グノシーの考え抜かれたデータ活用戦略 「小さく試す」重要性とは

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情報キュレーションアプリ「グノシー」は、独自のアルゴリズムを活用することでユーザーごとに異なる記事を届けている。

その裏側には、さまざまな「データ活用」が隠されていた。





グノシーだけでなく「ニュースパス」などを提供する株式会社Gunosyの取締役 最高データ責任者(CDO)の大曽根圭輔氏に、データ活用の事例から、なぜ必要なのかという活用メリットなど、これから“真似できるデータ活用方法”を聞いた。

貯めたデータを活用したコンテンツ編成

――大曽根
「グノシーの特徴は、アプリ上では同じ見た目でも、ユーザーごとに届いている記事が異なることです。ユーザーが読みたい記事をバランスよく提供することで、ユーザー側も無駄な時間を使う必要がなくなります。結果として、アプリを気に入ってもらえて、それぞれの記事のPVが上がったり、アプリ自体の利用頻度が高くなったりしています」

この記事を読んでいる方のグノシーと、筆者のグノシーでは読める記事が微妙に違うはず。これはデータ活用と独自のアルゴリズムによるもので、それぞれのユーザーに最適な記事を届けている。

――大曽根
「グノシーというアプリは10代~上の世代まで幅広い層に使っていただいています。そのため、多くの人が注目しやすい『エンタメ』『スポーツ』などを中心としたコンテンツを編成することにしました。

サービス提供開始時のグノシーは、ユーザーごとに最適な記事を届けることだけに注力していたのですが、いま現在は『世間一般で注目されている/注目すべきニュース記事』と『ユーザーごとに興味を持ちそう/欲しいであろう記事』をバランスよく配信するようにしています。このバランスよく配信することにたどり着いたのも、結局はデータをコツコツ貯めて活用したからです。

さらに、配信内容のバランス調整にともなってマーケティングメッセージを『あなたの好きなニュースを届けます』から『旬なニュースを一気読み』のような内容に変えたことで、ダウンロード数も急上昇しました」

データ活用をするためには、データを集めなければいけない。記事のPVなどは解析ツールを使えば簡単にわかるが、Gunosy社ではユーザー属性の判別は何を活用したのだろうか。

――大曽根
「ユーザー属性を調査するために『アンケートを取る』といった手法も使っていますが、グノシー内にある『占い』の回答結果も参考にすることもあります」

Gunosy社ではグノシーに掲載している記事はもちろんのこと、さまざまなコンテンツからユーザーデータを取得している。集めたデータをユーザー体験などを通して還元することで、ユーザーにとって「使いやすい」「使いたくなる」サービスにしているのだろう。

データ活用は意思決定とコスト効率で役に立つ

いま、Gunosy社のように「データ活用」によって良い結果を出した企業の事例が増えている。こういった事例に作用され、漠然と「自社でもデータ活用をしないといけない」と思い立つ企業が増えているのも事実だ。そもそも、データ活用にはどのようなメリットがあるのだろうか。Gunosy社では「意思決定」と「推薦やコスト効率」のふたつの側面にあると考えている。

――大曽根
「データ活用に対して理解のある方であれば当然のことだと思いますが、データから突然何かが生まれることはありません。データとは、何か施策などを実施したあとに出てくるものです。たとえば、スマートフォンアプリで新しい施策を打ち出したら、『どういうユーザーに』『どんな施策がウケているのか』。もしくは、『既存機能のほうがよかったのか』など、その施策が良かったのか悪かったのかの判断材料になるんです。

なので、データだけあって、それ以上は何もない……というのは本来あり得ないことです。何かをやった結果がデータで示されます。しっかりデータを使えば、実施した施策などの評価基準になるので、最終的には意思決定として役立てられます」

サービスをブラッシュアップする際なども、逐一データをもとに意思決定をすることで、「何が良くて何がダメなのか」「新しい施策を続けるべきかやめるべきか」「次の施策はどういった方向性がいいのか」などの判断にもつながりそうだ。

――大曽根
「意思決定も重要ですが、推薦やコスト効率などにおいてもデータ活用は非常に役に立ちます。

グノシーのユーザーの話をすれば、短時間でほしい情報を手に入れられれば満足ですよね。実装している『好みの記事を推薦表示する機能』は、ユーザーの好きな記事やその傾向をデータとして取得し、分析することで活用しています。こういった属性データは過去ログからも集められます。

