いきなり『何言ってんだお前?』的なタイトルから始まりましたが、つい先日発表された、OKIがAI対話エンジン『Ladadie』を提供開始。というニュースリリース。
これが結構チャットボットとかAIとかの界隈で話題になったんですね。
で、この公式リリース曰く……
- ニーズを引き出すラダリング対話とFAQの効率的な検索を同一エンジン
- 要するに話題の深掘りや言い換え・要約を行うbotエンジン
- 対話文は知識辞書(オントロジー)を使い多次元的に意味付与して生成
- 外部コンテンツとのリアルタイム連携で『botが知らない情報』にも対応
だそうなんですが。
え? そんなのもう可能なんだっけ? というレベルの技術があれこれ書いてありまして、『それどうやってんの?』と僕らも混乱。。。
気になりすぎたので、リリース元として(どういうわけか)記載されていたリクルートキャリア事業開発部ビジネスプロデューサーの加藤 茂博さんに直接お話をうかがってきました。
なぜリクルートキャリアが?足掛け5年の超ビッグプロジェクト
―まず、リクルートキャリアとbotエンジン開発というのがうまく結びつかないんですが、OKIのプレスリリースになんで名前があるんでしょう?

もともとはOKIとリクルートが共同参画した、経産省『情報大航海プロジェクト』がきっかけなんですよ。当時はリクルートも分社化前でしたが、今はそのプロジェクトがリクルートキャリアに引き継がれて……といった感じですね。
このプロジェクトでいくつかの共同特許を生み出し、今回その特許を使ってOKIさんが製品版を開発。ということだったので、リクルートキャリアの名前がOKIのプレスリリースに載っていたんですよ。
なるほど。
だからリリースの出し元として記載されてたんですね。
しかし分社化前?となると、このプロジェクトを共同で動かし始めたのってもしかしてかなり前の話なんですかね?

そうですね。実際5年以上前の話になるかと。ここで僕らは『もっと人に寄り添う形でチャット応対するbotを作るには何をどう開発するべきか?』といった話をずっと考えてたんですね。
今回のリリースのキモとなっている『多次元オントロジー』という考え方も、ここで生まれ、そして特許技術として登録されたものの一つなんですよ。
そう。気になってるのはまさにそこです。
書かれている仕様がそのまま事実で、そのコアとなる技術がその『多次元オントロジー』であるなら、ちょっと常識外のもののように僕らには見えてしまっているんですが……。
ちょっとこれ細かく聞かせていただいてもよろしいですか?
今のチャットボットはコミュニケーションが “全く” できてない?
―そもそも初耳ワードなんですが、まず『多次元オントロジー』とは何で、何にどのように作用するんでしょう?

ちょっと急な話にはなってしまうんですが、特定のワードや事象に対する『認識』。
これが実は対象の置かれているシチュエーションによって大きく変容している。というのは、分かりますか?
ん……(本当に唐突ですね;)えーっと、つまり
例えば『スマホ = モバイルデバイス、通信機器』みたいな認識が辞書にあるような一義的なヤツだとして……
- 女子高生にとってのスマホ = 友達、命、ないと生きていけないデバイス
- おじさんにとってのスマホ = 使いづらい、無駄、悪用されるとこわいデバイス
- 母親にとってのスマホ = 子どもにあまり使わせたくないもの、勉強の邪魔
みたいな感じで、人とシチュエーションによって『同じモノに対する認識』が変わっていく。みたいな感じでしょうか?

