企業ごとにオーダーメイドでAIソリューションを開発し、各企業が抱える課題の解決を目指す企業がある。株式会社Laboro.AIだ。
Laboro.AIでは現場ごとに適したAIソリューション「カスタムAI」の開発を事業としているのが特徴で、同社の事例では、「建設物の振動制御(株式会社大林組)」「動画解析からの感情推定(沖電気工業株式会社)」「人と職の最適なマッチング(パーソルテクノロジースタッフ株式会社)」など、非常に多岐に渡るAI実績が並ぶ(外部サイト)。
こうした多様な業種・業界での実績の根底には、Laboro.AIならではの「ソリューションデザイン」というコンセプトがあるそうだ。各企業のビジネスに適したAIを提供するLaboro.AIについて、同社の代表取締役CEO 椎橋徹夫氏に話を聞いた。
いまの「DX」はトランスフォーメーションしきれていない
はじめに、椎橋氏は現在の“DX(デジタルトランスフォーメーション)ブーム”について問題点を掲げた。
「最近、『DX』という言葉が広まり、多くの人が認知する事柄になりました。ただ、表面的な部分をデジタル化するツールを使っているだけで“トランスフォーメーションをしたつもり”になっている風潮があるのではないかと感じています。
トランスフォーメーションをしようと意気込むことは良いことではあるものの、一部分だけを変えただけで満足するのはもったいないのかなと思っています。AIをはじめとするテクノロジーは、企業のビジネス構造自体を大きく変えてイノベーションを起こしていくモノであり、これを推し進めることこそがデジタルトランスフォーメーションなのではないかと思います」
たしかに、最近はDX推進と銘打っているものの、AI-OCRなどを導入して読み取り業務を自動化しただけで「DXに取り組んでいます」と掲げる企業は少なくない。これ自体は非常に有益なことではあるが、椎橋氏は「超部分的な話に過ぎない」という。
「企業の事業やサービスそれぞれの解像度を上げて見てみると、大きく分けて4つのレイヤーがあると考えています。
たとえば製造業を例にしてみると、製品製造までの流れはビジネスモデルや価値を決める『コンセプト』、製品の設計や機能を考える『製品機能』、どんな原料や部品を使うのかという『製品構造』、実際にどのような運用や方法で作るのかを練る『製造工程』に分けられます。コアとなるコンセプトから始まり、サービス、モノ、オペレーションへと具体化されて行くイメージです。
現時点でのDXの多くは、『製造工程』でしか活用されていません。本質的なDXで言えば、本来は根本にあるコンセプトや製品機能部分に入り込む必要があるのでは、と考えているのです」
工程部分では“レベル1”での活用であり、レベル2や3、ゆくゆくはレベル4にまで入り込むべきだと考えている
こうした現状をふまえ、Laboro.AIが取り組むのは「ビジネスの根幹を変えるようなトランスフォーメーション」だ。
「我々はAIを開発する会社ではあるものの、AIを使ってトランスフォーメーションする世の中の創造を目指しています。このことをLaboro.AIではDXになぞらえて『AIX(AIトランスフォーメーション)』と呼んでいます。
Laboro.AIとしては、ビジネス全体をトランスフォーメーションさせるために長期的に企業に寄り添うことを心掛けています。なので、『AIを作って終わり』『AIを導入させて終わり』ではなく、会社そのものをより良くするための存在になることを目指しています」
「地図→カーナビ→自動運転車」のトランスフォーメーション
実際に、Laboro.AIが掲げるAIXが企業に浸透するとどうなるのだろうか。
「DXや我々が掲げるAIXのゴール地点は、新たな提供価値を創造することです。新規事業を一緒に開発していくことにも近いかもしれません。
再び製造業の例で話すなら、製造工程部分でAIを活用している企業は増えてきていますが、構造や機能、さらにはコンセプトにまでAIが入り込むと、まったく新しい製品や価値を提供できるようになります」
具体的にどういうことなのだろうか。椎橋氏は「カーナビ」を例に説明してくれた。
「技術を使ってコンセプトそのものが変わったもののひとつに『カーナビ』があります。
私たちは、目的地に行くためにもともとは紙の地図を読んでいました。そこから、地図をデジタル表示できるようになり、さらにはGPSの普及によって位置情報を示せるようになりました。そしていまでは、インターネットにつながるようになり、ルート情報を補足したり付加情報を出せるようになっています。この一連の流れが、地図がカーナビへとトランスフォーメーションした話です。
ですが、地図の最終的なゴールはカーナビではありません。この次の段階にあるのが話題の『自動運転車』です。地図やカーナビを使う根底の理由は、その場所に行きたいからですよね。これを実現するためにAIをはじめとした技術が『コンセプト』の部分に入り込むことで、『行きたい場所を探す』ことから『行きたい場所へ連れて行く』という新たなコンセプトと提供価値が生まれつつあるのです」
現在のAIやDXの活用においては、「工程」の部分だけでの取り組みが多い。地図の話に当てはめれば、地図を作るのを手作業でやっていたところを機械が自動で対応できるようになった、といったことに過ぎない。