さらに、広告配信でも推薦表示は重要視されています。グノシーアプリ内では広告枠を設けていますが、むやみやたらに広告を配置したからといっていい結果につながるとは限りません。

たとえば、一般的な化粧品の広告があったとき、男性に比べて女性のほうが刺さる可能性は高いですよね。それなら、男性には同様の表示はさせず、異なる広告を出したほうがいい、という提案もできます。そのほうがクライアント側にとってもコストの最適化・効率化が可能になります」

Gunosy社での活用事例は、扱いの中心が「記事」「UI」というだけで、ユーザー体験であったり、コストの効率化であったりする側面は、ほかの企業や事業に置き換えても成り立ちそうな話だ。

新機能はスモールスタートとオフラインテストで試す

では、実際にデータ活用をするため、そのデータをどうやってサービスなどに落とし込むのか。実際にグノシーでの実施例を聞いた。

――大曽根
「グノシーでは、当然ながら日々さまざまな新機能のテストや実装を繰り返しています。その新機能については、先に言ったようにデータに基づく判断で実行されますが、いきなり『全ユーザーのアプリ全体に実装する』ということはやっていません。

新しい機能はスモールスタートを基本としています。たとえば、まずは全体の10%のユーザーだけに対して実装して、評判が良かったら徐々にその割合を増やしていき、最終的な本実装段階で全ユーザーに実装する形で進めているんです」

いきなりすべてのユーザーに「新しい機能を実装しました!」とすると、仮に新機能の評判が悪かった場合、その機能開発や実装に関わるコストが無駄になる可能性がある。これを防ぐ意味としてもGunosy社ではスモールスタートを基本としているのだ。

――大曽根
「実はスモールスタートの前に『オフラインテスト』も実施しています。これは、過去ログに対して、新機能をテストすることを指します。蓄積されたデータに対して『本当に新しい機能は需要があるのか』などを判断しています。

データをもとに判断したからといって、必ずうまくいくわけではないですよね。ですので、『試す環境』を何段階かで用意して本番に向かう流れが効果的なのではないかと思っています」

AI(人工知能)でもPoC(概念実証)のように、最初に小さくテストすることはよくある話だ。いきなり本実装することへのリスクヘッジにもつながるし、何段階かでテストすることで新たに見えてくる課題などもあるだろう。

正式実装をするまでに適応ユーザーの割合を徐々に増やしていく手法は、多くの企業で真似できそうだ。

「データを成型する専門部隊」を作る認識を持つ

ところで、今回インタビューさせていただいている大曽根氏は冒頭で紹介したように「CDO」という役職に就いている。CDOとはChief Data Officerの略で、いわゆるCxOのひとつだ。日本ではあまりCDOというポジションは多くないが、グノシーでこの役職を用意した理由はどこにあったのだろうか。

――大曽根
「データを活用したり、貯めたりするのにはコスト(=お金)がかかります。さらに、Gunosy社のように『データをどんどん活用するぞ』という会社では、戦略的にデータを使うことが求められます。そのためには、人や組織を横断的に動かす必要があるんです。ですので、最高経営責任者と呼ばれるCEOに近いポジションを取ることになりました。

海外ではCDOという役職は一般化しつつあります。『データをどのように資産化するのか』を求められるポジションです。CIO(Chief Information Officer、最高情報責任者)とは異なり、社内インフラ事情だけに目を向けるのではなく、CDOは提供するサービスを使うユーザーなど対外的な役職でもあります」

大手IT企業ではGunosy社同様にAIやデータ活用において「会社全体で横断的に動く部隊」の設立が相次いでいる。なぜ、このような部隊がいま注目を集めるのだろうか。

――大曽根
「ひとえに『データ』といっても、事業部ごとに貯めているデータが異なるんですよね。それこそ、値が違うこともよくある話です。それを『値を全社的に統一してほしい』などと言っても事業部ごとにコミュニケーションを取ると、労力だったりコストだったりがかかります。CDOという役職に就いたのには、コミュニケーションを円滑にする理由もあったんです」

これまたよくある話で、「いざ、データ活用をはじめよう!」となったとき、部署ごとに扱うデータが異なるため、そもそも分析までにたどり着くための整形が追いつかない、という話がある。Gunosy社ではこの事態を防ぐため、専用の部隊を作ったというのだ。

――大曽根
「Gunosy社には2019年に設立したGunosy Tech Labというものがあります。機械学習や自然言語処理の技術を用いたアルゴリズムを基軸としたエンジニアリング力を最大の強みとしていて、その強みをより強固にするために設立しました。

