SAP、三菱地所がイノベーション施設「Inspired.Lab」を開設。SAPのスタートアップ支援プログラムを日本でも展開へ

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2018年2月1日、SAPと三菱地所により記者会見が開催。SAPと三菱地所がイノベーション支援施設「Inspired.Lab」を大手町に開設したことを発表しました。それに伴いスタートアップ支援プログラム「SAP.iO」を日本でも展開します。

実証実験ドリブンでイノベーションを支援する

Inspired Labは、オープンイノベーションを推進するため、オフィススペースと工房機能を併せ持つ施設。

オフィススペース。会議室、入居企業のオフィスなどがある

デザインシンキングスペース。デザインシンキングのワークショップなどを行う

工房スペース。3Dプリンター、レーザープリンターなどが設置されており、プロトタイプ作成が可能

ワークスペースだけでなく工房を併設することで、アイディアを工房で形にし、実証実験を回すことを想定した作り。SAPはデザインシンキングを全社的に取り入れており、その哲学が反映されている場所になっています。

イノベーション部門の「出島」として。丸の内に工房機能を持つ意味

記者会見の第一部に登壇した三菱地所の執行役常務 湯浅氏は、日本のビジネスの中心地である丸の内に、工房機能があるイノベーション施設をもつことが重要と強調します。

――湯浅
「Inspired Labでは、将来の産業構造を変革する可能性のある企業を支援します。スタートアップがアイディアを製品化するには壁がある。

そこで工房機能を持たせることで、アイディアをすぐにプロトタイプに落とし、実証実験を繰り返すことができる環境を用意しています」

Inspired Labに入居する企業は、Inspired Labのある大手町ビル、丸の内仲通り全体を使い実証実験を行うことが可能。文字通り、街全体を巨大な実験場として使うことができます。

東京大学の起業支援プログラムFound Xとも協業、SAPの持つスタートアップアクセラレーションプログラムのSAP.ioを日本でも展開し、SAPの持つリソースでスタートアップを全面的に支援していくとのこと。

同じく登壇したSAPジャパンの代表取締役 内田氏は、SAPがこれまで世界中でスタートアップを支援してきた経験から、イノベーションを起こすには「3つのP」が必要といいます。

――内田
「3つのPとは、

  • People(人)
  • Process(手法)
  • Place(場所)

です。SAPが発足した「Business Innovators Network」でPeople(人)をつなぎながら、SAPのデザインシンキングのProcess(手法)を取り入れつつ、Place(場所)となるInspired Labを中心としてエコシステムを構築します」

Inspired Labは、『企業が持つイノベーション部門の「出島」として機能する』と両社は強調します。

オープンイノベーションは自社だけに閉じこもっていては不可能。他社の人材と活発に議論してこそイノベーションは生まれる、という強いメッセージを感じます。

パーソナルモビリティ、無人販売ショーケースの実証実験もスタート

Inspired.Labを利用した実証実験も同日スタート。記者会見では、WHILLと三菱電機が開発するパーソナルモビリティ自動運転システム、パナソニックとLiquidが開発する無人販売ショーケースの実証実験デモが行われました。

パーソナルモビリティ自動運転システム

WHILLと三菱電機が開発するパーソナルモビリティ「WHILL」の実証実験は、建物内のエレベーターとWHILLを通信回線でつなぎ、無人のWHILLが近づくとエレベーターがWHILLのいる階に停止。WHILLを目的階まで送り届けるというもの。

WHILL株式会社 取締役 福岡 宗明氏の福岡氏は次のように語ります。

――福岡
「WHILLはもともと『100m先のコンビニに行くのを諦める』という車椅子ユーザーの声から始まったサービスです。物理的なバリアのみでなく、車椅子に載る精神的なバリアに注目し、乗りたいと思えるような車椅子を作ってきました。

しかし、プロダクトを届けるだけでは根本的な問題解決にはなりません。そこで、色々な施設に設備として置いてもらい、誰もが車椅子を利用できる世界を実現するため、今回の実証実験をスタートしました」

空港、駅、商業施設などの大型施設では、車椅子の介助や回収といった業務に多くの人手が必要です。株式会社WHILLはそれらの負荷を軽減するために自動停止や自動運転などの機能を備えたシステムを構築。

施設内で車椅子利用者が自由に動けるようになれば、回遊率、消費の拡大も見込めることから、新たな顧客層の取り込みとしても期待しているといいます。

無人販売ショーケース

パナソニックとLiquidが開発する無人販売ショーケースは、クラウド生体認証やRFIDによる自動決済、需要予測技術などを用いたダイナミックプライシングなどを行うソリューションです。

使い方はこれだけ。ユーザーは手ぶらで買い物を楽しめます。

  • 指をかざして扉を開ける
  • 欲しい商品を取り出す
  • 扉を閉めて購入をタッチ

Liquidの技術であるドア設置専用の生体認証(指紋)スキャナーでショーケースの鍵を開け、欲しい商品を手に取ると、パナソニックのRFIDアンテナが感知。ショーケースから商品が無くなるまで追跡し、購入したと判断すると自動で決済を行ないます。

