ヤフーとの経営統合を合意したLINEのAI、その「核」に迫る

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11月18日、LINEとヤフー(Zホールディングス)が経営統合関する基本合意書を締結した。すでに大きく報道されている通り、両社の提携は、メディア、コマース、フィンテックなど、さまざまな事業でシナジーを生むだろう。

しかし、BtoCのイメージが強いLINEに、AIをBtoBで提供するサービスがあるのを知っているだろうか。それが「LINE BRAIN(外部リンク)」だ。Ledge.ai編集部は、このLINE BRAINを統括するトップ3にインタビューする機会を得た。

今このタイミングだからこそ、改めてLINEがAIで何をしているのか、何を目指しているのかを知っておくことは大きな意味があるだろう。独占インタビューをお届けする。

(左)砂金信一郎氏 LINE株式会社 AIカンパニー LINE BRAIN室 室長 Developer Relations Team マネージャー プラットフォームエバンジェリスト
(中央)佐々木励氏 LINE株式会社 AIカンパニー LINE BRAIN室 副室長
(右)飯塚純也氏 LINE株式会社 AIカンパニー LINE BRAIN室 事業企画チームマネージャー

「舛田さんのあんな表情は初めて」他ベンダーと比べても十分に勝てる外販事業

LINE BRAINとは、端的に言えばLINEがBtoBでAI技術を外販する事業の総称だ。今年6月のLINE CONFERENCEで大々的に発表され話題を呼んだ。

関連記事:「LINE BRAIN」でAIのBtoB事業参入──#LINECONF AI系発表まとめ

LINE CONFERENCEでは、LINEの取締役CSMOである舛田淳氏による、電話でレストランなどの予約を完結させる「Project DUET」のデモを見た人も多いはず。これもLINE BRAINが提供するAI技術のひとつだ。

LINE BRAIN室室長の砂金信一郎氏は、発表当時を振り返りこう語る。

――砂金
「あそこまでテンパった舛田さんの表情を見るのは初めてでしたね。6月の発表会に間に合わせるために、社内調整を重ねに重ねて、なんとかデモを出せた突貫工事だったんです」

LINE CONFERENCEでのお披露目後、半年弱で正式リリースにこぎ着けた。Project DUETはサービス名称を「LINE AiCall」として、すでに「俺のGrill&Bakery 大手町」での実証実験を開始している。

俺のGrill&Bakary 大手町での、LINE AiCall実証実験の仕組み出典:LINEプレスリリースより

――砂金
「6月の時点でLINE BRAINは、本当にロゴくらいしか決まっていない“生煮え”の状態でした。発表からの半年弱でプロダクトを磨き上げ、他ベンダーと比べても十分に勝てるサービスになったと自負しています

リサーチの段階で「世界一」を目指す

記事を書いている現在、LINE BRAINが展開するサービスは以下の7つ。

  • CHATBOT(チャットボット)
  • TEXT ANALYTICS(言語解析)
  • SPEECH TO TEXT(音声認識)
  • TEXT TO SPEECH(音声合成)
  • OCR(文字認識)
  • VISION(画像認識)
  • VIDEO ANALYTICS(画像・動画解析)

どのサービスにも競合がわんさかおり、すでに「レッドオーシャン」と呼んでも過言ではないサービスばかりだ。

それでも、砂金氏が「他ベンダーと比べても十分に勝てるサービスになった」と自負する理由は何か。その理由をLINE BRAIN室 副室長である佐々木励氏はこう語る。

――佐々木
「LINE BRAINでは、要素技術におけるリサーチの段階で、グローバルジャイアントに勝とう、No.1になろうというミッションを持っています。そんな意識でリサーチを始めたのが、OCRでの文字認識ですね」

LINEはOCRでの文字認識で、ICDAR(International Conference on Document Analysis and Recognition)という、文字認識の技術を競う国際的な大会で、ほかの参加チームを大きく上回る成績を残した。機械学習で学習データを自動的に生成する手法を用いて、これを達成したという。

