AI人材育成セミナーって実際どうなの? キカガク『ディープラーニングハンズオンセミナー』受けてみた

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AI人材不足が騒がれていますが、社内だけで育てるのは無理がありますよね。AI人材育成セミナーもいろいろありますが、費用もかかるし、中身がよくわからないので検討のしようがない……なんて悩みを抱える方もいらっしゃるかもしれません。

というわけで今回は、実際にセミナーを受けてみての感想を、読者の皆さんにお届けします。

今回受講したのは、キカガクさんの『ディープラーニング・ハンズオンセミナー』。3日間みっちり学ぶこのセミナー、費用20万円(5万円分のAzure使用権付き)でディープラーニングをハンズオン形式で学べるというもの。
(※2017年10月現在)

  • 何をどこまで学ぶの?
  • 他のAIセミナーと比べてみての特徴は?
  • どんな人に向いてる?

    といったことを徹底レポートします。

    どんなカンジだった?

    結論から言えば、セミナー参加で得るものは非常に多かったと言えます。

    ディープラーニングについては、本などから知識を得ることもできるとは思うのですが、ところどころ難解で詰まってしまうことが多いのも正直なところ。対して、今回のセミナーのように、実際に手を動かすハンズオン形式だと、理解・スキルアップのスピードが全然違いました。オフライン参加型のセミナーだったので、つまずいたところはすぐに講師に確認できるのも安心です。また、同じ課題感を持つ方々と情報交換ができるのもオススメポイント。

    ただ、ハンズオン形式のセミナーはエンジニア向けのものも多いので、ある程度、想定参加者のスキルセットは事前調査したほうが良さそうですね。
    それでは、詳しい中身をみていきましょう。

    AIの定義、数学の基礎〜データの扱い方まで、とても濃い内容

    講師の方はこんな方

    メイン講師は、株式会社キカガク代表の吉崎亮介さん。気になる経歴は

    • 学生時代から、画像処理・AR・ロボット工学・機械学習による製造業のプロセス改善に従事
    • 大学院卒業後、プログラムテスト専門会社のSHIFTに入社し、日本最大規模のゲーム開発者カンファレンスCEDEC2016でも講演
    • 2017年1月に、AIを現場で導入するための教育事業「キカガク」を設立
    • 現在は複数社に、AIの技術面・ビジネス面でのコンサルも実施

    といったように、機械学習の知識はもちろん、プログラミングやコンサルもできる方です。


    講義内容のタイムテーブル

    1日目

    トピック内容
    イントロダクション
    • 人工知能・機械学習・ディープラーニングの違い
    • ディープラーニングを学ぶ流れ
    微分
    • 微分は『何』が求まるの?
    • 微分は『何』に使えるの?
    • 高校の復習と偏微分
    線形代数
    • スカラー、ベクトル、行列の違い
    • 行列の足し算、引き算、掛け算
    • 行列積のサイズ感
    • 機械学習でよく使う演算(転置、逆行列)
    ディスカッション実務でよくある事例に関してのディスカッション(昼食付き)
    重回帰分析
    • ベクトルによる偏微分
    • 線形モデルの定義(入力変数が複数)
    • 評価関数の定義
    • 微分による評価関数の最小化
    Python入門
    • Jupyter notebookの使い方
    • 変数と関数
    • リスト・タプル・辞書
    • 制御構文(for文とif文)
    • クラス
    Python演習
    • ディープラーニングに必要なアルゴリズム演習
    • Numpyを用いた線形代数演算演習


    2日目

    トピック内容
    Azure / Docker入門
    ※ 5万円分の使用権付きアカウントを配布
    • Azureとは
    • Data Science VMとは
    • Azure上のGPU搭載マシンの環境構築
    • GPU計算の速度を体感しよう
    • Dockerとは
    • Dockerイメージからコンテナを作成
    ディープラーニングの数学
    • ニューラルネットワークの概念
    • 線形変換
    • 非線形変換(活性化関数)
    • 手計算でニューラルネットワーク
    • 最急降下法、確率的勾配法
    ディスカッション実務でよくある事例に関してのディスカッション(昼食付き)
     ディープラーニングの実装1
    • Chainerの基礎
    • Chainerで1入力1出力の非線形回帰を試そう
    ディープラーニングの実装2
    • ChainerのTrainerを使おう
    • Pandasでデータを読み込もう
    • Chainerで多入力3出力の分類を試そう
    画像処理入門
    • 画像処理の基礎(OpenCV)
    • 画像処理で代表的な処理
    • 画像処理でよく用いられる特徴量

    3日目

    トピック内容
    CNNを用いた画像処理
    • CNNを用いたクラス分類の実装
    • GPU使用による高速化
    RNNを用いた時系列解析
    • 時系列解析の基礎
    • 時系列データの特徴量
    • RNN(LSTM)を用いた回帰の実装
    ディスカッション実務でよくある事例に関してのディスカッション(昼食付き)
    RNNを用いた自然言語処理1
    • 自然言語処理の基礎(Mecab)
    • 自然言語処理でよく用いられる特徴量
    • NNを用いた文書のクラス分類
    RNNを用いた自然言語処理1
    • RNN(Seq2Seq)を用いた機械対話の実装

