日本に勝機はあるか。AI開発における産学連携の意義

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世間では、日本がAI領域で遅れを取っていると言われることがある。データを見る限りそれは受け止めざるを得ない事実だ。

国際大学GLOCOMが2017年に行った、就労者3万人を対象としたアンケートによると、2017年時点での「日本企業の人工知能導入率」は3%。アメリカ企業の14%(総務省が行った別調査)に鑑みると明らかに低い。

人工知能関連の論文投稿数は、2017年のアメリカ人工知能学会について科学技術振興機構(JST)が行った報告によれば、日本の人工知能関連の論文投稿数は100本未満。中国やアメリカが同年に700本以上の論文を出しているのと比べると、差は歴然だ。

政府支援にも大きな差がある。日本政府が2018年の年度予算案に計上した予算は約770億円と、同年における中国政府のAI開発予算4,500億円と比較すると2割以下にとどまっている。このままでは、中国を筆頭としたAI先進国との差が開くのは明白だろう。

調査会社トラクティカの試算によると、世界全体におけるAIの市場規模は、2017年時点で100億ドルであるのに対し、2030年に3671億ドルにまで拡大する。AI開発は喫緊の課題と言えるなか、日本に勝機はあるのだろうか。

日本企業の自前主義が開発の障害に

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国土が狭く、天然資源にも恵まれない日本にとっての生命線は高い技術力だ。これまで日本はものづくりの国として、製造業を中心に技術開発に力を入れ、先進国へと躍進を遂げた。その日本が、なぜ最先端技術領域のAI開発で遅れを取るのだろうか。

大きな理由は、日本企業は、自社の中央研究所で基礎研究を行い、自社のみで完結してプロジェクトを進める、いわゆる“自前主義”の傾向が強いと言われていることだ。以前はそれでも通用したかもしれないが、AI開発には最先端かつ高度で複合的な技術力、精度の高い大量のデータが必要とされ、開発には費用と時間がかかる。

企業に十分なAI人材がそろっていないことに加え、AI開発の効果は未知数のところも多い。費用対効果の観点では、一企業がプロジェクトとして採算ベースで進めるのはまだまだ厳しいと言わざるを得ないのが日本の現状だ。

ただ、日本が絶望的な状況にいる、というわけではない。人材の観点でいえば、東京大学などの研究機関は、最先端の技術力とAI人材を有していることも多い。

その一方、彼らの大半が経営スキルに疎いことが少なくない。技術力はあっても、社会実装に繋げるチャンスを逃していることもあるのだ。ここに、日本の勝機があるのではないだろうか。

人材不足が課題の日本企業が、積極的に研究機関と連携を取ることで、その人材、技術力を生かし、社会実装を進める産学連携が必要不可欠だ。

AI開発最前線。全国的に広がる産学連携

松尾研究室HPより編集部がキャプチャ

AI開発における企業と大学の産学連携が動きだしている事例がある。

世界でもトップクラスの人工知能技術を持つ東京大学の松尾研究室は、社会実装を意識した企業との共同開発を進めている。具体的には、

  • リクルート
  • 日本経済新聞社
  • ドワンゴ
  • みずほ銀行

    など、さまざまな大企業と連携し成果を生み出している。

    早稲田大学理工学術院は、DMM.comとの共同研究室「早稲田・DMM AIラボ」を開設した。まずはレコメンドとセキュリティ分野で連携し、将来的には画像処理や量子コンピューターにも研究領域を広げる予定だ。

    大阪大学はダイキン工業とAI人材の育成や、AIを活用した共同研究などを含む包括連携契約を結んだ。両者はAI、IoTの技術を、ダイキンが持つ空調技術の知見と組み合わせ、新たなサービス開発に繋げていくと発表した。

    また、研究費や人材の数で大都市圏の大学に劣るとされる地方大学でも、地域の課題解決に向けて企業との連携が進んでいる。

    はこだて未来大学の副理事長兼教授である松原 仁氏と、株式会社ミラック工学の村松洋明社長が共同で設立したベンチャー企業が、AI搭載の画像認識システムで、カニなどの魚介類を選別する技術を確立した。人手不足に悩まされる漁業分野において、人による選別作業を自動化し、水産業の生産性向上に繋げる狙いだ。

    はこだて未来大学は、2017年に「未来AI研究センター」を立ち上げている。AI研究の第一人者である松原仁教授が中心となり、漁業、水産加工業の効率化や遠隔医療支援などでのAI活用をテーマに企業、大学機関との共同研究に取り組む姿勢を示している。