これにより、消費者は従来のセルフレジにおける商品バーコードの読み取り、パスワード入力といった手間から開放され、導入社はスタッフの無人化によるコストダウンが狙える。人手不足が著しい小売業における新たなソリューションとなることを目指します。

スタートアップが大企業と協調する方法

記者会見の第2部ではパネルディスカッションも開催されました。

登壇したのは、前述のWHILL株式会社 取締役福岡 宗明氏、ライフサイエンスのソフトウェア開発を手がけるエルピクセル株式会社 代表取締役 島村 佑基氏、イノベーション創造支援を行う株式会社アドライト 木村 忠明氏。

モデレーターは株式会社ACCESSを創業し、現在は数々のスタートアップを支援するTomyK Ltd. 代表取締役の鎌田氏が務めました。

スタートアップにとって、大企業から金銭的、技術的な支援を受けることは大きなメリット。「スタートアップはどのように大企業と協調していけばいいのか?」というテーマでは盛り上がりを見せました。

――鎌田
「これまではネットの世界で完結するサービスが多かったと思いますが、リアルの場にまで出ようとすると実証実験が不可欠になってきます。

そのためには大企業とのコラボも必要になってきますが、スタートアップが大企業と連携するコツのようなものはあるのでしょうか?」

――福岡
共感と理解が大事だと思っています。スタートアップのビジョンや、やっていることに共感してくれる人が作れれば、その人がハブとなって上層部と話をつけてくれたりするので」

――島原
「共感はいい言葉ですね。僕らのようなスタートアップにとって、能動的に協力してくれる人に出会うことは重要です。協調にあたって技術的な親和性も重要ですが、それらは共感してもらえれば後からついてきますから」

――木村
「オープンイノベーションは浸透してきたので、次はそれをどう事業化していくかが重要になります。大企業とスタートアップがうまく強調するには、人材が積極的に社外に出ていく必要があると思います。

スタートアップを支援する側としてInspired.Labに入居しているので、オープンイノベーションの代表例をたくさん作っていきたいですね」

シリーズB、C以降の投資では遅すぎる。Inspired.LabとSAP.iOで狙うシナジー

Inspired.Lab発表と同日、SAPはスタートアップ向けアクセラレーションプログラム「SAP.iO Foundry Tokyo」を開設しました。

SAP.iO Foundryは、SAPが世界展開するスタートアップ支援プログラムのひとつ。今回、SAP.iOのUS責任者 Ram Jambunasan氏と、アメリカのSAP.iOにおける支援先企業のCEOたちが来日。話を聞きました。

――SAP.iOではどのような支援を行うのでしょうか。

――Jambunasan
「主に3つの軸があり、

  • メンターによる事業戦略の構築支援
  • SAPの技術や産業界データとの連携
  • メンターによる共同営業

などの支援を行います。

支援企業には、SAPの顧客が持つデータやテクノロジーを存分に提供し、SAPの顧客とのシナジーを狙っていきます。ビジネスプロセスのペインポイントをよく知るプロが全面的にバックアップします」

――支援先の基準はあるのでしょうか?

――Jambunasan

  • アーリーステージであること
  • 顧客のデータをうまく活用でき、価値を生み出せること
  • AIやブロックチェーンなどの最先端技術を活用していること

が主な基準です。アーリーステージにフォーカスしているのは、シリーズB、C以降では遅すぎるからというのが理由です。その頃にはトレンドはすでに固まっている。

プロダクトマーケットフィットを見るために、一番フレキシブルに動けるのがアーリーステージなのです」

――支援先企業にお聞きします。SAPの支援で一番期待することは何でしょうか。

――Paul J Noble(VERUSEN Founder, CEO)
「SAPの技術的なリソースにはかなり助けられています。複雑なカスタマージャーニーの理解、ユーザーのニーズをつかみ、リアルなプロダクトに落とし込むためのリソースはSAPの強みだと感じています」

SAPユーザー企業の膨大なデータを使えるのもさることながら、最先端の技術スタートアップがSAPの顧客とつながり、コラボレーションが生まれることが双方にとって大きなメリットとなっているそう。

スタートアップにとって技術をどうPRし、営業先を獲得できるかは死活問題。SAPのコネクションとリソースを使用すれば、ビジネスを大きくスケールできます。

SAPジャパンのバイスプレジデント 大我氏は、このタイミングでのSAP.iOの日本上陸を「Inspired.Labとのシナジーを狙ったもの」と語ります。支援対象のスタートアップの募集を同日から開始し、2019年6月からプログラムを開始していく中で、AIやブロックチェーンをなどを活用するスタートアップとのシナジーを加速していきたい、と話していました。

デザインシンキングでイノベーションを起こすSAP

会見や実証実験のデモ、インタビューなどを通じて感じたのは、「デザインシンキングの社会実装」というキーワード。

もともとデザインシンキングを全社で導入するSAPが、社会全体でイノベーションを加速するべく、デザインシンキングを積極的に活用していく姿勢を感じました。

AI、ブロックチェーンなど先端技術を活用するスタートアップを支援していくということから、AIを使った新たなサービスやプロダクトが、Inspired.Labから生まれることに期待です。