台湾の天才IT大臣オードリー・タン氏、AIと偏見の問題は「常に考えている」

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2016年に台湾史上最年少の35歳で入閣した台湾デジタル担当大臣のオードリー・タン(唐鳳)氏。最近では、台湾における新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の感染拡大を封じ込めた立役者として注目を浴びている。

Beyond AI 研究推進機構は2月20日、Beyond AI研究推進機構 発足記念シンポジウム「Living with AI, Going Beyond AI」を開催した。

Beyond AI研究推進機構は、ソフトバンク株式会社、ソフトバンクグループ株式会社、ヤフー株式会社、国立大学法人東京大学(東大)が設立した研究機関で、2020年7月に共同研究を開始した。同研究機関には、ソフトバンク、ソフトバンクグループおよびYahoo! JAPANから、10年間で最大200億円を拠出する。

オードリー・タン氏、林香里氏、スプツニ子!氏、池内与志穂氏(左から順に)

今回のシンポジウムでは、台湾デジタル担当大臣のオードリー・タン氏、アーティスト/デザイナー/東京藝術大学デザイン科准教授のスプツニ子!氏、東京大学 Beyond AI 研究推進機構/生産技術研究所 准教授の池内与志穂氏によるパネルディスカッションが実施された。モデレーターは東京大学 Beyond AI研究推進機構/大学院情報学環 教授/総長特任補佐の林香里氏が務めている。

本パネルディスカッションでは、スプツニ子!氏が冒頭でAI(における機械学習)は過去のデータをもとに訓練するため、現代社会における偏見やバイアスを反映する危険性があると言及し、オードリー・タン氏が強く興味を示したこともあり、AIとバイアスに関する話題が多かった。

この記事では、AIメディアLedge.ai編集部として注目してほしい、オードリー・タン氏の考えを中心にご紹介したい。

オードリー・タン氏、AIと偏見の問題は「常に考えている」

オードリー・タン氏は、AIが偏見やバイアスを反映する危険性があるといった問題提起を受け、「バイアスの問題、偏見の問題は常に考えています。ノンバイナリー、トランスジェンダーとして、私は常に偏見を受けている立場です。なので、(そのような問題については)常に明確に考えています」と応えた。

実際、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、台湾政府が近隣店舗におけるマスクの在庫がわかる「マスクマップ」を提供する際には、オードリー・タン氏は「いかにフェアにしていくのか」を考えていたと明かす。

オードリー・タン氏は、最初に「マスクマップ」を見たときに、実際の人口の中心と薬局の分布がマッチしているため、良いと感じたという。しかし、1週間後、議会に入る前に、電子機器の生産を請け負う台湾企業であるFOXCONNのデータアナリティクスの人から、「1番近い薬局にたどり着くまでの交通公共機関の移動時間を考えていないのではないか?」と指摘を受けたとのこと。

「マップ上では同じ距離には見えますが、実際のコストやオポチュニティー・コストとしては同じではありませんでした。それ(交通公共機関の時間)に対する差別が存在したわけです」

では、台湾ではこのような差別をどう解消したのか。台湾ではマスクマップについて、OpenAPIを30秒後ごとに公開している。このように情報を公開し、国民や市民からフィードバックを受けることが重要であるという。

「AIを民主的にコントロールする。フィードバックを取り入れる。建設的に取り込んでいく。このように市民の技術を取り入れることで、より良い提供方法にできれば、(状況は)改善できます。私たちは24時間後にはすぐに対応できるシステムを導入しているので、このシステムが本当に重要な役割を果たしました」

「民主主義はフィードバッグには集中していない」

オードリー・タン氏はさらに議論を掘り下げ、現状の民主主義における問題点を指摘する場面もあった。

「今、現状の民主主義はアナログシステムをベースに設計されています。ビデオやテレビシステムなどがベースです。情報を拡散させることにフォーカスされていて、それほどフィードバッグには集中していません。フィードバックは投票すること(だけ)です。なので、イエスしか言えません。情報としてはすごく限られています」

台湾ではこのような課題を解決するために、AIを使った社会で何かエラーを見つけたときに、国民がきちんとフィードバックができるシステムに現在、国民の半分が参加している状況を実現したという。

オードリー・タン氏は本システムのメリットに関して、「たとえば、まだ学びの途中の18歳の子どもたちであっても、(本システムを活用できるため)投票できる年齢まで待たなければいけないと考えなくても良いです。実際に授業のなかでも宿題を出して、考えさせることもできます。そして、バイアスというものを理解し始めます」と説明している。

「アルゴリズムは社会を変えるツールと理解することが重要」

実際に本システムなどでAIにおけるバイアスを見つけた場合、社会はどのような対応をすべきなのか。オードリー・タン氏は、パブリックな場でしっかりと議論することが重要であると主張した。

「アルゴリズムは市民社会のなかで、みんながそれを使うことで社会を変えていけるツールだということを理解することが重要です。また、重要なのは、社会がバイアスを検知したら、そこでしっかりと討議することです。それは、パブリックな場でなければいけないと思います」

続けて、オードリー・タン氏は「私たちは今このパネルでも、アカデミックなセッティングのなかで話をさせていただいていますが、公開された場でこういったと討議をしっかりとできることが重要です。もし、市民の皆さんが見える形で討議ができなければ、私たちは監視資本主義社会などに取り込まれてしまうと思います」と警鐘を鳴らす。

パネルディスカッションのなかで、オードリー・タン氏は「すでにバイアスは存在している可能性があります。プランニングされている方の頭にすでにあるかもしれません」と語っていた。同氏はこのような認識のもと、積極的に情報を公開し、さまざまなフィードバックを反映することで、台湾における新型コロナウイルス感染症の感染拡大の封じ込めに成功したと言える。今後の活躍にも注目したい。