関連記事:LINEのAI・機械学習の取り組みを一挙紹介〜顔認識入場や電話予約対応AI、不審ユーザ認知など実現

このOCR技術を用いてサービス化されたのが、LINEのトーク画面上で画像からテキストを抜き出せるOCR機能だ。もしLINEアプリが自分のスマホにインストールされていれば、ぜひ試してほしい。かなりの精度で文字を抜き出すことができ、もちろんコピー&ペーストも可能だ。


LINEアプリのOCR機能。(編集部撮影)

実際、LINEアプリひとつとっても、AIが使われている機能は無数にある。上記のOCR機能以外にも、チャットでの音声入力機能、免許証と自撮りした画像をアップするだけで本人確認ができる機能(LINE Payほか)などがある。

キャラクターを召喚して会話を楽しめる装置「Gatebox(外部リンク)」で召喚できるキャラクターである「逢妻ヒカリ」の音声には、LINEBRAINで開発・保有する音声合成技術が採用されている。LINE BRAINの音声合成技術は、Googleが発表している、音声生成が可能なニューラルネットワークの一種「WaveNet」に精度で優っているという研究結果(外部リンク)も出ている。

ユーザー体験へこだわると「世界一」目指すのは必然

なぜ、「世界一」にここまでこだわるのか。その理由を、佐々木氏は「LINEの徹底したユーザー目線のカルチャー」が挙げられるという。

――佐々木
「プロダクト開発の際、デモを社内で徹底してこき下ろされるんです。『本当にユーザーに使われるのか?』『ユーザーから見てこの機能は便利なのか?』など、本当にさまざまな角度から指摘がある。AIに関しても、ユーザー体験に徹底してこだわると、おのずと一流レベルのAI技術が求められるため、世界一にこだわっています

あくまでAIの精度が一流なのは前提として、その先のユーザー体験に徹底してこだわる文化があるという。

そして社内からの「攻撃」を乗り越えた先には、LINEの膨大なプロダクトの一部で試験運用する。自らのプロダクトで十分な運用ができた場合にのみ、LINE BRAINで外販するサービスとして展開するという。

LINE BRAIN室 事業企画チームマネージャーの飯塚純也氏はこう話す。

――飯塚
「たとえば、LINEのカスタマーサービスにはすべてLINE BRAINが開発したチャットボット技術を使って運用しています。社内ですでに一定の成果を出しているので、自信を持って外に出せる。

実際、R&Dフェーズから技術をプロダクトへ落とすのは簡単ではありません。技術はあるけど、そこで脱落していくスタートアップも多い。LINEはそれをやる企業体力、投資能力があるから可能なのです」

「世界一」への道を支える技術者たち

そんな「世界一」への道を支えるLINEの技術力は、どのように支えられているのか。

――砂金
「LINE BRAINは、実は韓国NAVERとの共同事業なんです。なので、同社のエンジニアやリサーチャーが日本に来て、LINE BRAINのプロジェクトを一緒に進めることもあります」

LINEの親会社である韓国NAVER(厳密には2020年10月以降、LINEはNAVERが50%出資するZホールディングスの傘下となる)は、韓国のテック企業で圧倒的ナンバーワンの地位を占める。

検索エンジンのGoogleでさえ、韓国ではNAVER検索に勝てず撤退した過去がある。当然、NAVERはAIにも潤沢な投資を行っており、世界的にも名のあるリサーチャー・エンジニアが在籍しているという。

NAVERの人材との「共同戦線」以外の観点でも、LINE BRAINの組織体制は強力だ。LINEのアドプラットフォームを構築したり、社内のデータ分析に携わったりする「データラボ」の、OCRや言語処理を行うメンバーがLINE BRAINを兼任することもあれば、AIアシスタント「Clova」の音声認識・合成を担当するチームがLINE BRAINに携わることもある。

