キユーピー、AI活用に成功した4つのワケ。食品の原料検査の事例から考える

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キユーピー株式会社 生産本部 未来技術推進担当 テクニカル・フェロー(兼)未来技術推進担当 次世代技術推進チーム チームリーダー 荻野武(おぎのたけし)氏

「AI活用事例を聞く」では、製造や建設、金融、不動産、エンタメなど、さまざまな業界における人工知能(AI)活用について、各企業の担当者に聞いていく。

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AIは日々、関連ニュースを目にすることはない日はないほど、熱い注目を浴びている。一方で、実際のビスネス現場での活用にはなかなか結びつきにくい状況と言える。

そんななか、キユーピー株式会社では、チャットボットを使った顧客対応など、さまざまな場面でAIを活用している。すでに社内では10数件のAIが稼働しており、現在でも数10件以上のAI活用プロジェクトが動いているという。

「AIを活用した原料検査装置をグループに展開」より

なかでも、キユーピーが手がける食品の原料検査装置は注目度が高い。AIにおけるディープラーニング(深層学習)や画像処理技術を活用することで、原材料の不良品を検知できるというものだ。

現在、本装置にはジャガイモや人参など10種類以上の原料が対応しており、原料はベビーフードやカット野菜などに活用されている。

たとえば、ベビーフードに使われているポテトが少し変色していたら、保護者が赤ちゃんに食べさせるときに、安全性は保証できていても、心配になる可能性がある。従来は人の目視でこのような不安を取り除いていた。

そんな現場に原料検査装置を導入したところ、効果は絶大だった。

従来と比較すると、処理能力は2倍。現場に導入したところ、作業工数が3分の1になったという。具体的には、3人必要だったところが、1人で済むようになったとのこと。

今回は本装置について、キユーピー株式会社 生産本部 未来技術推進担当 テクニカル・フェロー(兼)未来技術推進担当 次世代技術推進チーム チームリーダー 荻野武(おぎのたけし)氏に話を聞いた。

この記事では、荻野氏が語る原料検査装置を導入した経緯や工夫などを通して、キユーピーがAI活用に成功している理由を4つのキーワードで考えていく。まずは、1つ目のキーワードからだ。

1.「信念」を貫く
──人間による検査は「ものすごく大変な作業」

なぜ、キユーピーはAIを活用した原料検査装置を導入したのか? その背景には「信念」が隠されている。荻野氏は「AIで何かやるにも明確な課題が必要です。AIは1つの道具であり、目的ではないからです」と話す。

キユーピーは「人への優しさ」を重要視しており、従業員に対しても「優しさ」を大切にしている。AIで何かやるにも明確な課題が必要と考える荻野氏は、社内で「大変な作業」といった課題を探すことにした。その結果、たどり着いたのが原料検査装置だった。

『大変な作業は何なのか?』と全部チェックしたところ、1番大変な作業の1つに原料検査がありました。ずっと四六時中、目を凝らして、集中力を上げて、不良品を見つけ出さなければいけない。ものすごく大変な作業です

さらに、信念と言えば、キユーピーの創始者である中島董一郎(なかしまとういちろう)は「良い商品は良い原料からしか生まれない」という言葉を残している。荻野氏は原料検査装置について、キユーピーの課題に加え、「1番重要なキユーピーの理念に合致している」と感じたという。

2.「タイミング」をつかむ
──ディープラーニングが飛躍した2016年に取りかかった

「AIを活用した原料検査装置をグループに展開」より

ビジネスには「タイミング」が重要だ。キユーピーが原料検査装置に取りかかったのは、ディープラーニングが飛躍的に進歩した2016年だった。

「4年ほど前、ディープラーニングが非常に伸びてきました。ディープラーニングは画像系には非常に強いです。『ディープラーニングを取り入れてやってみよう』と始めたのが原料検査装置です」

もちろん、2016年頃にも、世の中には原料検査装置はすでに存在したが、十分な精度はなかったと語る。現に、キユーピーでは1番良いと言われるヨーロッパの原料検査装置を導入している現場もあるものの、検査の精度が悪いうえに、値段が非常に高額とのこと。キユーピーが原料検査装置に取りかかったタイミングは正解だったと言える。

