鷺流狂言(山口鷺流狂言保存会 提供)
株式会社Laboro.AIは8月11日、AI(人工知能)を活用することで、山口県の指定無形文化財「鷺流狂言(さぎりゅうきょうげん)」の動きを可視化する仕組みを開発したと発表。無償提供のプロボノ(ボランティア)活動である。
14世紀には狂言が上演されていたという記録が残る山口県において、明治維新後に伝承が始まった鷺流狂言は県を代表する「地域伝統芸能」とされる。しかし、伝承者・後継者の不足や伝統芸能に対する関心低下を背景に、今後10年以内に「伝統が消失してしまう」と危惧されているという。
今般開発したAIソリューションを用いたアプリのイメージ(今回のプロボノ活動ではアプリ開発は実施しておらず、イメージのみ制作した)
今回のプロボノ活動では、山口県観光スポーツ文化部および山口鷺流狂言保存会と協働し、小中学生や観光客が利用できる普及・教育用アプリの開発の前段として、狂言演者の動きを認識・再現することで、動きの違いやブレを可視化できるAIソリューションを開発した。
狂言の動きの検出結果比較 左:手本(先生)・右:体験者(生徒)
具体的には、入力した人物画像から関節などの特徴点を座標データとして出力し、姿勢推定や動作解析ができる「キーポイント検出」の技術を活用。手本(先生)と体験者(生徒)それぞれから検出した特徴点を結んだベクトルの向きを比較、類似度をスコア化することを実現した。
Laboro.AIは「今般のプロボノ活動を通じ、鷺流狂言という県保有の貴重な伝統文化財の伝承・普及の一役を担えたことを誇りに思うとともに、文化伝承を目的としたAI技術の活用可能性を示せたものと考えております。現時点で今後の活動継続は未定ではありますが、引き続き当社では、保有するAI技術に関わるノウハウを活かし、伝統文化の継承をはじめとしたさまざまな社会・産業課題の解決に精力的に取り組んで参る所存です」と述べている。
「課題解決に向けた第一歩になったと実感している」
山口県 観光スポーツ文化部 文化振興課 文化環境班長の森重信博氏によるコメントは以下のとおり。
「デジタル技術は、われわれの生活をより便利なものにし、理解をより一層深めるために有用な手段であり、あらゆる分野で、それぞれの課題解決に向けて最適な形で活用できるものと考えています。
今回のLaboro.AI様のプロボノ活動には、『地域の人々が必死に取り組んでおられる課題について、デジタル技術を活用した支援が少しでもできないものか』と考え応募しましたが、実際に地域の方々と一緒にプロボノ活動に取り組んだところ、Laboro.AIスタッフの方々の専門知識と熱意がこれまでの地元の取り組みとあわさり、伝統芸能の分野においても新たな展開が期待できる気運が生まれ、課題解決に向けた第一歩になったと実感しています。
また、今回のプロボノ活動では、『地域の課題解決に向けて、地元住民、民間事業者、行政がフラットな関係として一緒に検討していく』新たな関係が見えた感触があり、こうした形からは、伝統と歴史のなかにも革新的な取り組みが生まれることが期待できそうです。
今後は、今回のプロボノ活動をベースに、県民の方々や民間事業者の方々とともに、地域の課題解決に向けたデジタル技術の社会実装や他分野への展開など、積極的に検討していきたいと考えています」
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