ええ。そんなイメージです。
それは例えば『転職』や『結婚』、『旅行』などあらゆる言葉においても同じことが言えるんです。全てにおいて『一般的にはこういう意味』でも『自分にとってはまた別の認識がある』といった具合に。
そして、ここが重要なんですが多くの人はその認識の変異を意識できないんです。ほとんどの場合自分でもよくわからない外的要因によって認識は変化しているんですね。
一気に難しくなりました……
が、つまり『対象の言葉に対する認識が今どうなっているか』は、それこそ本人ですらよく把握できない。ほぼ完全なブラックボックスになってしまっている。
が、ユーザーとのコミュニケーションということになればそこを踏まえて誘導しなければ上手く作用しない。ということですか。

そうですね。そこで私達のプロジェクトチームが考えたのが『一つの言葉に対し、複数の意味を類推しユーザー毎に学習・蓄積・利用できる辞書』の仕組みでした。
巨大なデータとコミュニケーションからの類推を元に『その人にとっての認識』を意味分類し、どんな要因で影響されているかを推定し、さらにそれを継続的に学習していけないか……?というアプローチ。
これが、多次元オントロジーの基本的な概念ですね。
なるほど。要するに複数の意味を追加・選択し続けることのできる辞書構造……という感じですか。
その技術に特許を持っている。というわけですね。
今回リリースされたOKIのサービスにおける構造図
想像するだけでも目がくらむデータ量(になりそうな構造)ですが、確かにこれがなければコミュニケーションによるユーザーの誘導(ラダリング)は難しいんでしょうね。
優秀なコンサルとか営業さんってクライアントと認識合わせるところにこそ時間と脳みそ使いますし、普遍的な正論ばっか吐く人が何か説得なり誘導なりするって難しいでしょうし。
いやしかしこれを実現しますか。。。すごい
すべてのボットに使えるわけではない。わかった上での挑戦
―非常に失礼なのを承知で伺いますが、この技術はどのようなシーンにフィットすると思いますか?

リクルート自体がこの技術を使ってどう展開していくかはまだ決まっていないですが、自分の潜在的な意向も自覚しにくいような重要な意思決定のシーンであればあるほど必要になる技術だと思っています。
逆に、消費財の購入のような瞬間的な意思決定の場面や、単に軽快で楽しい会話を楽しみたい場面では、ここまで相手を配慮する技術は必要ないかもしれません。なのでOKIさんはともかく、僕らは『まだすぐ使えるわけではないけど』とわかった上で投資した感じに近いかもしれません。
です……よねぇ。
そもそもそんな検討が必要なモノの検討と決定をチャットボットで済まそうってニーズ自体、ユーザーリテラシー的にもまだちょっと先の話な気がしますし。。。
もともとかなり先行した取り組みだったんですね。本当に。
OKIさんが仕組みごと製品化した『Ladadie™』がどうなるかはまだわかりませんが、実際の事例がどう積み重なっていくのか。気になります。
ちなみにOKIの『Ladadie™』について
この手のリリースでは非常に珍しくお値段も公開されています。(基本パッケージ費用は¥8,000,000~)
家やクルマの購入、結婚や進学などの人生における重要な意思決定など、活かせるシーンは多そうでも、実際データを作ろうと思うとまぁ大変そう。さて……?
10年後、人間の『事象への認識』はどう変わるのか?
―とはいえ、多次元オントロジー上のシチュエーションx認識のセットを揃えるのって大変なことじゃないですか?

もちろん大変です。多くの企業はそのデータ集めとロジック設計に最も多くの苦労することになってしまうでしょうね。

ただ、多次元オントロジーはもともとリクルートの持つ膨大な量のデータを構造化できたらもっと活用できるんじゃないか? というところから生まれた技術です。
なので、確かに大変は大変ですが、重要な意思決定をサポートするためのセットを組み上げるのに必要な情報自体は揃えられると思っていますよ。リクルートなら。
さすがというかなんというか。やっぱリクルートは強いですね。
加藤さん曰く、なんと既にリクルート社内にて実証実験的なものはすでに動いているとのこと。
実際にこのシステムを作ったらどんな体験をユーザーに提供できるようになるのか。ぜひいずれOKIの中の人も交えて聞いてみたいですね。
加藤さん お忙しいなかありがとうございました!