昨今、データ解析ツールやマーケティングオートメーションツール(以下:MAツール)などにより浸透が進み、従来マーケターが抱えていた課題を多く解決する、データドリブンなマーケティング。
一方で、データドリブンマーケティングが浸透し、成果を出し続けることで「データに基づいた業務判断の回数が際限なく増えていく」という課題も新たに生まれてきます。
そこで注目されているのが、AIをマーケティングに活用する「AIドリブンマーケティング」。そして、AIドリブンマーケティングをさらに加速させるであろうビッグニュースが飛び込んできました。
こちらです。
Marketoといえば、MAツールとしてかなりのシェアを誇り、データドリブンマーケティングを進めてきたマーケターの必需品。そしてDataRobotは、AIの民主化を掲げ、AIに関して深い専門性がなくてもAIのビジネス実装が可能なプラットフォームです。
この二つが連携するとなると、マーケティング設計時の考え方にも大きな変化が起こります。連携の立役者となった3人に、AIがもたらすマーケティングの価値を聞いてきました。
株式会社電通デジタル
AI(機械学習)、MA、CRM、DMP、BI等の最新マーケティングテクノロジーを横断的に活用し、企業のデジタルトランスフォーメーションを実現する事で、経営課題・事業課題を解決に導く事を強みとする。
また、国内外の最新デジタルツールの発掘・アライアンスも得意としている。
中野 高文 氏
DataRobot Japan株式会社
DataRobot Japanで2番目のデータサイエンティスト(2017年5月〜)。イギリス、カナダの大学の修士・博士課程で量子情報論を専攻。より多くの人がビジネスで機械学習を活用できるようDataRobotを使った機械学習の民主化を推し進めている。小売の需要予測からマーケティングでのターゲティングまで幅広い課題を解決し、企業のAI変革を推進する。
石野 真吾 氏
株式会社マルケト
医療系コンサルティング会社にて、医療介護機関向け動画コンテンツの新規事業の立ち上げを行い、2013年にSansanへ入社。業務企画のマネージャーとしてテクノロジーを活用した業務改善や営業企画を行った後、Sansanのマーケティングの仕組み作りを行い、2017年6月より株式会社マルケトにて、セールス&マーケティング分野におけるテクノロジーの活用や新しいテクノロジースタック開拓を推進。
AI × マーケティングの価値は「繰り返し発生する業務判断の自動化」
――マーケティングの最先端にいる3人方に、ずばり聞きたいのですが、マーケティング領域でのAIの価値は何でしょうか?
「結論から言うと、マーケティングにおけるAIの価値は『繰り返し発生する業務判断』を自動化できることだと考えています。
マーケターはどんな施策を打つにしても、常にデータに基づいた判断をしており、今のマーケターにとってデータは不可欠です。たとえば、顧客のスコアリングでは、
- 今まで開封したメールの数
- 役職
- デモの申し込みや資料ダウンロードの回数
などのデータを分析し、期待行動をしてくれた顧客と似ている顧客のスコアを高く評価するといったプロセスがありますが、AIを組み合わせることでより精度の高い優先順位付けをすることができます」
「スコアリングの次のステップとして
- ほかにも重要な指標がありそう
- スコアの高い人には、どんなクリエイティブが刺さるのだろうか
- このスコアリング手法を踏襲しつつ、しきい値を変えて、別セグメントでも適用してみよう
といったことを洗い出し、上記のような施策を何度も繰り返し打っていきます」
「何度も繰り返したり、別のものに展開するフェーズになると、タスク量が多くなり、正直管理しきれなくなってきます。そこからが、AIの出番です」
「繰り返しのなかで、少しずつ変化が起こっていくような業務でもAIは活用できます。
たとえば、ウェブのユーザー行動に基づいたスコアリングモデルでは、時間が経ってウェブサイトの新しいコンテンツが増えるにつれモデルをアップデートする必要があります。最新のデータでモデルを生成することで、時間をかけずに現状に即したモデルでスコアリングして施策が可能です。
アクションが繰り返されてデータが貯まってくるフェーズになればなるほど、AIの強みが活きてきて、活用方法は多岐にわたり、その効果は絶大です」
データドリブンマーケティングが浸透し、施策の再現性が高まる一方で、データ分析タスクが増加し、データに基づく業務判断が増えていきます。
AIを活用することで、繰り返し発生する業務判断を過去データから自動的に行うことができる、そこに大きな価値がある、ということですね。
対談は、AIによって生まれる新たな価値について、さらに盛り上がっていきます。
AIはマーケティングのすべての領域に使える
――マーケティング × AIに、とても可能性を感じますが、具体的にマーケティングのどの部分でAIは使えるのでしょうか?
