【NTTデータ先端技術】エッジAIを“知る”。気になるセキュリティの課題は?

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データの集約から学習、そして推論まで処理するAIには、膨大な量の計算が必要です。そのような背景があり、AIはクラウドで処理するのが主流です。

一方、クラウドで処理してデバイスに処理結果を渡す際、少なからず通信の時間がかかり、遅延が発生しない保証はありません。そのわずかな遅延が、たとえば自動運転車の事故を誘発する恐れもあるわけです。

そこで注目されているのが、エッジデバイス上で学習や推論を可能にする「エッジAI」です。しかし、エッジAIに対する理解度や具体的な利用シーン、メリット・デメリットの認識は一般的にまだ低いといえるでしょう。

「エッジAI」が具体的に実現するものは何か。その先に広がる新たなAIの活用法とは──。

本稿では、企業向けAIソリューションを数多く手掛ける、NTTデータ先端技術株式会社 ソフトウェアソリューション事業本部 事業推進部 AIビジネスコーディネータの川村直毅氏に話を聞きました。

AIの可能性を広げる「エッジ」という手段

――「エッジAI」という言葉は、まだあたりまえに使われているとは言えません。具体的には何を意味するのでしょうか。

――川村
「『エッジAI』は、新しいAI活用の考え方です。簡単に説明すると、『学習』と『推論』のフェーズをサービスレベルで分離し、それぞれをネットワークで接続するというものです。

大量のデータ処理が発生する学習フェーズは膨大な計算リソースを必要としますが、推論フェーズは必ずしもそうとも限りません。具体的には、集中的に処理を行う『AIセンター』を設けて学習処理を行い、推論処理はエッジデバイスで実行します」

これまでのAIは学習と推論を同一のマシンで行なう場合が多く、マシンリソースの確保も大きな課題でした。

また推論処理に要求される速度や、学習モデルサイズの最適化など議論が進み、エッジAIによって、これまで導入の難しかった環境にもAI導入の可能性が広がると川村氏は語ります。

――川村
「5G通信などの高速なネットワークリソースを活用し、AIセンターで作った学習モデルを圧縮してエッジデバイスで利用すれば、比較的スペックの低い環境でもリッチな推論処理が可能になるでしょう」

異常検知、リアルタイム管理──。エッジAIが実現すること

AI活用の裾野を広げる嚆矢となりそうなエッジAI。具体的な活用方法としては、どのようなケースがあるのでしょうか。

プラントでのリアルタイム設備管理

――川村
「NTTデータグループでは、主に製造業や通信業、エネルギー産業などのお客様を対象とし、プラントにおける機械類の監視や保全管理の分野にAIを活用するソリューションなども提案しています。

一例として、米国のFogHorn Systemsと日本国内でのパートナー契約を締結し、同社が開発するリアルタイムデータ処理システム『FogHorn』を用いてエッジデバイスでのAI処理を実現しています。

クラウド処理の場合、機器類から取得したデータをサーバーへ送るまでにクレンジング(正規化)する必要があります。一方、エッジAIでは機器から届くストリーミングデータのクレンジングから解析までを同一ハード内で完結するため、クラウドでは心配なネットワーク負荷や処理待ちの時間、サーバーの稼働料金などを気にしなくてもよいのです。

本システムにより、機械や設備から取得した大量のデータをリアルタイムに解析できるエッジAIならではの利点をフルに享受でき、推論処理を用いた監視や制御が可能となります」

製造ラインでの部品検査

設備の監視のみならず、高度な品質管理が求められる製造業のラインでもエッジAIは力を発揮できると川村氏は語ります。

――川村
「ラインでの部品検査時に異常な部品の特徴をあらかじめセンターで学習し、生成されたモデルをエッジ部分で稼働させるという使い方もできます。

ライン部分にはカメラを設置し、その画像をエッジデバイスで推論することで即時に異常な部品を判別できます」

もっとも、異常部品のパターンは日々新たに「検出」され続けるもの。

――エッジ側の推論はアップデート可能なのでしょうか?

