機械学習で電力運用を最適化──AI蓄電池は再生可能エネルギーを普及させる装置になるか

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スマートフォン、PC、テレビや電車など、私たちの生活に身近な製品のほとんどは「電力」なくして成立しない。

しかし発電に使用されている石油や石炭といった資源には限りがある。加えて地球温暖化対策のため、二酸化炭素を大量に排出する発電方法はできる限り減らす必要がある。こうした状況下の電力事業は、再生可能エネルギーを効率的に活用する持続可能な社会の実現を目指し、今まさに変革の最中だ。

そしてその変革の一翼を担う可能性をもつのがAI。

本稿では「自然エネルギーの最大普及」をミッションとして掲げる株式会社Looopの執行役員 堤 教晃氏に、家庭用蓄電池にAIを搭載した経緯や、電力×AIの可能性について伺った。

再生可能エネルギーの普及になぜ蓄電池が必要か

――LooopのAI搭載蓄電池について伺う前に、蓄電池の役割を教えてください

――堤
「蓄電池は電気を貯めるための装置です。

太陽光発電だけ設置していても、発電している日中の時間帯しか電力を供給できず、必要以上に発電したときの電力をあとで使えるように貯めることもできません。

蓄電池を設置すれば、日中に余った電力を貯めておき、天候の悪い日や夜間に活用することや、電気代の安い時間帯に充電し、高い時間帯には放電して電気を使うことで、電気代を下げることも可能です」

――どうして再生可能エネルギーの普及に、電力を貯める蓄電池が必要なのでしょう。

――堤
「再生可能エネルギーをより有効に活用するためです。天候などにより発電が不安定になるため、安定的に使うために必要です。とはいえ、再生可能エネルギーの普及目的で太陽光パネルを導入する人もいますが、やはり何らかの利益がないと導入を促進していくのは難しい。

導入促進のため、日本では2009年から再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)を開始し、再生可能エネルギーで発電した電力を一定期間電力会社に固定価格で販売できるようにしています。

しかし、一般家庭では10年で買取期間が終了するため、制度開始から10年の今年に買取期間が終了する家庭が出てきます。

期間が終了すると売電価格が大幅に下がってしまいますが、蓄電池を使って余分な太陽光発電の電気を貯める、また“高いときに売り、安いときに買う”という効率的な電力活用をすることで、太陽光発電設備の費用対効果を高めることができます。

優れた蓄電池があれば、FIT制度対象期間終了後のことも踏まえ、安心して再生可能エネルギーを導入できるでしょう」

蓄電池の役割は、電気の効率的な活用だけに留まらない。

昨年には地震の影響により北海道全域が停電し、最近では台風により日本各地で停電が起きている。家に蓄電池があれば、最低限必要な電力を確保し、生活を維持できるだろう。地震大国であるうえ、台風の威力が増している近年、防災の意味でも蓄電池に対する注目は高まっている。

AIの活用で、蓄電池のコスト削減と各家庭に合わせた運用が可能に

――なぜ蓄電池にAIを搭載しようと考えたのですか。

――堤
「AIを搭載した理由は2つ。蓄電池そのもののコストダウンと、充放電を各家庭に合わせて最適化するためです。

まず、蓄電池は高額です。当社の蓄電池は90万円程度ですが、他社製品(AIを活用せず充放電を手動で切り替えるタイプ)は150~270万円にのぼります。貯められる電池の容量が少なくても、効率的に運用できパフォーマンスに劣らない蓄電池をつくるためにAIを利用しました。電池容量を少なくすることでコストダウンをはかりました。

また電力の消費パターンは各家庭により異なり、気温や天候のほか、家族構成などが関係します。多くの要因が複雑に絡んでいるため、顧客にとって経済的な利益がもっとも出る運用方法を人手で見つけるのは困難でした。そこでAIを搭載して最適化することにしました」

堤氏がこう語るように、Looopの蓄電池は機械学習により各家庭ごとに最適な充放電を行っている。

仕組みはこうだ。はじめに基本の運用パターンをいくつか用意し、顧客情報を加味して機械学習によりパターンを修正していく。実際の利用状況に合わせ調整を続け、2、3週間から1ヶ月程度で家庭にあった最適な運用ができるという。

各家庭のパターンが完成した後も、生活の変化に合わせて随時調整が入る。気象予報による微調整のほか、海外旅行など、長期間不在のときは電力を使っていないことを学習してパターンが変化する。帰宅したとき自動的に元の運用パターンに戻るとのことだ。

――ディープラーニングではなく機械学習を用いているのはなぜでしょう。

――堤
導入コストと利用者の心理を考えた結果、ディープラーニングは向かないという結論になったからです。

現状ではディープラーニング導入にかかる計算コストや開発コストが費用対効果に見合いません。

またディープラーニングはブラックボックスであり、人間に理解できないタイミングで充電や放電を行っていても、その根拠を説明することができません。顧客に納得していただけなければ、搭載しても使ってもらえません。

ただディープラーニングの手法も多様化しているため、様子を見て使えるものがあれば導入を検討したいと考えています」

――AI搭載による効果を教えてください。

――堤
「予測精度については体感ですが、発売当初にたくさんあった、“なぜここで充電しているのか、放電しているのか”といった問い合わせが、最近は少なくなっています。

最適な運用ができることから、節電の効果もあります。実際にAI搭載蓄電池は、AIがない場合と比較し、年1万円~3万円節約できます

約90万円の設備投資を回収できないように感じる。だが太陽光発電では、太陽光パネルで発電した電力(直流)を家庭で使える電力(交流)に変換するパワーコンディショナーという機器が太陽光パネルよりも先に寿命を迎えるため、途中で交換する必要がある。

パワーコンディショナーは工事代を含めると30万円近くするため、あらかじめパワーコンディショナーと蓄電池がセットになっているAI蓄電池を導入した方が、費用対効果は高くなるという。

電力の効率運用だけに留まらない、電力×AIの可能性

――AI蓄電池の今後について教えてください。

――堤
「充放電の運用の精度をさらに向上させていきたいと考えています。

また今は家庭用蓄電池のみにAIを搭載していますが、今後は産業用蓄電池への応用も検討しています。

産業用だとSDGsの達成のため、コストも重視しつつCO2排出をできるだけ減らしたいなど、家庭用とは異なる要望も出てくるでしょう。今後はコストの最小化だけでなく、コストとCO2削減の最適解も探していきたいです」

電力事業へのAI活用は進んでおり、すでに変電設備の異常診断や架空送電線の点検はAIによる効率化が開始している。

再生可能エネルギーの導入が増加し、需要と供給のバランスを保つことが難しくなった今、AIを活用した高精度な需要予測技術も開発されている。省エネを促進するため、AIを活用して家庭ごとの消費電力の内訳を明らかにするサービスもある。

電力は生活に密着しているため、電力データとAIをかけあわせることで、見守りやセキュリティの新たなサービスの構築も可能になるだろう。

持続可能な社会のための次世代電力システムにおけるAIの活躍や、電力×AIの領域で生まれる新たなサービスから、目を離せない。