唐突ですが皆さん、『クルマコネクト』というサービスをご存知でしょうか?
中古車販売最大手 ガリバーを運営する株式会社IDOM(7月に社名が変更)が2015年にぶっこんだ『チャット対話型 中古車コンシェルジュサービス』なんですが、なんとここに国産AIの雄『KIBIT』が搭載されたとかなんとか。(16年10月のリリース)
超巨大中古車販売企業の中で今何が起こって…というか何を起こそうとしているのか。キーマンのお2人に直接取材してきました。
デジタルマーケティングセクションのセクションリーダー中澤さん、同デジタルコミュニケーションセクション所属の孫さん。人工知能×チャット@中古車市場で何を仕掛けようとしているのか? 直撃してきました。
来店CVR2倍?!ガリバーのオンライン型接客サービス『ガリバークルマコネクト』とは何か
―まずは…クルマコネクトのサービスと仕組みについてお伺いしてもよろしいですか?

ざっくり言うと、AIがユーザーの「本人も知らなかったニーズ」をチャット経由で吸い出し、それを営業につなげてくれるサービス。ということになりますね。
一次対応とユーザーニーズの類推をAIがやってくれる…といった感じです。
と、そういって中澤さんが教えてくれたのが以下のようなクルマコネクトの事業モデル。今回はちょっと分かりやすく図解にしてみました。
- まずユーザーとの応対にAI「KIBIT」を搭載したチャットで対応
- いくつかの質問(クルマ選びで重要視したい項目 ⇒ こんなクルマどう?という ”アテ” の質問)からユーザーニーズをサーベイ
- 予め学習したユーザーボイス×クルマの気に入りポイントから重み付けしたデータを用いて、営業マンへ『この人この辺のクルマが好きっぽいよ』とエスカレーション
- チャット担当がKIBITから人間にスイッチ ⇒ さらにニーズの深掘りをしつつ対話
- 具体的な話になったら来店依頼 ⇒ 来店後に実際の購入契約へ
とまぁ、つまるところAI半分・人間半分って感じのカーコンシェルをチャットUI上で提供している…ってサービスなんですが、驚くべきはその実績。
なんとこのフローの導入後、来店購入のCVRが従来方式(立ち寄りユーザーとの商談や電話営業からの来店誘致など)に比べ、実に2倍近くまで跳ね上がったんだとか。
ちょっと尋常でない上がり方ですが、一体何をどうやったんでしょう?聞いてみました。

今まで、実際に購入を決めたユーザー本人ですらモヤッとしていた「クルマを選ぶ基準」を、AIによる特徴データ分析と質問から類推。
ニーズの解像度を上げてから営業にエスカレーションするようにワークフローそのものを転換したんです。
CVの絶対数としては『まだまだこれから』といった所なんですが、手応えは感じ始めていますね。

ですね。これまでであれば熟練の営業マンでなければ聞き出すことが困難だった「本当に欲しいクルマ」の情報を、人工知能がいくつかの質問から ”あたり” を付けて推定しておいてくれる。
そこから来店促進まで行けたなら、それはもう「買いに来た方」ですから(笑)CVRにしたらそれは高くなるはずですね。
なるほどなるほど。
熟練の営業マンの持つヒアリングスキルを、AIによるニーズサーベイで簡易的に実行 ⇒ そこから人間にスイッチしての対話で来店促進につなげているので当然CVRは高くなる。と。
しかし、そうは言っても2倍はすごい成果。
AIによる “あたり” があるとはいえ、ユーザーニーズの可視化がもたらす効果は凄まじいものがありますね。
確かに「どんなクルマが欲しいですか?」なんて営業さんに聞かれても、具体的に『○○が■■だから▼▼しかないと思ってます!』なんて応えられる人は…まぁ少ないですもんね。
多分そういう人は自分で勝手に探して見つけちゃうでしょうし。

でしょうね(笑)で、もちろん多くのユーザーさんはそうじゃないんですよ。
なので僕達は購入後のユーザーボイスから「このクルマを買った人は何が気に入って買ったのか?」をデータ化し、AIに学習させたんです。
購入した本人ですら認識していない『好き』や『欲しい』といった気持ちの根拠を数値化していったんですね。
デジマなフィールドで働く僕らにとっては限りなくワクワクする響きですが、一体何をどうやってそんなことを可能にしていったんでしょう?
さらに詳しく聞かせていただきましょう!
車は ”スペック” で買えない。定量化不能なデータをどう分析したのか
―より具体的に「欲しいという気持ちの数値化」…とは、いったいどんなイメージなんでしょう?

うーーん。あんまり具体的にお話しすることは出来ないんですが、例えばクルマが好きな方って「吹け上がりがいい」とか「足回りがイマイチ」なんて言い回しを使うじゃないですか?
つまるところあれを、全車種を対象とした相対的な数値データに置き換えるようなイメージですね。
そういって孫さん、中澤さんが教えてくれたのは以下のようなデータ活用フロー。
確かにこれを人間が作るのは、ちょっと無理がありそうですが。なんというか、そもそもよくこんなん思いつきましたね…というのが正直な感覚。すごい。
クルマコネクト内の指標データ&処理構造
- 購入後のユーザーボイスを集積。自然言語解析し『そのクルマの何を気に入って購入したのか』その要因を分解
- エクステリア、インテリア、乗り心地、広さ、大きさ、排気量…など無数の項目に対し相対的な評価数値を入れ、車種ごとに「どこが決め手になりやすいのか?」ポイントをAIが抽出
- メーカーや走行距離、排気量などの既存データに寄らず「気に入りポイントの分布が近いクルマ」を質問から推定し、ユーザーに合わせて 1 to 1 でグルーピング
- 『この人こんなクルマ好きっぽいよ!』というエスカレーションデータを作成しAIから人間に情報をパス
残念ながら具体的な数値項目はNGということでボカしてますが、実際の裏側画面はこんな感じ。
ユーザーボイスの自然言語解析によるニーズ分析…までは思いついても、そのデータから数万車種を超える取扱中古車データに相対的評価数値を割り振ってサーベイと照らし合わせてしまうとは。
いやはや、ほんとよく「やろう」と思ったもんです。参りました。