ほかにも驚きなのが、「LINEのプロダクトにまったく寄与しなくてもよい」AI技術の研究チームがあるということだ。

――砂金
「弊社のリサーチラボという組織は、いわゆる研究員としての立ち位置です。LINEのプロダクト開発への貢献は求めていません。論文を書いて学会に貢献し、技術的なブランディングを行うのがリサーチラボの役割ですね」

これらの優秀な人材が、LINEの技術「世界一」を後押ししているというわけだ。

GAFAからこぼれ落ちたニーズを拾っていく

ヤフーとLINE統合記者会見の際、両社は「AIテックカンパニー」になるとぶち上げた。しかし、今の世界の状況を見ると、AI分野ではアメリカではGAFA、中国ではBATHと呼ばれる企業群が圧倒的だ。LINEは今後どのような戦略を描いているのだろうか。

――砂金
「GAFAなど、外資系ベンダーによるジャパンパッシングがありますよね。海外のカンファレンスで新サービスが発表されても、日本に来るのは2,3年先とか。

しかし、日本企業の課題解決のカギはGAFAによるサービスのローカライズではありません。LINEは、GAFAが投資対効果が合わずに撤退した、たとえばマイナー言語などのニーズに集中します

実際に、海外で新サービスが発表されても、日本語に対応するのは数年先ということが少なくない。その間に、GAFAなど巨大テック企業は英語のデータを蓄積し、さらに技術革新を加速させていく。

前述のGateboxでも、日本では「キャラクターと雑談を楽しみたい」というニーズが多いという。たしかに、Amazon EchoやGoogle Homeが、「萌えキャラ」の声に対応するかは怪しい。これらの「GAFAからこぼれ落ちたニーズ」を、LINEは積極的に汲み取っていくという。

「人に優しいAI」の真意

また、LINEはLINE BRAIN発表時に、「人に優しいAI」を提供していくとした。この真意は何なのだろうか。

――砂金
「LINE BRAINは、人々の生活に根ざした課題解決のために、LINEの技術を外部にライセンシングしていくサービスだと考えています。

『人に優しいAI』とは、人の仕事を奪うのではなく、本来の業務(たとえば飲食店内での接客や調理といったお客様へのサービスなど)に集中できるような社会を実現するためのAI、という意図でそう呼んでいます。人々の生活に密着し、知らないうちに後ろから手を差し伸べるようなAIです。

本当はすごい技術を使っているんだけど、自然に生活に溶け込んでいるような。そんなAIを目指しています」

現代の主なコミュニケーション手段は会話とスマートフォンだが、インターフェースとして、今後もスマートフォンが主要な地位を示すかは分からない。

LINEはこれまで、スマートフォンを起点としたサービスを提供してきた。しかし、ユーザーの求めるものが多様化してきたことから、「スマートフォンの外の世界も取り込む必要が出てきた」と佐々木氏は言う。

――佐々木
「たとえばLINEの家計簿アプリには、レシートをOCRで読み取って自動で家計簿を付けるサービスがあります。これはつまり、現実世界の、まだデータ化されていない情報をデータ化して取り込んでいるということ。ネットの世界を現実世界に拡張するのが、LINE BRAINの役割でもあります
――飯塚
「LINEのすべてのサービスの軸は“コミュニケーション”にあります。だからこそ、今は自然言語処理のサービスを中心にフォーカスしていて、そこから横展開していく。スマホから拡張し、音声・サイネージなどにLINEの技術をアンビエントにさまざまな場所に入り込ませていく。それが『優しいAI』と呼んでいる所以です」

今後、どんなにコミュニケーション方法が進化しても、人類が会話しなくなることはないだろう。

スマートフォンがなくなったとしても、コミュニケーションが介在するところに「LINEあり」の世界。そんな世界をLINE BRAINは実現しようとしているのかもしれない。