「AIは、各領域で既存の技術を新しいモノに作り替えられる可能性を秘めています。たしかに、製造工程の効率を良くすることも重要です。しかし、工程部分だけを良くすることだけにAIを使うのではなく、もっと企業の深い部分にまで入り込ませることが求められているはずです」
コンセプト部分に入り込めば入り込むほど、AI活用の難易度は高くなる。しかし、新しい価値を生み出せる
AIとビジネスの接点を見つけるために設けたポジション
Laboro.AIでは、根本的なビジネスにおける成果につながるAIを実現するために、「ソリューションデザイナ」というコンサルティングおよびサポートを担う部隊がある。
「新しい価値を提供するためには、コンセプト部分に入る必要があると言いましたが、そのためには現場の方だけではなく、経営層をはじめとした組織キーマンの方々と会話をしなければいけません。そのため、AIのことだけわかっていればいいということではないのです。
Laboro.AIには『ソリューションデザイナ』という役割の人材がいます。彼らは、AIへの知識はもちろん、クライアントのビジネスモデルや業界を理解したうえで『今やるべきことは何か』『長期的にできることは何か』を模索し、企画・設計する人材です。
AI導入と言うと、どうしても末端である工程部分の改善といったことを真っ先に思い付きがちですが、Laboro.AIのソリューションデザイナは、『AIの技術で実現できること』と『ビジネス上で意味のあること』の接点を探す思考を持っているため、コンセプト部分から新しい企画を創造する手助けができるのです」
ソリューションデザイナは、テクノロジーとビジネスをつなぐことを役割にする
椎橋氏は、実際にコンセプト部分などに入り込んだ事例を紹介してくれた。
「自動車メーカーとの研究開発の取り組みがあります。
自動車業界が提供する価値は、移動手段を提供することですよね。これを突き詰めて考えると、移動した結果として何か喜びやうれしいことがある体験を提供できることだと思います。そこで、Laboro.AIとメーカー様では、『行先自体を提案する』ということの研究開発に挑みました。
その人自身に『どこに行けば良い気分になれるのか』を提案するレコメンドエンジンの開発に携わり、最終的には『今週末は●●に行くと良いですよ』と複数のプランをオススメできる機能の開発にメーカー様と取り組みました」
企業に寄り添い、ビジネス変革を支援するLaboro.AI
そもそも、Laboro.AIがさまざまな業種や業界に向けたオーダーメイドのAIを開発しているのには理由がある。
「ビジネス現場ごとに、それぞれ特有の課題を抱えています。同じ業種の会社であったとしても、持っているデータの量や内容、さらにこれらのデータを使ったとしても実現したい内容は異なります。
そのため、現場の課題や企業ごとのニーズをかなえるためには、汎用的なパッケージAIやAIプロダクトでは対応できない、あるいは、すべきではない領域がかなり存在するはずです。だからこそ、AIに関する知識だけでなくビジネス面にも精通している人材であるソリューションデザイナという役割が重要なのです」
Laboro.AIはさまざまな業種や業界とAI開発などで携わっている
また、Laboro.AIではクライアント企業の「実現したいことを実現する」だけではなく「将来的に何をしたほうがいいか」なども企画する。
「AI開発において重要なのは“逆算”です。求められている実現したいことに対し、現実的に実装可能なモデルをどのように開発するのかを考えるということです。
私を含め、コンサルティング企業出身者も在籍していることが当社の特徴です。コンサルティングの知見などがあることで、AI開発や導入のサポートだけでなく、戦略面でのコンサルティングや技術指導などでもお問い合わせをいただいています。
ビジネス畑での豊富な経験を持っているAI開発会社なので、『AIをビジネスでどのように使うか』をビジネスシーンでの知見やノウハウを生かして実装できるのがLaboro.AIの特徴でもあります」
インタビューの最後に、椎橋氏は今後のDXについてLaboro.AIとしての狙いを話してくれた。
「Laboro.AIが目指すのは、ビジネスの根幹をトランスフォーメーションさせるためのパートナーとなり、その取り組みを支援することです。
また、企業単体の課題に留まらず、産業という大きな枠で見えてくる問題をともに解決できるパートナーとして、私たちのスタンスをより強固にしていきたいです。そして、技術で産業を変革させていくという考えをもっと根付かせられるように、Laboro.AIという会社の内外で仲間を増やしていければと思っています」

椎橋徹夫
株式会社 Laboro.AI (ラボロ エーアイ) 代表取締役CEO
米国州立テキサス大学 理学部 物理学/数学二重専攻卒業。2008年、ボストンコンサルティンググループに入社。東京オフィス、ワシントンDCオフィスにてデジタル・アナリティクス領域を専門に国内外の多数のプロジェクトに携わる。2014年、東京大学 工学系研究科 松尾豊研究室にて産学連携の取組み・データサイエンス領域の教育・企業連携の仕組みづくりに従事。同時に東大発AIスタートアップの創業に参画。2016年、株式会社Laboro.AIを創業。代表取締役CEOに就任。
https://laboro.ai/