構想・PoCは内製化せよ。AI技術特性×ドメイン知識を理解した「アセスメント人材」が企業に必要な理由

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AIは「研究・開発」から「活用・定着」の時代へと移りつつあります。

それにも関わらず、依然として日本のAI活用に関するプロジェクトは、そのことごとくが失敗に終わっています。

AI活用に成功している企業は全体の2.9%程度に過ぎす、AI活用はまったくといってよいほど定着していないのが実際のところです。

出典:キカガク提供資料

AI活用を成功に導くためには企業に何が必要なのか? AI領域で教育、コンサルティングサービスを提供する株式会社キカガクの花本 瞬氏、多森 康二氏に話を聞きました。

花本 瞬氏
株式会社キカガク 事業開発 兼 組織開発責任者

多森 康二氏
株式会社キカガク 事業開発 兼 財務責任者

ユーザー側に「AIの技術特性」×「ドメイン知識」を兼ね備えた人材が不足している現状

――日本でAI活用に成功した企業はまだ3%にも満たないといいますが、その要因はなんだと考えますか?

――花本
「AI活用を企図する事業会社(ユーザー)側に、AIの技術特性(何ができて、何ができないのか)とドメイン知識、双方の理解を兼ね備えた人材の不足が要因だと考えています。

日本は、システム開発を外部開発企業(ベンダー)に委託するのが慣習で、AI関連も例にもれずベンダーに委託しているのが一般的です。ここで問題なのは、ユーザーがベンダーに“丸投げ”してしまっている点です」

AI(機械学習)は、データが重要というのは誰もが知るところ。そのデータの取り扱いについては、AI活用を検討している業務領域の知識・経験(ドメイン知識)によるところが大きいのは、意外と見落とされがちです。

――花本
「AI活用は業務改善から入るのが一般的で、我々もお勧めしています。しかし、当該業務全般を俯瞰し、どの部分をAIで代替すると経済的なインパクトが出せるのか思案するには、一定の業務領域の知識・経験が必要となります。

そのうえ、現在の活用事例の多数を占める『教師あり学習』の場合、

  • どのようなデータをAIに学ばせるのか
  • AIからアウトプットされるデータをどのように使うのか

については人間が考える必要があります。

強化学習』を用いる場合でも、AIに学習させるためには『報酬』を設定する必要がありますが、どのように報酬を設定するのかについては、やはり人間側が考える必要があります」

つまり、AI活用を考える上では、一定以上のドメイン知識が必要不可欠。ベンダー側は一定の技術力はありますが、ユーザー側のドメイン知識を有しているのは極めて稀です。

だからこそ、AI活用を考える時に、ユーザーがベンダーに頼り切る = 丸投げしてしまっている現状が大いに問題」と花本氏は語ります。

――花本
「ユーザーがAI活用をベンダーに依頼し、何らかのデータを渡したとしても、

  • どのようなデータをAIに学ばせるのか
  • どのようなデータをアウトプットし経済的な価値を産み出すのか

の構想・企画を練る上流工程を、ベンダー主導で思案し構想を描いていくのは、多くの場合、筋が悪いものになります。

その結果、『PoC貧乏』という、PoC段階で大いに失敗を繰り返し、投下したリソースの割に実りがなかったという状態に陥るのです。PoCを繰り返した結果、そもそも当初の課題設定自体が不適切だったということが極めて多いです」

――そうなると、これからAIを活用していきたい企業はどう対策を打っていくべきでしょうか?

――花本
「AI活用は、

  • 構想
  • PoC
  • 実装
  • 運用

の4つの工程があるのが一般的ですが、このうち構想とPoCについては、ユーザー側で内製化するのが理想的です。

こうすることで、投下するリソースを極力おさえながらAI活用の成功率を上げることができるでしょう。ベンダーに委託した場合、構想・PoC段階でコストが予想外に上振れするのが常です。

とはいえ、PoCには構想内容の実現可能性を確認するためプロトタイプの作成が必要となり、一定の技術力とそれに応える人材が必要です。近年ますます価格が高騰しているAI領域のエンジニアを、ユーザー側がはいきなり雇用するのはあまり現実的ではありません。初期段階でPoCの内製化は難しいでしょう」