この世には「乗り心地指数」も「吹け上がり快感値」も存在しませんからね(苦笑)でも、ユーザーはその目に見えない部分をトリガーに買うクルマを決めるんですよ。
これまではそこを経験からアドバイスするのが ”プロの仕事” だったわけですが、この巨大な暗黙知を形式知化し効率化できないのか? という疑問こそがこのプロジェクトのスタートラインだったんです。
いわく、AI導入によるメリットは例えば『深夜でも即時応対可能』なことや『ゆるいコミュニケーションでのつなぎ』が可能なこと。また電話では実現不可能な『画像情報(写真)の共有』…など色々。
なんですが、実際に成果をあげようと思った際に 本質的な価値が求められるのはそこではない とも。
IDOMが取り組んでいるのは、はそれこそ物々交換の時代から続く「営業の正解」への暗黙知部分を形式知化できないか?という挑戦なんですよね。
なんというか…スケールがでっかいです。
営業に中間コンバージョンを。2つのルートで挑む ”営業の正解” へのPDCA
―営業の正解への挑戦。聞くとものすごい格好いいですが、これまた具体的なアプローチなど聞かせていただけたり…するんでしょうか?

まぁ、実はそんな大それた話ではないですけどね(苦笑)
単純な話、チャットは100%ログが残ってしまうんです。つまり、個人としてではなく組織知として ”やりとりそのもの” を共有できるんですね。

全ての履歴がテキストで残って共有できる。となると、営業におけるPDCAのモデルがロールプレイング型から「スクリプト設計」になっていきます。
現在はそこにおいて質的指標(どんな言葉や反応を引き出せたか)、量的指標(コミュニケーション頻度、返答速度、ユーザー発話回数など)の2つの指標で実行と改善を繰り返しているところですね。
……… 確かに。
営業マンがどんな話をしてクロージングまで持ってったのか?
これが何のフィルタもなく全部履歴に残るわけですから、そこで行われるべきPDCAは「何を」「どのタイミングで」「どう伝えたか」が観点になるはずですね。
そしてそこからさらに量的・質的な最適解を探していくフェーズに入っているのが現在の状況…ということですか。
うーーーん。未来感すごいっすね。この取り組み。

今はまだ出来ていませんが、最終的にはAIによるユーザーの温度感(ホット or コールド)をスコアリングができるように進化させていきたいと思っています。
人間にエスカレーションする際に『この人結構前のめりだよ!』みたいな指標と一緒に情報を取得できるようにして、温度感に応じた適切なコミュニケーションを形式知化していく…。
僕らが目指しているのは、そんな未来なんです。

チャットというUIにしてしまったがために把握しずらくなってしまった「相手の声色」や「雰囲気」などをどう理解し、スクリプトに落とし込むか。
現在は各スタッフの想像力に頼っている状態ですが、ここをデータ予測によりさらに補完していければ、もっともっと ”瞬間的なニーズにフィットする営業” が誰でも行えるようになるんじゃないか? なんて考えているんです。
なんと。
そこまで出来てしまったら、まさに「イケてる営業マンの暗黙知の形式知化」ですね。
現在はまだまだわずか数名のチームで回る小さな事業部ながら、「誰でも当たり前にチャットでクルマを探す」という未来を現実のものにしてやろう!という熱意をビシバシ感じさせていただいた今回のインタビュー。
これまでありえなかった発想で、誰もがなし得なかった営業暗黙知の形式知化に挑むガリバー クルマコネクト。
既に伸び始めたこのサービスが今後どう市場を変えていくのか?これからの展開から目が離せませんね。
中村の編集後記:先駆者たろうとする熱意あってこそ事業は進む
今回お話を聞かせていただいたクルマコネクトのお二人。やってることもやろうとしていることもトンデモで、終始驚きっぱなしでした。
中でも、何より記憶に残った強い言葉がありましたので、ラストで紹介しておこうかなと。
「こーいうのはいずれASP化して誰でも似たような事業ができるようになると思うんですけどね」
ちょっと中澤さんか孫さんか。どちらが言われた言葉だったのか失念してしまいましたが、このセリフに少々どころではない強い衝撃を受けたのを覚えています。
ここで「じゃあ一般化してからやったほうが効率よくない?」と考えて止まってしまわず、あえてビジネス上の課題解決手段として真正面から向き合い、取り入れ、活かそうとする。
まさにIDOM(挑む)って感じで、同じく小さいながらも事業を背負う一人の大人として「こうあらねば」なんて考えてしまったのでした。
とりあえず次乗るクルマはクルマコネクトで相談してみようかな?と思った中村でした。
ではまたー。