3.「逆転の発想」を見つける
──「不良品ではなく、良品を見つける」手法を採用した

同じような検査ができる欧州のメーカーが手がける装置の精度は70%ほどだが、キユーピーは特定の原料になるものの、最初に対応したポテトやにんじんに対しては、ほぼ100%に近い精度を実現している

なぜ、キユーピーの装置はこれほどまでに高い精度を発揮できるのか? その背景には「逆転の発想」がある。荻野氏は同装置の精度が高い理由について、「我々の原料検査装置の特徴は、『良品』検査装置であることです」と述べる。

従来の装置はいわゆる「Bag-of-Features(バッグ・オブ・フィーチャ)」の考え方で、登録した不良品を見つけるというやり方だった。一方で、キユーピーの装置は不良品ではなく、良品を見つけるという手法を採用した。

「原料の不良品はパターンが無限にあります。自然な農産物だからです。なおかつ、夾雑物(きょうざつぶつ)と呼ばれる異物の混入もあります。異物もこれまた無限にパターンがあります。全部登録するのは現実的には不可能です」

このような状況を踏まえると、これまでの原料検査装置は、従来の画像認識を活用していることもあり、十分な精度を発揮できないのは当然と言える。一方で、キユーピーの原料検査装置は逆転の発想に加え、ディープラーニングを活用している。

良品にもさまざまなレベルがあり、いろんなパターンがある。キユーピーは100万個以上の良品を使用し、ほぼすべてのパターンをディープラーニングで学習させた。これらのデータに当てはまらないものが通過したときには、「学習したものと違う」と教えてくれることに加え、毎日精度も上がると説明する。

4.「現場」を重視する
──「現場」の意見が抜けると、失敗する

「AIを活用した原料検査装置をグループに展開」より

また、荻野氏の発言からは「現場」を重視する姿勢が見て取れる。荻野氏は原料検査装置を導入しようとしている食品メーカーやAIのベンダーに、「原料検査装置を開発しているが、上手くいかない」や「なかなか導入までいかない」といった相談をよく受けるという。そのような事例には何が抜けているのか?

「(そのような上手くいかない事例には)1番何が抜けているか言うと、『現場』が抜けています。エンジニアや技術者だけでやっていて、『こんな良いものできたんだから、使えるはずだ』と現場に持っても、現場には『こんなものは使えません』と断られてしまいます」

荻野氏は「我々は現場が1番強みだと思っています」と強調する。原料検査装置は現場の意見を取り入れ、現場と一緒に作り上げた。現場から見ると、自分たちの意見が全部取り入れられた使いやすい機械なので、導入にあたって障壁がなくなるというわけだ。

今後はさらに多くの原料に対応できるように改良を続ける

今後、原料検査装置をどのように展開する予定なのか? キユーピーは計画を発表している。キユーピーはマヨネーズやドレッシングのイメージが強いかもしれないが、加工品やサラダ、惣菜、ベビーフードなど、さまざまな商品を手がけている。原料の種類で言うと、何百種類以上もあるという。

「現在のAIだと、充分に精度が出ない原料もあります。それに対して、精度をどんどんあげていくというのは、サイバー系とフィジカル系どちらも改良しているところです。(具体的には)サイバー系はAIのアルゴリズムを改良し、フィジカル系の色の照明やカメラ、ほかの測定モーダルも研究開発しています」

キユーピーは、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)生物系特定産業技術研究支援センター(生研支援センター)が公募する、「令和2年度 イノベーション創出強化研究推進事業」に採択された。キユーピーは本事業において、さらにさまざまな原料に対応できるように、向こう3年間で原料検査装置の研究開発を進めるとしている

今後、スーパーやコンビニで手に取ったキユーピーの商品には、原料検査装置のチェックを得た原料を使ったものも多くなると考えられる。キユーピーによるAIを活用した取り組みは、これからも続いていく。

「AI活用事例を聞く」第1回目はこちら

「AI活用事例を聞く」は、製造や建設、金融、不動産、エンタメなど、さまざまな業界におけるAI活用について、各企業の担当者に聞いていく連載だ。第1回目の株式会社コメ兵に興味のある方は、以下の記事をチェックしてほしい。