建設物の「揺れ制御」AIで実現、大林組とLaboro.AIで強化学習を活用

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12月11日、株式会社Laboro.AIは株式会社大林組に対し、建物揺れ制御に関する研究開発において、機械学習の手法のひとつである強化学習を用いたAIを開発・提供し、従来の制御システムよりも高い効果で揺れを制御することに成功したと発表。従来の手法に比べ、AIが抑えたほうが揺れを感じにくい結果も出ている。

制振技術による振動制御は、大きく受動的な制御法であるパッシブ制振(TMD:Tuned Mass Damper)と、能動的な制御法のアクティブ制振(AMD:Active Mass Damper)にわけられる。 Laboro.AIによる実験は、アクティブ制振にAIを活用したものだ。

揺れの体感数値は従来比1/2以下に抑えられた

このプロジェクトでは、建設物の揺れを制御するために内部に設置している重り(マスダンパー)の動きを制御し、従来よりも揺れにくい環境の実現を目指した。

実験環境は、まずLaboro.AIの機械学習エンジニアが物理計算にもとづくシミュレーション環境を構築。次いで、大林組技術研究所(東京都清瀬市)内に造られた橋を実験の場として利用し、実際に人が歩いた際の振動を制御対象として検証している。

写真左が大林組技術研究所内に造られた橋。写真右は重り(マスダンパー)

成果1:1秒ほどで揺れを抑える動きを習得

図中の青い線が橋の揺れを、赤い線がAIによって制御されたマスダンパーの動きを示す

まず、約2万回におよぶ実験の結果からだ。

1回のシミュレーションは3秒間単位で実施。図中の青い線が橋の揺れを、赤い線がAIによって制御されたマスダンパーの動きを示す。

マスダンパーの動き(赤)によって、上下の揺れ(青)が早い段階で低減されるほど、AIが効果的に制御力を発揮していることを表している。

成果2:揺れを感じられにくい環境をAIが作り出した

黒線が何も制御を施していない状態。緑線が従来手法のAMDによる制御。赤線が今回の機械学習によるAIモデル

次に、シミュレーション環境での結果を橋の制御システムに転用する。実際に人が歩いたときの振動の違いを比較検証した。

非制振の状態で揺れが最大となる箇所(4Hzあたり)で、強化学習によるカスタムAIが最も小さく位置している。

数値としては従来のAMDによる制御の1/2を下回る数値を示しており、これまで以上に揺れが感じられにくい環境をAIが作り出すことに成功したといえる。

強化学習によるAIの実装成果は意義がある取り組み

Laboro.AIのプレスリリースでは、今回の強化学習を使った実験について次のように語られている。

「『強化学習』は、機械学習の学習方法として知られる『教師あり学習』『教師なし学習』に並ぶ学習手法のひとつ。ただ、ゲームなどの限られた環境での活用が中心だったため、物理的なビジネス現場への応用は難しいと考えられていた。

今回、強化学習によるAIの実装成果を見いだせたことは、AIのビジネス活用に新たな可能性を切り開くものとして、大変意義のある取り組みだととらえている」

振動抑制は、建設物の揺れの制御だけでなく、「公共交通機関」「製造機器」「航空宇宙」などの分野でも同様にAIによる学習効果を期待できるとされている。

プレスリリース(PR TIMES)


ゲームでの活用が多い強化学習、DeNAでの事例紹介

本稿内でも触れているが、強化学習が活躍する場面はやはりゲームだ。実際、DeNAのスマホアプリ「逆転オセロニア」のチームが過去に登壇したイベントも、当時のチーム内で研究しているAI技術は

  1. デッキのアソシエーション分析
  2. デッキのクラスター分析
  3. ディープラーニングでの戦略学習
  4. 強化学習での未知の戦略学習

と語られた。

ゲーム以外での領域において、まだまだ強化学習は発展途上。Laboro.AIと大林組とのプロジェクトは、物理的なビジネス現場への応用の可能性を切り開いた“きっかけ”になりそうだ。