花王株式会社メイクアップ研究所は12月7日、AI(人工知能)技術のひとつであるディープラーニング(深層学習)を用いて肌の質感を評価・可視化する「肌評価AI」にヒトの感性を学習させ、肌の精緻な解析とヒトの視点・判断をあわせ持つ「Kirei肌AI」を開発したと発表した。
「肌評価AI」は同社が2021年1月に開発したと報告したAI。顔画像から切り出した少領域肌画像「肌パッチ」をディープラーニングで学習することを特徴としている。「素肌と化粧肌」「化粧直後と時間が経った後」など、さまざまな肌状態のわずかな質感の違いを識別できる。
しかし、メイクアップしたときの肌の印象を的確に評価するためには、「その肌を見て、ヒトはどう感じるか」というヒトの視点の学習が必要だった。
ヒトの視点が非常に重要な肌質感のひとつに「つや」がある。つやは表面の光沢を表す。肌において好ましくない光沢は「テカリ」とされ、美しい光沢であるつやと区別される。
過去に開発したAIはテカリのある肌を「光沢が強い」という評価しかできなかった。「つやではない」と判断できるのは、肌の印象を的確に捉えられるヒトの目の特徴だった。
今回開発した「Kirei肌AI」は、専門判定者のつや評価(視覚的つや)の基準にのっとり、機器では客観的に評価できなかった肌のつや感を高い精度で予測できる。
従来AIに実装済みだった6項目に加え、専門判定者が評価できる項目のうち「つや」「透明感」「肌表面のなめらかさ」など肌の色・質感に関する10項目をAIに学習させた。学習には、20〜39歳の日本人女性83名の顔画像から切り出した肌パッチ画像群9306枚、およびその画像に対する専門判定者の目視評価結果を使用。その結果、専門判定者の目視評価項目10項目を、相関係数0.7前後の精度で予測可能なAIの構築に成功したという。
花王は、専門判定者のつや評価「視覚的つや」指標と、既存の肌評価AIが評価するつや・光沢に関連するその他の指標を同時に出力することで、つやの多面性を捉えられると考えた。「視覚的つや」とつや・光沢と関連すると考えられる以下3つの評価項目をAIで評価し、評価項目間の関係を確認した。
- (1)化粧くずれ度:ファンデーション塗布直後と時間経過後のどちらに近いか。テカリと強く関係
- (2)Powderly/Glossy:パウダー・リキッドファンデーションのどちらを塗布した肌に近いか
- (3)Dry/Wet:乾燥した素肌とスキンケア後の濡れた肌のどちらに近いか
その結果、「視覚的つや」は「化粧くずれ度」と負の相関を示し、「Powderly/Glossy」とやや強い正の相関を示した。「Powderly/Glossy」と「Dry/Wet」は「視覚的つや」との相関が高くないことがわかった。
AIは専門判定者が「つや」と「テカリ」を明確に区別し、メイクアップによるつや仕上がりのような美しいつやを「視覚的つや」と評価していることを的確に学習したと考えられる。
また、「Kirei肌AI」でマット肌、テカリ肌、つや肌の画像を解析すると、これらの肌はまったく異なる質感であることを明確に示した。テカリ肌は「Glossy」「Wet」「化粧くずれ度」が高く、「視覚的つや」は高くないと判断した。
一方で、つや肌は「視覚的つや」が非常に高く、「Glossy」でありながら「化粧くずれ度」は低いという評価になった。
「Kirei肌AI」は、単なる光沢のありなしではなく、「Powderly/Glossy」「化粧くずれ度」など光沢のわずかな違いを区別し、好ましく見えるかというヒト特有の視点も含んだ繊細な分析が可能なAI肌評価技術であると言える。
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