そこで、まずは「構想」を担える人材をユーザー側で内製化するのが、ユーザー側が今取るべき選択肢の一つであると考えているそう。

「構想」を担える人材には、次の3つの素養が必要となります。

  • AIの技術特性(何ができて、何ができないのか)を理解している
  • 業務上の問題に対して、AI活用を通して解決に導く構想を描ける(下図①)
  • 経済的側面を踏まえ、構想内容を実現するため実際にプロジェクト化し推し進めていける(下図④)

出典:キカガク提供資料

上記3つの素養を満たす人材をキカガクでは「アセスメント人材」と独自に定義。AI活用に取り組む際、ユーザーはなるべく早く、アセスメント人材の内製化に取り組む必要があるといいます。

――花本
「アセスメント人材を内製化することは、これまでのベンダー主導からユーザー主導につながり、AI活用時にさまざまな恩恵をユーザー側にもたらします。

たとえば『無駄なPoCを減らすことができる』のも1つの恩恵でしょう。PoCをベンダーに委託する場合の費用感は、1回につき200~1,000万円程度が多いです。内製化することで、

  • AIを活用して解決すべき問題なのか?
  • どの程度の経済的なインパクトが期待できるのか?
  • AIを導入するにしても一から作成すべきなのか?すでに出来合いのサービスで対応できないのか?

など、PoC以降の段階に着手すべきかどうかをユーザー側で見極めることが可能となり、リソースの浪費を防止することに繋がります」

アセスメント人材を育成するための最適手法

――アセスメント人材を内製化する必要性はわかりましたが、全くAIの知識を持っていない人を、ゼロから育成するのは大変ではないでしょうか?

――花本
「過度な育成コストが必要かと言われると決してそうではありません。いくつかあるAI人材系の中でも、アセスメント人材においては、ユーザー側の育成にかかる投資対効果は抜群に良いです。

アセスメント人材の育成対象は、所属する企業のビジネスや業務をある程度把握しており、かつ立ち上がったプロジェクトを主導するビジネスサイド(企画担当者など)の方が想定されます。

これらの方がまずおさえるべきは、『AIは何ができて、何ができないのか』を把握することです。注意が必要なのは、技術的に細かな知識まで、あれもこれもと欲張って習得しようとしないことです」

アセスメント人材のもっとも重要な役割は、AIを自ら作ることではなく、業務上の問題に対してAIを適用し、経済的な恩恵を享受できるのかどうか、プロジェクトが立ち上がる前に「見極める」ことだといいます。

――花本
「加えて、AIの導入が適切と判断し、実際にプロジェクト化した後は、社内外問わずにデータサイエティストなどプロジェクトメンバーのディレクションを担い、構想実現のためプロジェクトを推し進めていくことが必要です。

そう考えると、『今現在のAIは何ができて、何ができないのか』の本質をおさえることができれば、すでにあるドメイン知識と相まって、我々が定義するアセスメント人材の勘所を早期に掴むことができるでしょう。

とはいえ、アセスメント人材の知見をまったくのゼロから独学で学ぶのは、社会的にまだロードマップが整っておらず、途方にくれる場合もあります。そこで、我々は、最短最速でアセスメント人材たる素養を体系的かつ効率的に習得できる、『アセスメント人材育成コース』を作りました」

アセスメント人材育成コースは、座学と実践を組み合わせた、実践的なカリキュラムで構成されているそう。2日間に渡るコースで、1日目はAIの技術特性を学び、2日目にはAIプロジェクトの方法論を学びます。

座学で学んだ理論を、実践ですぐにアウトプットすることで、学んだ理論を具体的にイメージすることができるようになり、第三者に対しても適切に説明することができるようになる。

座学でインプットした情報を、実践を通すことで真に意味のある『知識』に変えることができる」と花本氏はいいます。

――花本
「事例を用意した模擬プロジェクト型ハンズオン講義も行い、そのなかで簡易的なプロトタイプの作成を体験していただき、PoCの初期段階まで踏み込みます。

一連のプロジェクトを自ら体験することで、構想段階に留まらず、PoC以降の工程もある程度イメージできるようになり、プロジェクトを推進できる人材としての素養を養うことにも繋がります」

また、アセスメント人材育成コースのカリキュラムで特徴的なのは、一般的なAI領域の理論や方法論に留まらず、AI特有のファイナンスと法律面まで踏み込むことだといいます。

