地方都市が抱える課題を解決 AI時代に求められる“力”とは

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人口減少に伴う、交通弱者の増加や地域の小売・生活関連サービスの衰退など、地方には課題が山積みだ。地方創生に向け、AIやIoT、ビッグデータの活用が急がれている。経済産業省も、中長期的に最新技術を取り入れたビジネスモデルの転換が必要だとし、地方の機能強化を政策の方針に組み込んでいる。

そうした中、長崎県で地方課題を解決する数々のプロジェクトを生み出している人物がいる。知能ロボット研究室を手がける、長崎大学の小林透教授だ。「公平な情報社会を実現するために」を研究理念とし、小林氏はこれまで、国や自治体、企業と数多のプロジェクトを立ち上げてきた。

地方課題とAIの親和性や、すでに佐世保市で進んでいる実証実験についてなど、長崎大学の取り組みを交え、小林氏に話を聞いた。

高齢者の負を解消。当たり前にサービスを享受できる社会を目指す

大学院卒業後、NTTにて情報セキュリティやWeb技術の研究開発に従事した小林氏。2013年、長崎大学大学院工学研究科 情報工学コースの教授に着任以後は、地方課題の解決に向き合い数多のプロジェクトを生み出してきた。

――小林
「近年、スマートフォンの普及やSNSの発達により、あらゆるサービスやコミュニケーションが手軽になっています。一方で、そうしたサービスを当たり前に享受するためには、最低限のITリテラシーが必要となります。とりわけ高齢者層においては、抱える課題が多いものの、サービスを活用できていないことが多いです。

そこで、知能ロボット研究室(小林教授が持つ研究室の名称)では、AIやIoTなどを活用し、高齢者が抱える課題を明確にし、さまざまな取り組みをしています。時には、総務省SCOPEの助成を受けたり、民間企業と連携したりしながら研究を進めています※。

例えば、『LINE仲介ロボット』という高齢者層と若年層のコミュニケーションを手助けするロボットを研究しています」

総務省SCOPE:ICT分野において新規性に富む研究開発課題を大学・国立研究開発法人・企業・地方公共団体の研究機関等から広く公募し、選考評価の上、研究開発を委託する競争的資金。

LINE仲介ロボットは、NECのロボットを使い、LINEでのコミュニケーションを音声で完結できる。会話をクラスタリングし、宛先を自動で判別する研究も進んでいるそう。

知能ロボット研究室の研究には、佐世保市ですでに実証実験が行われている(外部リンク)ものもある。

――小林
「すでに佐世保市で実証実験を進めている研究が、買い物難民支援ロボットです。最近、高齢者の免許返納についてのニュースが取り上げられることも多いですが、地方では車での移動ができないと大変不便です。そこで、高齢者がロボットと会話をし、音声で弁当を注文すると、配達屋さんにLINEが届く、という仕組みを作りました」

買い物難民支援ロボットの実証実験が目指す先は、認知症の予兆検知であり、単に出前ができる機能だけではないという。一体、どういうことなのだろうか。

――小林
「これは、総務省から認知症予兆をロボットで実現できないか、というお話をいただき、進めている研究です。認知症の兆候のひとつに、短期エピソードの欠落が挙げられます。今どこにいるのか、何をしているのかなどがわからなくなるようなケースですが、この予兆は、一緒に暮らしている家族たちが気づく場合が多いです。

しかし、一人暮らしの高齢者は知らないうちに認知症が進行してしまう。そこを、ロボットを使って解決するんです。例えばロボットが、こんな会話をします。

ロボット「おばあちゃん、昨日の夜何食べた?」
おばあちゃん「生姜焼きだよ」
ロボット「美味しかった?」

ロボットは、昨晩のメニューをわかっていますから、おばあちゃんの返事が詰まったり間違ったりすることが続くと、認知機能が落ちてきているんじゃないか、と推測するわけです」

買い物難民支援ロボットを使った実証実験は、あくまで認知症予兆の第一ステップだそう。

小林氏はほかにも、高齢化の進行、車社会ならではの課題など、地方に根ざした題材を中心に、研究に取り組んでいて、数多くの受賞経歴も有している。

今の時代に求められる、“意味づけする力”を持った人材


では、課題を解決し、地域経済を成長させるためには何が必要か。

――小林
「地方に限らずですが、今の時代に求められているのは、AIの出した答えに解釈を加え、意味づけできる能力を持った人材だと思います。業界はまるで違いますが、将棋の世界で藤井聡太さんが強いのはそうした思考ができるからではないかと推測しています」

手段としてのAI活用が進むと、誰でもそれなりの答えを出すことができるようになるため、本質的な課題を見つけ出し、テクノロジーで素早く試し、出された答えに意味づけすることが必要だと語る。

――小林
「そのための教育は不可欠です。これまでは課題と答えが明確で、それを解けることが正しいとされていました。しかし、今の時代は、問題を見つけ、複数の答えから目的に最適なものを見つけ、価値として提供することが重要です。

本質的な課題は、現場を見ることでヒントを得られることが多いです。例えば、画像認識を使って、職人技による作業を継承するためにはどうしたらいいか、実際に漁網の製造現場に行くこともあります。本質的な課題はどこにあり、どこにテクノロジーを使えば良いのか、研究室では学生に自主的に思考してもらうのです」

長崎だからこそできる取り組みを

小林氏は、高齢者のコミュニケーション領域だけでなく、長崎ならではの課題でも研究を進めている。取り組んでいる事例を2つ紹介していただいた。

――小林
「まずひとつは、軍艦島のいたるところに加速度計や音声・振動のセンサーを埋め込み、リアルタイムで朽ちていく様子を記録し、世界中に発信するというものです。これらのデータは、劣化兆候を計測し、ほかの老朽化した建築物の損傷判定などに役立てることが期待されています。

二つ目は、バリアフリーストリートビューという取り組みです。長崎の土地は非常に坂が多いため、車椅子での移動には危険が伴います。そこで、車椅子視点でのストリートビューを作成し、安全に街を移動・観光できるよう取り組みを進めています。

これら二つはまさに長崎ならではの取り組みです。日本には、特徴的な地形の都道府県や、その地域ならではの課題があふれていますから、長崎以外の地域でも取り組めることは数多くあるでしょう」

長崎に限らず、日本の地方都市にはユニークな課題が数多く存在する。小林氏は最後に、地方課題解決に必要な、3つのスキルを語ってくれた。

――小林
「何が大事かを見極める力・解決する技術・それらを結ぶ力の3つが重要です。必ずしもすべてを一人(一組織)で持つ必要はありませんが、これらを組み合わせることで、課題が解決されて地域は盛り上がっていくのだと思います。また、もうひとつ忘れてはならない視点がサステイナビリティです。近年、政府や地方自治体の補助金制度が整備されてきていることは、大きな後押しです。日本の地方都市が盛り上がり、多様な人々が公平にサービスを受けられる世界を目指し、これからも研究を進めていきます」

少子高齢化が進み、課題先進国と呼ばれる日本。経済的な観点の課題だけでなく、地域単位での課題も多く存在する。そうした課題にテクノロジーを活用することができれば、それが日本の強みとなり、勝算となるかもしれない。

近年では、富士フイルムソフトウエアや京セラコミュニケーションシステム、デンソーウェーブをはじめとする企業が研究開発拠点を長崎市内に開設している。地方で働きたいと考えている方は、一度お問い合わせてはいかがだろうか。