    AI開発における企業と大学などの研究機関による共同開発の成果は、まだ進行中のものも多いが着実に現れている。産学連携はより一層進んでいくだろう。

    総力を上げて開発に挑む。産学連携の新たな形

    最近は、AI開発において、発展した産学連携の形も現れてきている。競合関係にある企業同士が、基礎研究で手を結ぶ試みが進み始めたのだ。国際競争が激しくなるなか、自前ではまかないきれない分野で協調し、開発の速度を上げる狙いだ。

    三菱ケミカル、住友化学、旭化成、三井化学の4社と物質・材料研究機構は、基礎的な高分子材料の研究を始めとし、AIなどを活用した革新的な材料の開発を進める。

    物質・材料研究機構などの取り組みでは材料の性能向上につながる新たな発見が次々に出てきているという。

    約30種類の「創薬AI(人工知能)」の開発を進めている産学連携プロジェクト「ライフ インテリジェンス コンソーシアム(LINC)」は2019年2月27日、第2回全体報告会を開き、4件のプロジェクト内容を公表。このうち「有望提携先や研究テーマの自動探索」を行うプロジェクトは2019年夏にも商用化すると発表した。

    LINC HPより編集部がキャプチャ

    LINCには、国内を中心に約100の大手製薬メーカー、ヘルスケアやIT関連企業、研究組織が参加している。京都大学や理化学研究所などが事務局を務め、2020年9月まで3カ年計画で約30種類のAIの開発プロジェクトを並行して進めている。複数の企業や研究機関が連携し、オールジャパンで競争力を底上げする狙いだ。

    最先端技術の開発において、産学連携だけでなく、産産学学連携といった重層的な連携の動きが広まってきている。開発スピードを上げるためにも、重層的な連携は今後求められていくだろう。

    精度の高いデータが日本の強みに

    日本では、AI開発では課題ばかり取り上げられるが、日本だからこその“強み”もある。

    AI開発において、まず重視されるのはデータの精度だ。データの質が低ければ、いくら学習を進めても実用化に足り得る精度にはならない。データを集めるだけでなく、選別できる能力が求められている。日本の高い技術力を生かせるのはどの分野だろうか。

    この点でいえば、医療分野で日本に可能性があるだろう。日本は医療分野で世界トップレベルといわれる高い技術力を持つ。学習に適したデータを高い精度で用意できることが期待される。AIを活用した新薬の開発や、医療ロボット制御に役立つAI開発の領域で、日本は躍進できるのではないだろうか。

    たとえば、富士フイルムホールディングスは2018年、大学などの研究機関との共創により次世代AI技術を開発する拠点となるFUJIFILM Creative AI Center「Brain(s)」(ブレインズ)を開設した。

    Brain(s)HPより編集部がキャプチャ

    関連記事:次世代AI開発拠点FUJIFILM Creative AI Center「Brain(s)」が社会課題を解決する

    富士フイルムHDは、主に画像診断や一般写真の分野で、画像から必要な情報を読み取るAIを開発してきたが、今後、医療の検査結果などの生体情報を画像情報と組み合わせて「統合的に理解や判断を行い、現場を支援するAI技術」へと発展させると発表している。独自のAI技術を、診断レポートや医学書などの言語化された知識やヒトの経験知と結び付けることで、さまざまな社会の課題を解決する次世代AI技術を開発していく方針だ。

    公益財団法人がん研究会がん研究所とFRONTEOヘルスケア、は最先端のゲノム解析技術とAIを活用し、がんの予防・診断、新規の免疫療法などのシステム開発に向けた共同研究を開始している。

    学会誌などで発表されている論文のなかには、AIの学習データとして良質でないものも含まれており、それをそのままAI開発に利用すると、学習に悪影響を及ぼしかねない。開発を予定している診断支援システムでは、最新の医療情報に明るいエキスパートが“良質”として選び出した論文や医療情報、その他最新情報を用いて機械学習させることで精度を高めているという。

    このように、医療分野ではこれまで日本が培った経験を生かした共同開発が今後も期待できるだろう。

    AI開発の今後の展望

    日本はこれまで、変化の激しい環境に適応できず、AI開発で出遅れた。だが、高い技術力、優秀なAI人材を有する大学などの研究機関との産学連携によって成果も出てきている。

    さらに、複数の企業や大学などの研究機関が垣根を越えて共同開発に臨み、産産学学連携といった重層的な連携も生まれている。オープンイノベーションが徐々に浸透してきているといえるだろう。

    日本がこれまで培った経験、技術力を生かしながら、総力をあげてAI開発に取り組むことが、日本の勝機になるのではないだろうか。