ロボットで収穫作業の9割を自動化へ ──「うちのアスパラ、なんとかできないか」をAIで解決するベンチャー企業

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農業就業人口の減少が止まりません。

2010年には約261万人いた農業就業人口が、2017年には約182万人と、約30%減少しています。同時に高齢化も進んでおり、2017年の農業就業人口約182万人のうち、約66%を65歳以上の高齢者が占めている状況。地方での人手の確保後継者不足も深刻です。

今後ますますの人手不足が予測される農業分野において、喫緊の課題となるのが作業の省力化です。鎌倉の農業AIベンチャー「inaho」は、アスパラガス農家における全作業の半分を占める収穫作業をAIで自動化しようと奮闘しています。

収穫ロボットの開発を進めるinahoのお2人と、実験に協力されているアスパラガス農家の安東さんにお話を聞きました。

菱木 豊
inaho株式会社 Co-Founder & CEO

外波山 晋平
inaho株式会社 Senior Technical Architect

安東 浩太郎
A-noker(ええのうかー)

アスパラガスをロボットで次々と収穫

古民家を改装したinahoオフィスにある畑で、ロボットのデモを見せて頂きました。

実際のロボットの動きがこちらです。動画では実際の動きを3倍速にしています。

取材時点(11月下旬)でアスパラガスの収穫期がすでに終わっていたため、実際の畑ではなく、スーパーで購入したアスパラガスを畝に挿してのデモとなりました。

――外波山
「本日お見せしたいのは初号機です。現在、初号機の改良を進めており、2019年には約20台を量産し、全国のアスパラガス農家へのテスト導入を進める予定です。

ロボットによって、収穫作業の約9割を自動化できると考えています」

見せていただいた初号機は、まだ防塵・防水対策がなく、動きもかなりゆっくりですが、実地での活用に向け、ハード面とソフト面の両方で改善が進んでいます。

ロボットで収穫ができれば腰を痛めない

アスパラガス収穫ロボットの実証実験に参加されているのが、佐賀県にあるアスパラガス農家の安東さんです。安東さんのアスパラガスは全て直売しており、「森のアスパラ」として大変人気があります。

今回はビデオ通話で取材に応じていただきました。

――安東
「アスパラガスは地面から生えているため、収穫作業はしゃがんでおこないます。これが一日の作業の半分を占める訳ですから、腰を痛めるなど、身体的負担も大きい

収穫作業は全作業の約5割を占めるため、これが自動化できればかなりの作業負担が軽減されます」

一本一本手作業で収穫されているのですね。しかも体勢がかなりきつそうです。もし腰が壊れてしまったら、農作業自体ができなくなってしまう恐れもあります。

提供:inaho株式会社

――安東
「これからの農業や作業負担の軽減を考えて、実証実験に協力しようと思いました。収穫作業をロボットで代替できたら、直売の営業や、品質向上に繋がる葉っぱの選定や間引きにもっと時間を割きたいと思っています」

農業の分野においても、人間とAIで分担して作業を進めることで、より質の高い商品やサービスを生み出せます。

AIに大きな可能性を感じてロボット開発に着手

――そもそも収穫ロボットを開発しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

――菱木
「もともとAIには大きな可能性を感じていました。そんな中、アメリカのレタス間引きロボットを知ったことがきっかけで、農業分野でのAI活用の可能性を感じました。この技術を日本の農業にも活かせないかと思ったんです」

アメリカは大規模農業が盛んで、日本よりも作業の自動化やロボットの導入が進んでおり、よいお手本となります。しかし、アメリカの大規模な設備を、そのまま日本に導入するのは現実的ではありません。

――菱木
「ロボット開発の試行錯誤をする中で、アスパラガス農家の安東さんと出会いました。『うちのアスパラをAIでどうにかできないか』『収穫が本当に大変』とお聞きし、収穫ロボットの開発に取り掛かりました」

アスパラガス農家のツテも多くなかったことから、インターネットや取材記事で紹介されている農家に手当たり次第に連絡し、現地でヒアリングを進めたといいます。農家のニーズに寄り添った開発を実現するための、すごい行動力です。

圃場ではいつも一定の条件でデータが取れない

――開発する上で、農業ならではの苦労もあるのではないでしょうか?

――外波山
「新しい事をやっているので全てが大変なのですが、特に、屋外での野菜の認識は、天候や日照条件の影響を受けやすいため、とても困難です。画像認識や赤外線センサーなど、いくつかの技術を組み合わせて位置やサイズを認識しています」

今後は、自動運転などにも使われるセマンティックセグメンテーションという技術も使って、茎や葉っぱ、収穫物を区別していくそうです。

セマンティックセグメンテーション
イメージの各ピクセルをクラスラベル (“花”、”人物”、”道路”、”空”、”海洋”、”自動車” など) に関連付けるプロセスを表します。

自動運転で活用される技術が農業分野でも使われるとは意外です。

農家の仕事は自分にはできない、だからサポートしたい

――菱木
「朝早くから作業をするなど、農家の仕事は本当に大変なので自分にはできません。だからこそ、日本の食を支える農業を、自分のできる分野からサポートしたいと思っています。inahoの収穫ロボットを使って、農家には生産面積を増やし、収入を増やしてもらいたいと思っています」

今後はキュウリやナス、ピーマンなど、”選択収穫”が必要な他の野菜にも対応していく予定だといいます。「農業は儲からない」というイメージがAIを用いた自動収穫ロボットによって変わるかもしれません。