地方を救う“課題と技術をつなぐ人材”

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課題先進国と呼ばれる日本は、高齢化を始め多くの課題を抱えている。一方で、それらの課題をAIやIoTなどのテクノロジーで解決ができれば、課題“解決”先進国として、グローバルに起こるであろう社会課題に対し、一石を投じることができるとも期待されている。

そんな中、ユニークな課題を多く抱える地域は、どのようにAI活用を進めていけば良いのか?長崎県立大学のセキュリティ学科で教鞭を執る加藤雅彦教授は、「人とテクノロジーの接点を工夫することが重要だ」と語る。

加藤氏が専門とするセキュリティ領域のAI活用を交え、地方のAI活用について話を聞いた。

深刻化する地方課題とギャップ

小学生の頃、ゲームをやるためにBasicに触れたことがきっかけでコンピュータの世界に興味を持ったという加藤氏。2016年、長崎県立大学教授に着任し、ネットワークセキュリティに関する研究を行なっている。

――加藤
「セキュリティの領域では、ネットワーク攻撃に対する検知などにAIが活用されています。例えば、『この通信の後にあの通信がきたら、攻撃である可能性が高い』という判断を行ったりするのですが、これまで、属人的な作業で行われていました。

しかし近年、データ量が急激に増加し、人の目だけでは見切れない膨大な数の通信が行われるようになりました。そこでAIの活用が進められています。具体的には、悪意のある通信パターンをAIに学習させ、アラートを出させる、といったところにAIを活用しています。

攻撃側がAIを活用しているという話も聞きますし、世界的にみても、セキュリティの領域では攻撃と防御が『自動vs自動』という構図に近づいてきています」

加藤氏によれば、ハードウェアや学習データへの攻撃など、時代時代のテクノロジーによってネットワークの攻撃は変化していくとのこと。それゆえ、セキュリティ市場は、なくなることはない市場だという。

セキュリティ領域だけでなく、今は多様な領域にAIが浸透していく過渡期と言える。多くの課題がテクノロジーで解決されようとしているが、日本特有の課題については、“テクノロジーと人の接点”が重要だと語る。

――加藤
「日本にはアナログな課題が多く、特に高齢者に関する課題は深刻です。それらを解決するためにはAIやIoTの活用が不可欠です。

例えば、今の農業では、高齢者が田畑を一生懸命に世話して、野菜を育てたのに、朝起きたら猿に全て荒らされていた、ということが起きたりするわけです。そうすると、高齢者としては精神的にも辛い思いをして、農業を続ける意欲を失う可能性もありえます。作業を手伝ってくれる人や、そうした事故を防いでくれる何かがあれば、様々な負担が軽くなり、農業を続けられるかもしれない。でも、地方には人が少ない

このギャップにテクノロジーを活用していくことが、高齢化社会では重要だという。

――加藤
「例えば、AIに猿の画像を学習させ、畑に猿が来たら警報を鳴らす、というようなこともできます。従来の技術である感熱や動体検知を使うと、人間もその警報に引っかかってしまいますが、AIを活用すれば猿か人を見分けることは手軽にできます」

AIを導入しようとするビジネスの現場でも、精度の高いモデルができたものの、現場のニーズや作業フローを汲み取れず、実際には使われず仕舞いになるケースもある。高齢者にAIやIoTを使いこなしてもらうには、何を意識すべきなのだろうか。加藤氏は、次のように語る。

――加藤
「高齢者に、ある新しい農業機器を作ったから、これを操作して作業してみてよ、と言っても使いこなすのは難しい。でも彼らは農作業の現場で、草刈機が壊れたら自分の手で直すことができます

つまり、慣れているか慣れていないかの差であって、高齢者が新しいテクノロジーを理解できないわけではない。これはあくまで一例で、高齢者に限った話ではありませんが、今までの経験と新しいテクノロジーとの接点を工夫すれば、高齢化の進む社会でもAIを十分に技術を活用していくことが可能だと考えています。フィジカルな世界とどう接続するのか、という観点が大事だと思います」

本質的な課題を見つけるための“外の目”

地方が抱えている課題は、高齢者に限った話ではない。加藤氏は、地方の情報リテラシーについても触れた。

――加藤
「地方が抱える大きな課題として、首都圏との情報格差も挙げられます。何か課題が見つかっても、それを解決するテクノロジーに気づけず、どうするの?と、止まってしまう

理由としては、新しいテクノロジーに触れる機会が少ないことが考えられます。それを飛び越えられるのが超高速情報通信技術です。物理的な距離を超越することで、あたかも現場で体感できているような、リアリティを得ることができます。地方にとって5Gのような高速通信インフラ整備は重要ではないでしょうか」

課題を解決することも大事だが、前提となる課題を発見することも非常に大切だと、加藤氏は語る。

――加藤
「これは地方に限らず民間企業などにも同じことが言えますが、AI技術を使うにも、課題そのものが見つからないケースもあると思います。その領域の専門家が自力でいくら頑張っても本質的な課題が見つからないのに、外の目で見ることで初めて課題に気付く、というのはひとつの課題発見のパターンです。

だから県立大学にとっては、自治体や企業などと組んで地域の課題を発見するということがひとつのミッションだと思っています。ネクストステップとして、産業界で課題を解決していく、という流れがスムーズなのではないでしょうか」

地方を救う、“課題と技術をつなぐ人材”

では、技術が地方に浸透し、活性化するためには何が必要なのか。

――加藤
「まず言えるのは、“人”が必要です。これまでの話とある意味矛盾しそうですが、ここでいう人とは、“課題と技術をつなぐことのできる人”です。

また、地域的な連携だけでなく、異文化との連携も重要です。IoTと農業に代表されるような、フィジカルとバーチャルの連携においてバリエーションを増やしていき、それまでITには触れてこなかった人たちに一歩踏み出してもらうのです。そうすると、テクノロジーを使った世界も悪くないな、となるかもしれないですし、多くの人を巻き込むことができます。

近年、長崎県には富士フイルムソフトウエアや京セラコミュニケーションシステム、デンソーウェーブといった企業が研究開発拠点を開設しており、本学含め、県内の教育機関や地元企業と様々な取り組みが始まっています。テクノロジー領域でも新しい技術を積極的に取り込み、全長崎県民を巻き込んでいくことが、活性化につながるのではないでしょうか」

長崎市内には、AI・IoT分野を中心に、地域課題に着目した企業の研究開発拠点開設が相次いでおり、優秀な即戦力人材の採用ニーズも高まっている。九州・長崎でキャリアを活かして働きたいと考えている人は、一度連絡してみてはいかがだろうか。