月間1億PV、2000万UUを超え、料理人掲載数ナンバーワンで知られるグルメメディア「ヒトサラ」。食通が集まる編集部が生み出すそのコンテンツは、読めば今にも涎が出そうだ。
そのヒトサラのマーケティング手法として、webプッシュ通知が使われている。
ヒトサラは、AppierのAIを活用したMA(マーケティングオートメーション)ツール「AIQUA(アイコア)」を活用し、webプッシュ通知の開封率を平均36%にまでアップさせた。
USEN Media プロダクト・マーケティング課の長﨑卓史氏、吉田亜美氏に話を聞いた。
食を紹介する編集のプロが集まるヒトサラ編集部
ヒトサラは、「料理人の顔が見える」をコンセプトに情報を発信しているメディアだ。
食の目利き・舌利きであるプロの料理人のオススメ情報や、食通のライターたちが取材・執筆する、旬や地方情報が充実した特集など、オリジナルの編集記事を日々配信している。
「ヒトサラは編集部を内部に持ち、食のトレンドに精通したプロの編集者によるオリジナル編集コンテンツを発信しています。特に力を入れる特集は編集部自らプロカメラマンを引き連れ、取材へ足を運んでいますね」
取材時はちょうど夏真っ盛りということもあり、ヒトサラ海外版コンテンツのひとつ「ヒトサラハワイ」の拡充に力を入れていた。
ハワイの人気シェフたちが勧める現地のレストランを紹介するグルメガイドをさらに充実させるため、編集部がハワイまで取材に出向いたという。
ターゲットとしている層は、食好きで、外食にお金を使う余裕がある30代以上のアッパーミドル層。接待やデートなどのニーズから、サイトを訪れるユーザーが多いという。
ユーザーの目的がハッキリしているからこそ、サイト内を見てくれない
レストラン検索サービスは競合が多い。ヒトサラではユーザーのエンゲージメント向上のために、会員向けのポイントサービスや、アプリでのプッシュ通知といった施策に取り組んでいた。
しかし、「実力のある編集部が生み出すコンテンツが、本当にユーザーに届いているのか分からない」という課題があったと長﨑氏は言う。
「編集部が生み出すコンテンツのクオリティには『ここでしか読めない』という自信があります。
フーディーと呼ばれる、いわゆる『食マニア』な人には受けがいいコンテンツがそろっていますが、一方でサイト内の回遊には課題がありました」
基本的にヒトサラのサイト訪問者は、レストランの予約を目的に検索経由で訪問する。
エリア×シーン(五反田 接待 など)やエリア×ジャンル(五反田 中華 など)でのクエリが多いという。ニーズに合致したレストランを予約することが目的のため、魅力的なコンテンツがサイト内にあっても目を通さない場合が多かった。
ビジネスモデルには、加盟店からの月額掲載料と、ヒトサラ経由のCV(コンバージョン。ここではレストランの予約)ごとに受け取る手数料などがある。そのため、ユーザーに適切にコンテンツを届け、予約まで至ってもらうことが重要になる。
同時に、編集部としてはCVだけでなく、あくまで質の高いコンテンツ自体も楽しんでもらいたい。CVとブランディングのバランスがうまくいっていなかったという。
「CVを広告で刈り取るとなると、どうしても予約を狙いに行ってしまい、いかに最短でレストラン紹介のページに飛ばすかになってしまいます。
それだけではなく、編集部のコンテンツを活かすブランディングにも注力したかったんです。当時、そこにアプローチするツールは導入できていませんでした」
「お金に余裕のあるアッパーミドルでも、世の中的に外食の回数は減っています。
でも、デートや接待、友達とお酒を飲むときには外食を選択するものだと思うんです。そのニーズにマッチしたお店を提供したいと思っています」
AppierのMAツールを導入した理由
「編集部がつくる魅力的な記事をより多くの人に認知してもらい、継続的な顧客接点を確立する必要がある」そう感じ、ヒトサラのマーケティングチームは複数のソリューションを検討し始めた。
そこで長﨑氏は、webプッシュ通知に目をつけた。
「当時、webプッシュ通知はまだ日本で浸透しているとは言えませんでした。Appierという会社も提案いただくまでは知りませんでしたが、海外での実績と、担当者が親身になって対応してくれたので、Appierの『AIQUA』の導入を決めたんです」
ヒトサラは、AIQUA導入前はwebプッシュ通知自体を打っていなかった。
webプッシュ通知を利用してパーソナライズされたコンテンツをユーザーに届けられれば「編集部のコンテンツにもっと光が当たるのではないか」と思ったという。
AIQUAは、月次PV数をベースにした料金体系だ。プッシュの配信数ではなく、ページが見られた回数に応じて課金されるため、求めていた料金体型にマッチしていたという。
「もちろん無料でwebプッシュ通知が使えるツールは無数にあります。しかし、その先のユーザーに対する適切なレコメンドから分析までのPDCAを回すとなると、AIQUAが適切ではないかという結論に至りました」
AIQUAの特徴は、ざっくり以下の通りだ。
- 自社が保有するオーディエンス情報に加えて、Appierのサードパーティーデータ(広告主が収集したデータではない、外部のデータ)を活用できる
- AIを活用した分析で、ユーザーをセグメントし、それぞれに対して適したキャンペーンを展開できる
- 自社サイト外でもリエンゲージできる
特にAppierが持つ、自社サイト外のサードパーティーデータを活用できることは大きい。
通常、企業は自社サイトを訪れたユーザーの自社サイト内の足跡しか追うことができない。(Google Analyticsなど)自社サイト外のデータも取得したい場合は、別のサービスを利用するなどコストをかける必要があるが、コストをかけてまでサードパーティーデータを使おうとする企業は少ない。
AIQUAでは、サイト初訪問でもユーザーの閲覧履歴、趣味嗜好を把握できる。デバイスをまたいだ一見別のアクセスでも、たとえば「このiPhoneとこのブラウザは同一人物かどうか」をAIで類推し、マッチングが可能だ。
その後、季節性のあるコンテンツの画像や映像を細かくセグメントをして配信する。ユーザーがコンテンツを閲覧してから予約・会員登録までの検討段階に、有効なソリューションとして機能しているという。
「現在では週に1〜3回、webプッシュ通知を配信しています。結果として最高で36%は開封されるようになり、サイトのPVも顕著に増加しました。
週1〜3回という回数の根拠は、毎日のように配信するとメディアブランドを損ねる配慮からです。メディアの空気感を保ちつつ、ユーザーに優良な情報を提供する。そのようなバランスを考慮して検証中です」
AIQUAの効果は高く、同社のオウンドメディアである「ヒトサラマガジン」を対象にしたSNS広告と同等のパフォーマンスを発揮しているという。
発想の転換を求められるグルメサイト
長﨑氏は今後の展望を、「グルメサイト自体が転換期にある」と語った。
「グルメサイト自体が発想の転換を求められています。
Googleはじめとした検索エンジンに情報が集約されるなかで、グルメサイトはわざわざ来てもらう理由が必要になってきている。これまではユーザーが偶然サイトを訪れてくれて、そのうちの何割かがファンになってくれましたが、今後は期待すべきではありません。
ユーザーエンゲージメントを高めるコミュニケーションを、サイト運営側がしっかり設計する必要があると感じます」
今後の展開として、USEN-NEXT GROUPが持つ事業基盤を活かしてAI活用を先頭を切って推進していくという。
ヒトサラが今後も成長し、グルメサイトとして不動の地位を築くのか。そのとき、AIをはじめとしたテクノロジーがその助けとなっていてほしい。