――川村
「もちろん可能です。推論をしながら、さらに推論結果も用いて新たな異常部品のパターンを学習をし続けるオンライン学習がひとつの解決方法です。

その際、ネットワークを介して遠隔アップデートする方法もありますが、工場など高度なセキュリティが求められる場所ではエッジの機器をセンターへ物理的に持ち込み、オフラインでアップデートする選択肢も考えられるでしょう」

――例として挙がったほかに、エッジAIを導入したほうが良いと思う分野はあるのでしょうか?

――川村
「基本的には、どの部分においてもエッジAIは有効であると思います。

農業センサーのように小さなデータを頻繁にやりとりする、リアルタイム性があまり求められていないケースであれば推論部分もセンターで担ってしまい、エッジ部分の処理を極力小さくすることも考えられるでしょう。

求められていること、自分たちがどうしたいかによってアプローチの方法は変わってきます」

むしろクラウドが安全かもしれない。セキュリティ×エッジAIの考え方

これまで一枚岩であった「学習」と「推論」の分離という考え方が魅力的なエッジAI。一方で気になるのはセキュリティ面ですが、現状どのようにして担保されているのでしょうか。

――川村
「機密データをクラウドに送信したくないケースもあるでしょう。

ただ、自動的にアップデートが実施されるクラウドのほうがセキュリティ面が担保されているという見方もあります。セキュリティ面の担保は現在試行の段階です。

このあたりは「機密データはオフラインベースで書き換える」「学習モデルを作り上げたら(元の)データを消去する」など、実運用に即してベストプラクティスが生まれてくると思います」

クラウドにデータを挙げることはセキュリティ的に懸念される点ですが、むしろクラウドのほうが安全という見方もできると川村氏。この部分については、セキュリティに対しての考え方によっても変わってきそうです。

AI活用の敷居を下げる選択肢

負荷の分散や軽減という観点から見ると、エッジAIはハードウェアやネットワークのスペックが充実するまでの過渡期を担う存在なのではないか、という疑問も頭をもたげてきます。

これから「上位」のインフラが登場したとき、エッジAIはどう変わっていくのでしょうか。

――川村
「ネットワークの通信速度が上がればレイテンシーも改善しますが、一方でさまざまなデータをさらに取得できるようになっていきます。そうなれば学習量も比例して増加することとなります。

情報がリッチになるほどAIの進化も加速し、処理もリッチなものが求められ続けていくでしょう。エッジとセンターを分けるメリット自体は今後も変わらないと思います」

エッジAIは、これからAIを導入しようと考える人々にとって「敷居を下げる存在」になると川村氏は言います。

――川村
「たとえば、クラウド上のインスタンスで試しにAIを使ってみようという場合にエッジAIは力を発揮します。

とくにアジャイル開発の現場においては初期段階でのPoC(Proof of Concept:概念・アイデア実証)が必要不可欠ですが、このPoCにおいては、学習・推論処理を何度も実施検証する必要があり、『とりあえず使ってみる』ことができるエッジAIは有効です」

「エキスパートシステム」としてのAI

「道具」ばかりが増えている現状を変えなければ日本のAIは次の段階に行けないと危機感を吐露する川村氏。開発側とビジネス側が両輪で育っていくことが大事だと語ります。

――川村
「計算機のなかだけの知識は限られます。触覚や味覚などのデータも学習データに入れていけば『頭のいいAI』が作られていく。

リアルな世界を大量にセンシングすることで、AIはより高度な処理が可能になるのです。さまざまな種類の情報を学習することでコンテキストを把握できるようになり、『融通がきく、空気が読めるAI』が生まれてほしいと思います」

これからは、さまざまな領域に特化した「エキスパートシステム」としてAIが活用されていくだろうと語る川村氏。エッジAIは、導入への敷居を大きく下げる存在になりうると話します。

――川村
「AIを活用する企業同士が学習データを持ち寄り、世の中のAIが共同で学習していく枠組みができればよいと思っています。

たとえば『人事システムに特化したAI』が登場してもいい。エッジAIではこうしたアプローチも容易になります。

将来的には、AIが産業の各領域に特化し、かつ汎用的に活用できる仕組みを作り上げていきたいと思います」

社会の発展、産業の成長には、やはりAIの存在は欠かせません。エッジAIは、その成長をさらに加速させる有効な手段、アプローチとして今後さらに定着していく技術になるでしょう。