――多森
「AIの精度はぶれるため、期待できる人件費の削減度合いや、人手によるリカバリーの工数といった要素もぶれることがあります。

アセスメント人材育成コースでは、AI特有の投資対効果の変動要素を理解し、変動要素を考慮したAI活用による投資対効果の計算法を学ぶことができます。2日目には、企画構想をもとにチャットボットをつくる実践型ケーススタディも行うのですが、このとき一度PoCを回し、ブラッシュアップ版の企画書を作成します。

ファイナンスを学ぶことで、PoCの後に分かった追加業務による投資対効果への変化を実感していただけると思います」

――では、AI特有の法律とは、どういったことを学ぶのでしょうか?

――花本
「AIのビジネスモデルは、

  • IoT(デバイス)領域
  • データ領域
  • AI領域
  • セキュリティ領域
  • サービス領域

といった、さまざまな領域が複合的・多層的に組み合わさっています。関連する法律が膨大にあり、整備もほとんど追いついていないため、法律上の問題点(論点)が多いのが特徴です。

例えば、GAN(敵対的生成ネットワーク)を実装したサービスのように、人の手を離れてAIそれ自体が画像などの著作物を新たに生成するような事例が最近は急速に増えています。

この点、現行法は一般的に人(自然人や法人)についての権利や義務を定めているので、そもそも『AIそれ自体が現行法でいう人に該当するのか?』など、これまで法が想定していなかった未知の論点が増えてきています。

Alphabet社(Google)も、2018年度の年次報告(Form 10-K)で、AIの法的リスクにはじめて言及したように、AI領域における法的リスクが年を追うごとに増してきていることを私自身も実感しています。

法的リスクが未知数のなかで、多くのリソースや苦労を経て仮にAIの導入が成功に至ったとしても、そもそも法律上アウトだったとなれば、すべてが無駄になります。

そのため、アセスメント人材には、AI活用の構想を描くときや、プロジェクトを推進する際に、関連する法律・論点に留意しながら進められる素養も必須となります。

AIの実務を踏まえ、関連する法律・論点の全体像をおさえながら、どのように対応していくべきか。勘所を誰でも掴めるような講義を行っています」

徹底的に実務に生かすことを考慮されたカリキュラム。

実践型ケーススタディまで実施しているので、「結局、よくある研修のように、そこで学んだことを実務でどう活かせばいいのかわからない」という心配は無用なようです。

アセスメント人材を育成し、AI活用が根付く社会を目指す

――アセスメント人材育成コースの参加者からは、どのような声がありますか?

――多森
「プロモーションをほとんどしなかったにも関わらず初回のセミナーでは10名に参加いただき、4.5/5点の満足度を獲得しました。

ぶつ切りの知識ではなく、実務にどう生かすのか、AI活用における知見を一気通貫かつ体系的に学べることに対して反響が大きいようです」

たった2日間でPoCまで回し、実務にどう活かすかまで学べるので、参加者からの評価は高いようです。

――花本
「今後もカリキュラムをブラッシュアップし続け、より実践的に、かつ実務をこなす上で必要な要素を厳選・体系化していきます。

我々は、ドメイン知識を持ったビジネスサイドの社会人にこそ、『AIを知り、興味を持ち、様々な構想や企画に取り組んで欲しい。それが日本社会にAIが根付くための一つのブレイクスルーになる』という想いを強く持っています。

それを動機に私と多森でカリキュラムをゼロから構築したという背景があるので、アセスメント人材が1人でも増えればこれ以上の喜びはありません」

日本企業のAI活用・定着を目指し、多くの人が実務で活躍するためのカリキュラムをつくったキカガク。AI導入を成功させたい企業の救世主となるかもしれません。

AIを実務で活かしたいと思う方は、こちらからぜひ申し込んでみてはいかがでしょうか。

セミナー概要

公式サイトhttps://short-term.kikagaku.co.jp/assessment-course/
定員20名
受講料15万円(+税)/人
受講時間10:30~17:30(内休憩1時間) × 2日
定期開催日程4/25(木)~4/26(金)
※いずれもキカガク神田オフィス4Fで開催
備考下記教材は自己負担で購入が必要
・G検定公式テキスト
・AI白書2019