    (※2017年10月現在)

    とにかく手を動かすスタイル! 理論・技術がしっかり学べた。

    キカガクのセミナーでとても特徴的なのは、数学の理論をノートに手書きしながら学習していくところでした。実際に手で書いて数学の問題を解いたり、まるで学校の授業のよう。そのおかげで、内容がしっかり頭のなかに入ってきました。

    ▲こだわりの手書き形式で、丁寧に講義は進んでいきます。

    ▲ みなさん集中して講義内容をノートに書き写し中。


    実習内容もかなり豪華

    ディープラーニングをはじめる際に大変なのが環境構築ですが、Azure上のGPU搭載環境+キカガク特製のDocker環境があり、スムーズに環境構築が完了。さらに、受講後もその環境をつかえるというのもかなり嬉しい点ではないでしょうか。

    Chainer実習では、回帰(予測)問題・判別問題の両方を実習。他のセミナーって、けっこう「MNISTのサンプルを試しておしまい」というところが多いと思うのですが、今回のセミナーでは基本的なニューラルネットワークの組み方や画像判別はもちろん、

    • RNNでの時系列データ予測:株価のように、前の値が次の値に影響するデータの予測
    • 自然言語処理:テキストを特徴量へ変換し、この文章はどんなジャンルか?を判別
    • 文章生成:Seq2Seqを用いた文章の生成

    まで行ったりと濃厚に感じました。本には絶対書いてないような実務上のノウハウ・アドバイスも各所に出てきます。

    ただし、Azure・Docker・Python入門の部分は、けっこうスピード感をもって進行するので、ある程度エンジニア向けにはなっています。

    ▲教材テキストを見ながらJupyterNotebookでリズムよく実習していきました。
    教材テキストはURLも配布されるので、復習も可能。

    「上司を説得するには?」「工数見積は?」 かなり盛り上がったディスカッションコーナー

    ランチタイムには、ディスカッションコーナーも。挙がった話題のなかには「AIを導入するために、上司を説得するにはどうすればいい?」なんて、かなりド直球な内容も。

    3日目のランチタイムには、Microsoft・Preferred Networksの方に質問できるという時間もありました。今回は、Preferred Networksさんでビジネス面の業務を担当している方に、自由に質問できました。
    ※現在、Preferred Networksによる質問対応は行っていません。


    ▲ Preferred Networksの紹介資料。代表的な例として、トヨタの自動運転技術の共同研究・開発や、ファナックの工作機械の自動化・故障予測などを行っています。(情報は2017年6月時点のもの)

    気になる質問の内容は多岐に渡ったものの、全体的にはビジネス的な質問が多かった印象です。筆者は「音声認識をするには、どういう手法がありますか?」という技術的な質問をしたところ、Microsoft、Preferred Networks、講師の吉崎さん3名それぞれからアドバイスをいただけました。

    すでに課題感がある人はより面白い。受けて終わりではないのもポイント

    さらに、キカガクセミナー受講者向けのSlackグループがあったり、懇親同窓会も定期的に開催されています。


    ▲受講者限定の懇親同窓会の様子。賑やかな雰囲気のなか、受講者によるLTも行われます。

    筆者も参加しましたが、機械学習・ディープラーニングで課題解決に取り組んでいる方々と情報交換ができ、より世界が広がりました。独学だとくじけてしまいそうですが、こうしたアフターフォロー・コミュニティも完備されていると安心ですよね。

    筆者も今回のセミナーを受け、頭のなかが整理され、より理解が深まりました。受講後は「記事タイトルだけから、記事シェア数を予測する」「音声データだけから、誰か喋っているかを判別する」といったことに、さっそく挑戦中。うまくいかないときには、懇親会などでアドバイスをもらったりしています。こうした受講後にコミュニケーションを取れるのもいいところですね。

    というわけで、こちらのセミナーはこんな方にオススメ。

    • 多少のプログラミング経験・ターミナルの操作経験がある
    • ディープラーニングとは何かがある程度わかっているが、手を動かしてさらに理解をしたい

    完全な初心者向けというわけではないので、ちょっと気をつけたいところです。ただし、技術面・ビジネス面両方のノウハウを得られる濃い内容だったので、筆者は大満足でした。すでに解決したい課題を持っている方は、より楽しめるセミナーとなっているので、読者の方も是非受講してみてはいかがでしょうか。

    キカガクの吉崎さん・今西さん、今回は誠にありがとうございました!


    ・キカガクのディープラーニングハンズオンセミナーの詳細は、下記からどうぞ。
    https://www.kikagaku.co.jp/services/dnn-seminar/

    ・Microsoft × Preferred Networksの活動を今後もキャッチアップしたいという方は下記をどうぞ。
    https://dllab.connpass.com/