AI創薬の開発を加速。三井物産とNVIDIAがスーパーコンピューター「Tokyo-1」を発表

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NVIDIAは3月22日、三井物産株式会社と協業し、高解像度分子動力学シミュレーションやジェネレーティブAIモデルなど、創薬を加速するためのイニシアチブとなるスーパーコンピューター「Tokyo-1」の推進を発表した。本推進の目的は、米国と中国に次いで世界第3位である日本の10兆円規模の製薬産業を加速させることにある。

「Tokyo-1」の推進の背景

日本の製薬業界は長年、海外で使われている薬が日本で使用可能になるまでの時間差「ドラッグ ラグ」に悩まされてきた。この問題は、COVID-19のパンデミック時におけるワクチンの開発競争で改めて注目され、米Scienceでも取り上げられた。

国内の製薬会社は、この問題を解決するための施策の1つとしてAIの導入を挙げており、AIは業界の医薬品開発パイプラインを強化し、加速するための重要なツールと捉えている。創薬のためのAIモデルのトレーニングやファインチューニングには、Tokyo-1のような膨大な計算リソースが必要とされ、本プロジェクトの第一段階としてNVIDIA H100 Tensor コア GPU を8基搭載したNVIDIA DGX H100システムが10台以上導入される予定であるという。

「Tokyo-1」概要

スーパーコンピューター「Tokyo-1」は、3月21日から3月24日の間で実施された「NVIDIA GTC グローバル AI カンファレンス」で発表された。Tokyo-1はAIプラットフォームである「NVIDIA DGX システム」で構築され、日本の製薬会社やスタートアップ企業が利用できるようになる予定となっている。

同プロジェクトでは、ユーザー企業に「NVIDIA DGX H100」ノードへのアクセスを提供することで、分子動力学シミュレーションや大規模言語モデルのトレーニング、量子化学、そして潜在的な薬剤の新規分子構造を生成するジェネレーティブAIモデルなどをサポートする。また、ユーザーは「NVIDIA BioNeMo創薬サービス」とそのソフトウェアを通じて、化学物質やタンパク質、DNA、RNAの一般的なファイル形式の大規模言語モデルを活用することも可能となる。

──阿部雄飛氏(三井物産 ICT事業本部 デジタルサービス事業部 デジタルヘルスケア事業室長)

「日本の製薬会社はウェットラボにおける研究のエキスパートですが、大規模なハイパフォーマンス コンピューティングとAIの活用は未だ限定的です。Tokyo-1を通じて、製薬業界が計算創薬のための最先端のツールでこの状況を一変させることができるイノベーションハブを構築します」

すでに、日本の複数の大手製薬会社がTokyo-1を使って創薬プロジェクトを進める予定であるとのこと。

アステラス製薬株式会社は、Tokyo-1を使って分子シミュレーションの研究を加速させるほか、NVIDIA BioNeMo ソフトウェアを通じて、ジェネレーティブAI のための大規模言語モデルによる研究にも取り組む予定だという。

──角山和久氏(アステラス製薬 アドバンストインフォマティクス&アナリティクス デジタルリサーチソリューションズ ヘッド)

「AIや大規模シミュレーションは、低分子化合物の研究以外にも、抗体、遺伝子治療、細胞医療、標的タンパク質分解誘導、次世代ファージセラピー、mRNA 医薬の研究などに幅広く活用できると考えています。Tokyo-1 が、近年の AIとシミュレーション技術の進歩を最大限に取り込み、アステラス製薬のVISIONを達成するための基盤の一つとなることを期待しております」

>>ニュースリリース