「“データを扱うところにAIあり”で、データを扱うすべての領域で使えると思っています。
例に挙げたスコアリングでは、既に成果も出ていますし、KPIツリーの作成をしているところもあります。
- セグメンテーション
- LTV予測
- 時系列データの予測
など、AIが使えるところを出し始めたらきりがないですね」
「特にMarketoやSFAツールを既に活用していれば、ある程度きれいな形でデータが蓄積されていると思いますので、ある程度のデータ量があればすぐにでも活用できる余地があるのではないでしょうか」
AIでスコアリングなどが自動化できれば、人はコンテンツやクリエイティブなところに集中することができます。その結果、サービスの質が向上し、顧客の体験も良くなる。この好循環が、さらなる効果を生むそうです。
AIドリブンマーケティングを広めるために、MarketoとDataRobotの連携は必須だと思った
――今回の連携の経緯を教えていただけますか?
「AIが活用できれば、マーケティングでより成果を出せるとは感じていたものの、活用するためには、多くの専門スキルや高度な技術力が必要で、敷居が高く踏み出せずにいました。
そんな中『学習データセットさえ準備すれば、精度の高い学習モデルを自動で作ってくれるDataRobotというサービスがある』と、有益さんに伺ったんです。
マーケティングでのAI活用のために、DataRobotとの連携は必須だと思い、お声がけさせていただきました」
「DataRobotは『機械学習の民主化』を掲げていて、統計やプログラミングの専門的な知識なしに機械学習モデルが作れるプラットフォームです。
DataRobotは単にモデルを生成するだけでなく、そのモデルを実装するところまで自動化しています。簡単に生成したモデルをREST API化して、MarketoのWebhook機能を使って連携できます。
またマーケティングでは精度が良いだけでなく、モデルが理解できることが重要です。DataRobotでは解釈可能性に注力して開発しており、機械学習がグレーボックス化されています。どのような変数が予測に影響が大きいのか、一件一件がなぜそのように予測されるかも説明できます。
これらのあらゆる要素から、マーケティングにおける『機械学習の民主化』を進めるものになると判断し、Marketoとの連携を決めました」
「今って、バズワードとしてAIという言葉が使われていたりすることが多いですが、事例に基づいた地に足の着いた連携リリースを出したかったんですよね。
なので、しっかりと成果を出してからリリースを出そうとDataRobotさんと話し、連携を実現してから理リリースまでお客様のもとで事例構築をしておりました」
スコアリングルールを顧客属性やセグメントごとに膨大な時間をかけて手動で策定していたところを、AIによって高精度なスコアリングルールを短時間で自動策定できるようになったと、石野氏。
データから判断することはAIに任せ、人は新しいことをやればいい
――AIが一部業務を代替し、人が他の業務に充てられる時間が増えたとき、何に注力すればよいと考えていますか?
「前例のないことや、ブランドのような合理性だけで判断できないことですね。今まで行なってきた試行錯誤から生まれた成功事例は、ベストプラクティスの塊です。
データから判断できることは、AIに任せてしまって、人はデータから判断できないことに取り組むべきだと思います」
「今後は、前例のない意思決定など人間だからこそできる意志や直感が必要とされることに注力する必要がでてくると思います。
AIが繰り返し発生する業務判断を自動化すれば、意思決定にかかる時間を減らすこともでき、新たなことを行う余力ができ、好循環が生まれます」
AIはデータに基づいて、妥当な判断をしてくれます。その妥当な判断をさせるためのデータ構築、そしてその判断を生かして、さらなるチャレンジをすることが重要です。
データドリブンでマーケティングを行なっていれば、すでにデータはあるので、AIでさらなる高い効果も期待できます。MarketoとDataRobotの連携で、マーケターのAI活用ハードルがグッと下がります。
マーケティング分野だと、広告やレコメンドなどではすでにAI活用も浸透してきた中で、MarketoとDataRobotは、CRMやMA領域のAI活用を促進させるでしょう。