Preferred Networksのお掃除ロボット発表が大きなニュースになった最新技術の展示会CEATECでは、カンファレンス「『Connected Industries』におけるAI人材育成」も開催されました。
ディープラーニングをビジネスへ活用できる人材育成のため、G検定やE資格といった資格を設けたり、ディープラーニングの社会実装にさまざまな角度から取り組むJDLA。
これから求められるAI人材像はどのようなものなのか。これからAIを学ばんとする人材は何を目指すべきか。登壇企業のディスカッションを抜粋してお届けします。
河野 孝史 氏
経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 課長補佐
井崎 武士 氏
日本ディープラーニング協会 理事
伊藤 明裕 氏
株式会社西川コミュニケーションズ 企画統括部 AI事業開発室 次長
中井 友昭 氏
株式会社eftax 経営企画部 取締役・マネージャー
渡部 大志 氏
埼玉工業大学 工学部情報システム学科 教授
Pauline Girot de Langlade 氏
在日フランス大使館 経済部 参事官
JDLA立ち上げから一年。その活動成果
創立から約1年のJDLAは、主な活動としてディープラーニングの活用促進や事例を発信しており、現在正会員企業は18社に登ります。
セッション冒頭では協会理事の井崎氏からJDLAの活動報告がありました。
「具体的な活動としては、
- ディープラーニングの利用実態市場調査
- AI・データの利用に関する契約ガイドライン策定への提言
- 書籍監修を通してのディープラーニングの産業活用事例の発信
- G検定・E資格の運営
などを協会として取り組んできました。11月24日にはG検定も控えていますが、JDLA監修のG検定公式テキストも出版予定です」
G検定とは、ディープラーニングに関する知識を持ち、ディープラーニングがビジネスにどこまで活用可能か判断できる人材を認定する資格。技術のみに偏らず、ビジネスだけでもない、バランスの取れた人材を育成するための資格です。
教科書はこちら。G検定を受ける人は必読の教科書と言えるでしょう。
「日本では約4.8万人のディープラーニング人材が不足しています。そのため、そもそも何を勉強すればいいのか体系だった知識や、どのように勉強すればいいのかの How の部分がなかったことが、G検定を作った背景でもあります」
勉強の指針としてシラバスもきちんと策定。合格者のSlackコミュニティには1334名が参加し、活発に情報共有や勉強会が開催されています。
企業の中でディープラーニングの話ができる仲間がいないという話はよくあります。孤独になりがちなユーザー企業の担当者にとっても、G検定合格者コミュニティは重要な居場所になる。こうしたコミュニティ機能もG検定のひとつの側面です。
トップダウンからボトムアップへと移行した、AI人材育成の動き
セッション中盤では、JDLA会員企業である西川コミュニケーションズのAI人材育成の取り組みについて話されました。
西川コミュニケーションズはいわゆるユーザー企業。これまでは印刷やDMを中心に企業のマーケティング支援をおこなうビジネスモデルでしたが、2018年からはAIオリエンテッドなビジネスモデルへ転換を計っているそうです。
「2018年より、全社的にAI人材育成に取り組んでいます。当初はトップダウンで導入を進めていました。その結果、社員からボトムアップでさまざまな取り組みが実施されるようになってきました」
トップダウンで実施したのは、
- ITパスポート取得の義務化
- 東大松尾教授の著書を全社に配布
- AI事業開発室を新設
- 社内勉強会の開催
- G検定の受験
など。一方、ボトムアップの取り組みでは、AI事業開発室が旗振り役となり、営業・業務・総務の各部署の社員が、それぞれが業務のどの部分にAIを適用できるかを考えてプレゼンする取り組みも頻繁に開催されているといいます。
「プレゼンで出てきたアイディアを基に、果たしてAIで実装するべきか、現状の技術で実装可能かどうか検証しながら実践しています。
そもそもワークフローが悪ければその見直しや、RPAやGAS(Google App Script)などで組めそうであればまずはやってみるなど、試行錯誤しています」
AIに限らず、業務効率化のためにRPAやGASなどを活用するなど、さまざまな取り組みが実践されています。
西川コミュニケーションズには直接取材もさせていただきました。その記事も楽しみにお待ちください。
技術でどこまでできるか理解し、儲かるビジネスを作る “ブリッジ人材”
その後、これから必要なAI人材についてのディスカッションへと会は移りました。これからどんな人材が求められるのか? JDLA理事の井崎氏が口火を切ります。
「ディープラーニングで何ができるか、何ができないか判断できる人材が必要だと思っています。実際に手を動かすエンジニアだけでなく、企業のトップすらもディープラーニングを理解して、どのような事業領域に適用して、どういったビジネスを作っていくのか。
当然儲かるビジネスを作らないと意味がないので、そこまで落とし込めるような人材ですね」
アルゴリズムをスクラッチで作れる人材も必要ですが、一方でオープンソースでそれらのアルゴリズムは公開されており、すべての人材が一から作れるようになる必要はありません。あるものを適切に活用し、ゴールへ進めていける人材が求められています。
続いて「教える側」の代表としてデータ分析を軸にサービス提供する株式会社eftaxのマネージャー 中井氏。
「統計学が流行した頃、スキルアップのために統計学を学ぶ人が増えました。同じことが今AIの領域でも起こっています。ディープラーニングでなくとも、中小企業の課題はほとんどがルールベースで解決できるのですが、ディープラーニングという言葉に引っ張られてしまう。
課題起点で技術を学んでいかなければ、“何のために学んでいるのか”分からず、意味がありません。課題と技術をうまく交通整理できる『ブリッジ人材』が必要だと思っています」
いわゆる「AI」がブームになったことで、業務に活かせるか分からないまま学ぶ人も多いと指摘。課題が先で、解決するためにディープラーニングを学ぶ姿勢でなければ意味がない、と話します。
ユーザー企業であり、JDLA会員企業の西川コミュニケーションズ 伊藤氏も「ブリッジ人材」について言及。
「弊社は “教える側” ではなく “使う側” ですが、技術とビジネス双方に通じる話ができるという意味で『ブリッジ人材』はまさに弊社も必要としています。
一方、ユーザー企業の視点で必要と思う人材は、RPAやGASなどを使って、簡単な業務効率化ができる人。弊社には経理の女性がGASで業務を効率化しようとする動きがあり、いい流れができています」
ボトムアップでRPA・GASを使う動きがあるのは、トップダウンだったものが自走し始めていていい流れです。しかし、なぜ西川コミュニケーションズはここまでボトムアップの動きが活発なのか? 伊藤氏はこのことについても話していました。
「ボトムアップが活発なのは、逆説的ですが、トップダウンで “やろう” と決まったからというのがあるでしょう。徐々にスモールスタートでもいいのですが、全体に広がりにくい。トップダウンでAIに興味がある人は全員参加しても良いスタンスを示すことで、興味ある人をあぶり出したい意図もありました」
G検定はブリッジ人材への第一歩
「ブリッジ人材」という言葉も出てきたように、今求められるのは技術でどこまでできるのか理解し、ビジネスを作っていける人材。
その第一歩として、網羅的に知識を得られるG検定は最適です。締切は明日に迫っています。ブリッジ人材を目指す方は、受験してみてはどうでしょうか。