松尾豊氏の年頭所感に見る、2020年AI業界の展望

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1月6日、日本ディープラーニング協会(以下JDLA)は、同協会の理事長である東京大学大学院工学系研究科教授松尾豊氏による年頭所感を発表した。

発表された年頭所感の文面を見ながら、2019年はAI業界にとってどのような年だったのか、2020年はどのような展望を描くのかを概観してみる。



AI人材の「育成」が加速した2019年

皆様、あけましておめでとうございます。

 昨年、政府は2025年までにAI人材を年間25万人育成することを目標に掲げた戦略を閣議決定しました。日本だけでなく、米国でも中国でも欧州でも、AI、ディープラーニングをめぐる人材育成や産業競争は加熱しています。日本ディープラーニング協会のG検定・E資格の受験者数は、2018年までで累計6000人でしたが、昨年末までで2万人を越えました。ますます多くの方にディープラーニングの勉強をしていただいていることを大変うれしく思います。

昨年大きなニュースとなった、「AI戦略」の閣議決定。なかでも人材育成は「一丁目一番地」と位置づけられ、初等、中等、高等教育、社会人すべての世代でAI人材を育成する方向性を示した。論文数などで大きく水を空けられている米中に、国家として対抗していく格好だ。

AI戦略における人材育成の一環として、経済産業省が旗を振った、「課題解決型人材育成」を行うスクール「AI Quest(外部リンク)」の設立も大きな話題となった。

JDLAが設計し、検定を行うG検定・E資格の受験者数も右肩上がりに伸びた。合格者のコミュニティである「CDLE(Community of Deep Learning Evangelists)の活動も活発に行われている。

▲G検定・E資格の受験者数・合格者数の推移(JDLA資料より)

高専生によるディープラーニング事業化コンテスト「DCON」も開催

 また、昨年は4月に高専DCON(全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト)をはじめて行い、多くの高専生がディープラーニング×ハードウェアのプロジェクトで競い合ってくれました。上位入賞チームは高いバリュエーションを獲得し、優れた技術と事業の可能性の一端を示すことができました。今後、多くの起業が全国各地から生まれてくることを期待しています。

昨年4月に初開催された高専生によるディープラーニング事業化コンテスト「DCON」は大きな盛り上がりを見せ、Ledge.aiも密着取材を行った。高専生による、ハードウェアとディープラーニングをかけ合わせたビジネスアイディアは実際に事業化されているものもある。

単に「やってみました」ではない、ディープラーニングの産業活用が進んだ2019年

 2019年は、ディープラーニングの活用が着実に広がった年と言えるでしょう。もはやディープラーニングが一時の流行ではないことが多くの人の目に明らかになったと言えるかもしれません。医用画像の画像診断や、顔認証などは、着実な普及をしています。また、美空ひばりの映像の再現や、Googleの検索にBERTが使われるなどの話題もありました。ロボットの技術でも深層強化学習に関連し、さまざまな技術が着実に進んできています。

 同時に、ディープラーニングを使った実用化の壁も徐々に浮き彫りになってきた年でもありました。単に、「やってみました」ではなく、きちんとユーザの痛みを把握し、それを解決するような製品・サービスにつなげないと、実際に使われるようにならないということを、多くの技術者や企業が感じています。これも技術が着実に普及していることの表れでもあると思います。

Ledge.aiでは、幅広いAI・ディープラーニング技術の活用事例を取材してきた。農業や漁業、小売、製造業からマーケティングまで、すでにAI・ディープラーニング技術は幅広い産業で活用が進んでいるひとつの「技術」であることを再確認した1年だった。

また、ソニーの「Prediction One」などのいわゆる「Auto ML」と呼ばれる、GUIで機械学習モデルを構築できるツールも台頭し、AIの民主化が進んだ1年でもあった。

ディープラーニングはシステム1からシステム2へ

 今後、ディープラーニングの技術はさらに進んでいきます。ロボットや機械への応用、そして言語の処理のブレークスルーへと進んでいくはずです。昨年末、NeurIPS 2019でBengio氏が行った講演は、システム1のディープラーニングからシステム2のディープラーニングへという内容で、今後の技術の広がりが感じられる非常に挑戦的なものでした。

システム1、システム2とは、心理学、行動経済学における人間の思考についての理論だ。詳しくは省くが、システム1は直感的かつ無意識で、考える際に努力を必要としない思考、システム2は、より論理的な思考で考えるリソースを必要とする思考のこと。

参考:2つの思考モード(システム1・システム2)Two modes of thought (System 1, System 2)(外部リンク)

機械学習分野のトップカンファレンスである「NeurIPS 2019」において、モントリオール大学コンピュータサイエンス学部のヨシュア・ベンジオ教授は、ディープラーニングが現在得意としているのはシステム1だが、今後システム2の思考も身につけるだろう、と語っている。

2020年、AI・ディープラーニング活用のカギは組織づくり

 2020年は、ディープラーニングの技術とビジネスモデルが紐付いて、挑戦する人々のなかから大きく成長する事業が生まれてくるころではないかと思っています。日本ディープラーニング協会はその手助けをしたいと思っています。本年も、人材育成、産業活用の促進、政策の提言等、さまざまな活動を加速させていく予定です。活動にご期待いただくとともに、引き続き協会へのご支援・ご指導を賜れますようお願い申し上げます。

 最後になりましたが、新年が皆様方にとりまして良い年となりますようにお祈りいたします。

松尾氏が述べるように、2020年もさらにAI・ディープラーニング技術の産業活用はさらに進み、そのなかには大きく成長する事業もあることだろう。

この2年間、AI業界の片隅で取材をしてきたひとりとして強調したいのは、そもそもAI・ディープラーニングは課題解決のためのツールでしかなく、手段として適切でなければ使う必要もないということだ。大多数の企業は、業務のデジタル化や、そもそもの業務フローの見直しを行うだけで、生産性は向上する可能性がある。AI・ディープラーニングを使わずとも、これらは働き方改革の外圧によって一定の成果は出始めている。

AI・ディープラーニングをビジネスへ活用する環境は整ってきた。探せば無料の教材も、モデルを実際に構築する術もある。それらの武器を活かすために企業がしなければならないのは、何より課題の明確化に尽きる。

課題が明確になれば、おのずとAI・ディープラーニング導入の前にゼロベースで業務を見直したほうが「コスパがいい」という現実に、多くの企業が気が付き始めてきたのが2019年だったのではないだろうか。繰り返すが、AI・ディープラーニングはあくまで手段でしかない。

AI・ディープラーニングを活かすために、筆者が重要だと思うのは、AI・ディープラーニングに限る話ではないので身も蓋もないが「組織」だ。適切な業務の最適化を行い、AI活用まで駆け抜けるためには、新しい取り組みを阻害しない風土や、恐れずにチャレンジを推し進めるカルチャーを持った組織が必要だ。2020年はそうした企業が、AI・ディープラーニングのもたらす果実を手にするだろう。

Souce:PR TIMES