頻繁に『Data is oil』と言われますが、データはしっかり整えないと、最適な場所に最適な形として届けられません。そのために、Gunosy Tech LabにはData Reliability Engineeringという部署があります。その部隊は『データを使いやすい状態にする』ということを専門にしています」

データを整える部隊は、自社内ではなく社外に依頼している企業もある。しかし、大曽根氏は社内で実行するべきだと言う。

――大曽根
「社内を横断して集めたデータを整える部隊を用意することは、非常に大変なことです。そのため、別会社に頼んでいる会社もありますよね。しかし、外注するとどうしてもコミュニケーションの差異が発生するなどで、受け取ったデータを活用できない話もあります。もちろんすべてのデータ成形会社がそうであるとは限りませんが、社内に配備したほうが『このデータは何に使われるものなのか』という意思疎通がスムーズになります。

AIやデータ活用に関する人材は、多くの企業で不足し、採用・教育・育成に追われています。ただ、どれだけ大変でも自社でデータを整えられる部隊を作ることは考えておいたほうがいいと思います」

すべてを自社内で完結させられることが理想ではあるものの、人材不足などの関係で現実的には難しいことが多い。そのため大曽根氏は「自社でデータを整える部隊はあったほうがいい」という認識だけでも持っておくべきだと言ったのだ。

データ活用は「ゴールイメージ」を持つことからはじめる

さて。これからデータを活用したい、もしくは活用する企業は、どのように進めれば失敗しづらいのか。

――大曽根
「AIなどにおいてもよく言われますが、『手段を目的化しない』ことは大切です。ただ、そうは言うものの、実際にデータを集めていると陥りやすいのも事実です。こうならないためにも、『活用イメージを持つこと』が大事なのではないでしょうか。

世間の流行に乗ったからデータを活用するのではなく、自社のビジネスと最初から結び付けて判断すれば、途中でブレることもなくなるはずです。ですので、『こういうデータがあれば、〇〇の情報がもっと有益になるのでは?』というようなアイデア出しからスタートするのがいいと思います」

いま目の前にあるものに対し、付加価値をさらにつけるためにデータを使うということであれば、「無駄なデータ活用」もなくなりそうだ。データ活用がうまくいった成功例を社内で持てば、どんどん活用規模を拡大していくのがいいだろう。

また、データ活用において分析や解析といった技術も求められる。現場で指揮を執る大曽根氏に簡単な「コツ」を教えてもらった。

――大曽根
「大前提として、サービスなどの専門性やドメイン知識、データと向き合うスキルなどは求められます。これらを兼ね備える人材がいれば話は早いのですが、なかなか難しいですよね。ただ、考え方であれば多くの人に根差せることがあるかもしれません。

たとえば、ECサイトのアクセス解析をする際、漠然と『〇〇のPVは100です』といったことではあまり意味を持ちません。まずは、明確なゴールを設定することが重要です。同じ例でいえば、サイトで扱っている商品の販売数を上げたい、などです。

その際には、複数の視点から指標を見ることを心掛けるのがいいでしょう。ほかのページと比べてどうなのか、時間別ではどのような変化があるのか、全体の割合と比較すると良いのか悪いのか、などです。データとは比較することで価値が生まれます。相対的なものを比べることで、データに価値を付けられ、答えを出すこともでき、設定したゴールに近づくことができるのではないでしょうか」


インタビューでも話に挙がったように、データ活用をしたい企業は増えている。ただ、なかなか進まなかったり、途中で辞めたりしてしまう事例もあるそうだ。先にビジネス的な視点で「何をよくしたいのか」を明確にし、「そのためにはデータを活用したほうがいい」という流れを作ることが必要と言えるだろう。

余談だが、グノシーでは「クーポン」でもデータ活用をしているそうだ。グノシーには飲食店などで使えるクーポンもコンテンツとして用意されているが、このクーポンも“ただのクーポン”で終わらせない。クーポンを使えば、利用店舗や業態、さらには店舗の位置なども取得できる。単純に「ユーザーを喜ばすためだけにクーポンを出す」というのではなく、さまざまな情報を貯めるための意味も含めて配信している。

最終的には、さまざまデータを活用することで、グノシーだけでなくGunosy社が提供するほかのサービスでも、より良いユーザー体験をさせられるようにブラッシュアップしていくという。

ニュースアプリだけでなく、データ活用を実感できるサービスとして、グノシーを使うとおもしろそうだ。