DXのコツを聞きに行ったら、AIで脳波を測定していた話

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7月28日から8月2日にかけて実施されたイベント「Macnica techNowledge Days 2022」は、「デジタルで企業の“今”を変える特別な4日間」と銘打ち、DXやセキュリティに関するさまざまな最先端テクノロジーの紹介と、特別セミナーが開催された。

DXはビジネスサイドが“握り”、若手に権限を与えよ

最終日のテクノロジー体験イベントと限定セッションは、大手町三井ホールにてオフラインで開催された。まずは西日本旅客鉄道株式会社(以下JR西日本)とAGC株式会社が登壇したセミナー「歴史と伝統を超える!我が社のDXジャーニー〜会社は変わらないと思ったら聞いてほしいAIデータ活用のリアルな話〜」を取材。

聞き手はマスク・ド・アナライズ氏、話し手はJR西日本 デジタルソリューション本部 データアナリティクス 担当部長 宮崎 祐丞氏、AGC 経営企画本部 DX推進部 デジタルソリューショングループ マネージャー 小野 義之氏、 同 東山 明弘氏だ。

JR西日本の取り組みについてはLedge.aiにて以前取材しているこれらの記事が詳しい。

若手社員に権限を与えて活躍させる、そのためにビジネス側の社員が適切に担当部署と“握り”、活躍できる土壌を整えることが重要だとJR西日本の宮崎氏は語る。

「弊社のようないわゆるJTC(Japanese Traditional Company)では、配属ガチャがあります。配属先でくすぶっている若手にチャンスを与えるとガッと成長する。なので、あらゆる手を尽くして有望な若手がデジタルソリューション本部に来れるようにしました。その結果、今の部署の黄金世代は30代前後と弊社にしてはだいぶ若いです。

DXは担当が情報システム部門になることが多いですが、多くの場合、情シス部門はJTCでは歴史が浅いこともあり人脈が細く現場に顔が効きづらいのは否定できません。ビジネス部門からDX担当をアサインし、関連部署と適切に連携できる体制をまずは整えるべきです」

一方、AGCは「因果連鎖分析」というビジネス課題設定の手法を提唱し、DXや社内の課題解決につなげているという。因果連鎖分析についてここでは詳しく触れないが、現場の暗黙知など、課題解決に必要な要因を因果の連鎖という観点から可視化して分析する手法だ。すでにDX推進部が提供する社内向けの研修でも因果連鎖分析を教え、一定の成果を収めているという。

清掃ロボットからプライバシー保護技術まで、最先端テクノロジーが集結

当日は複数のDXやセキュリティ関連のセッションのほか、テクノロジー体験会場も併設され、マクニカグループが展開する最先端テクノロジーを活用したソリューションが展示されていた。ここでは気になったものをいくつか紹介したい。

会場内はこのロボットが案内役として周回していた。サイネージが搭載されており、商業施設などで案内を表示したり、広告を表示したりできる。Androidベースのアプリを載せることも可能だ。導入費用は1台60万円(本体価格)~とのこと。

こちらは清掃ロボット。奥に見えるのが先に紹介したサイネージ付きのロボットだが、比較するとかなり大きい。主に大きな商業施設や空港、倉庫などでの活用を想定しており、人がいない深夜に稼働させることで、広い面積を効率よく一気に清掃することができ、昼間に稼働する清掃担当者の負担が軽減できるという。

個人情報保護のソリューションも興味深かった。brighter AI(ブライターエーアイ)社による「brighter Redact」というサービスで、映像内の顔などの個人情報を自動で特定し、映像の質を落とさずに匿名化できる。

たとえば、映像に写っている人物の顔に対してモザイク処理を行うと、顔から読み取れる年齢、性別、マスク着用有無といった活用可能な情報が抜け落ちてしまう。このソリューションでは、人物の顔を認識すると、その人物が持つ属性を保ちつつ、”その人ではない顔”を新たに生成し置き換えることで、プライバシーを保護しながら情報の抜け落ちを防ぎ、データ共有や利活用を可能にする。昨今、顔認識技術におけるプライバシーの保護が叫ばれているが、この課題に対する答えとなり得るソリューションだろう。

脳波でデータにラベル付け?実際に分類作業をやってみた

会場で一際目を引いたのがこの脳波測定器だ。Sense I(センスアイ)プラットフォームとデバイスで、人間の脳波を測定して熟練者の意思決定モデルを生成できる。

画像データを見て何かしらの判断を下したとき、人間の脳波は特徴的なパターンを示す。Sense Iは、そのときの脳波の特徴と画像データをAIが学習するというもの。すでに空港の手荷物検査や製造業における異常検知、医療などの領域で検証が開始されているそうだ。

この測定器を頭に装着して脳波を測定し、たとえば規格外のレモンを見分けるなどの分類作業を熟練者に行ってもらう。異常と感じるレモンを熟練者が言語化してNGを出す前に脳波で測定してラベル付けを行えるため、AIに学習させるデータのアノテーション作業が大幅に簡略化できるという。

実際に筆者も体験してみた様子がこちら。

デバイスを頭に装着する際は、脳波にノイズが入らないようにデバイス位置を調整する作業が必要だ。今回は正確に測定できるようになるまで10分ほどかかった。

その後、上述したレモンの分類作業を実際に行ってみた。

結果がこちらの画像だ。左側に表示されているのが筆者の脳が「異常」と判断したレモンの画像だが、正常と思われるものも異常と判断してしまっている。1秒間に3個のレモンが表示されるのを2分半繰り返し、480枚の画像を見たのだが、体感ではかなり早かったと言い訳をさせてほしい。

画像を見て考えている時間はまずないし、脳波で判断されるので言語化する必要もないのだが、熟練者ならばこの速さでも余裕で正確に測定できると担当者は語っていた。左下に表示がある通り、今回は初めてにも関わらず83.96%の正確度なので、上出来なのではないだろうか。

DXは最先端テクノロジーの導入だけで成功するものではない。しかし、思考のジャンプを引き起こし、自社の置かれている状況を改めて俯瞰するためにも、今回テクノロジー体験会場で出会ったようなソリューションを一度フラットに検討してみるのも面白いのでは、と感じた。

イベント概要

  • 名称:Macnica techNowledge Days 2022
  • 開催期間:2022年7月28日〜2022年8月2日
  • 開催場所:オンライン(特設サイト)、大手町三井ホール(東京都千代田区)
  • 主催:株式会社マクニカ
  • 全体申込者数:約2700名