラウドプラットフォーム「MAGELLAN BLOCKS(マゼランブロックス)」を提供している。2019年4月には、前述の量子コンピューティング技術を活用した組合せ最適化ソリューションの提供を開始した。

これにより、小売業や交通業の勤務シフト、運輸業の配送ルートの最適化が可能になる。現在はD-Wave社以外のハードウェアでも動作検証を進めているという。

――最首
「人間は働き方においても多様であることを求めていると思います。朝9時から夕方5時までの勤務ですらなく、週休3日や4日も許容する世界です。一方で、それは現実の社会ではまかり通っていない。

仮にAIと量子コンピュータで、そのときの業務量、数時間だけ働きたい人、必要なスキルなどを考慮して、うまく仕事の割り振りができたら、働き方の課題が解消するのではないかと考えています

▲機械学習と量子コンピュータを組み合わせたソリューション
出典:グルーヴノーツプレスリリースより

世の中を効率的、合理的にしたいのではなく、目の前で困っている人を助けたいと最首氏は言う。

非効率な業務や不合理な意思決定は人件費を圧迫し、企業にダメージを与える。しかし、人間が非効率・不合理を嫌う理由は、もっと本能的なものだと最首氏は言う。

――最首
そもそも世の中は不合理・非効率が常です。たとえば今、ビルの下に車がたくさん走っていますが、そもそも移動は必要でしょうか? 会おうと思えば、オンラインで会ってもいいはずです。

つまり、不合理・非効率には、本能的に許容できる部分とできない部分があり、許容できない部分こそが、社会が感じている課題そのもの。その解決にテクノロジーを使っていきたいと考えています」

後編はこちら:量子コンピュータとディープラーニングで、人間は救われる