文系卒プログラミング未経験者は「AI人材」になれるのか?オンライン講座SIGNATE Quest体験レポート

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文系学部卒、プログラミング未経験。初心者向けの技術書は挫折。縁あってAI業界で働きはじめ、「AI技術についてもっと知りたい」という思いはありつつも、何から手を付けたらいいか分からず焦っている……。

そんな筆者が、AI学習サービス「SIGNATE Quest」体験版をレポート。感じたことを率直に綴っていく。

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SIGNATE Questとは?

SIGNATE Quest(シグネイトクエスト)は、AI開発者向けコンペを開催するSIGNATEが運営するAI人材育成オンライン講座。経済産業省の実証事業「AI Quest」にも採用された。

2019年11月現在、法人向けサービスのみ提供されており、サービスローンチ時、Ledge.aiでも取り上げている。

関連記事:法人向けAIオンライン講座「SIGNATE Quest」公開。NEDOから受託の課題解決型人材育成にも利用

FAQによると、SIGNATE Questは開発未経験者や「ビジネスサイド」の人材も対象にしているとのこと。多くのビジネスマンが該当するだろう。

Q. どういった職種が受講対象となりますでしょうか?
プログラミング未経験の文系出身者でも受講できるようなカリキュラムでしょうか?

これからの時代、AIリテラシーは全社員に必須の能力です。
ITエンジニアやデータ系人材のみならず、営業、経理や総務まで幅広い職種の方が対象となります。
プログラミングやPython初心者からAIモデル開発経験者まで、ご自身のレベルに合わせて受講できる教育プログラムをご用意しております。

出典:よくある質問 | SIGNATE Quest

AI関連知識を網羅するGymとを解決するQuest

SIGNATE Questは基礎トレーニングのGymと、さまざまな業界の課題解決を疑似体験できるQuestの2コースで構成されている。

筆者はまさに「AIやPythonを始めて学ばれる方」なので、今回はGymを選択。

Gymのラインナップはまるで大学の教養科目群

Gymは以下の7カテゴリ・計13講座からなり、履修順番は自由。自分の興味あるトピックから選べる構成になっている。

  • 一般知識
    • AI入門
    • Deep Learning入門
  • ビジネス
    • AIビジネス推進概論
    • AIプロジェクトテーマ選定法
    • AI運用法
    • AI ROI算定法
  • 法律/倫理
    • AI関連法律概論
  • 理論
    • AI関連理論概論
  • プログラミング
    • Python入門
    • pandas道場
    • Python環境設定
  • 分析
    • AI関連分析手法・モデリング概論
  • ツール/エンジニアリング
    • AI関連ツール・サービス概論

「Python入門」「クラスタリング分析」というように、プログラミングや分析手法の講座が充実しているオンラインスクールが多い中、プロジェクトマネジメントや関連法律にも触れており、一風変わっているなという印象を受けた。

Gymに挑戦:7〜8分の動画を見てタスクを解いていく

1講座の基本的な流れは、解説動画を見る→動画内容をもとに出題されるタスクを解く、というもの。

所要時間2〜3時間のものが多く、最長で8時間。ひとつの講座が6〜11のミッションに分解されていて、 履修順の入れ替えやタスクの回答順変更、中断も自由だ。動画を見ずにタスクだけ解くことも可能。

タスクでは設問文を見る、回答する、コーディング、書いたコードの実行がブラウザ上の一画面で実行できる。

オンラインプログラミングスクールではおなじみの機能だが、ツールを使えるようになるまでの学習コストが抑えられるのは嬉しいところだ。

AI入門

最初に始めたのは、AIに関わる基本的な知識をインプットできる「AI入門」。DeepLearning入門、AI関連法律概論にも挑戦してみたかったが、記事執筆段階ではComing Soon表記があった。ちょっと残念。

AI入門のミッションは計7つ、所要時間は2時間とのこと。

カリキュラムは以下のとおり。

  1. AIの仕組み・歴史
  2. 機械学習との関係
  3. AIの事例
  4. AIクラウドサービスについて
  5. データサイエンティストについて
  6. データについて
  7. まとめ

最初のミッション「AIの仕組み・歴史」で研究者によって異なるとしたうえで、AIの定義を「人間の知的行為をAIで模倣させたソフトウェア」と述べていた点に好感が持てた。

AIという言葉の定義は本当にさまざまで、認識のずれによってはコミュニケーションに支障が出てしまうこともある。「広い意味を持つ言葉」だと知っておくだけで、行き違いは防げるはずだ。

ほかにも特化型人工知能・汎用型人工知能の違いや、データを独自で作る場合の注意点といった、AIビジネス初心者が勘違いしがちな内容を網羅している。

「自社のデータを生かして何かAIを作りたい」という(体感値)よく聞かれる質問の答えも、この講座を学べば分かるはず。

Python入門

次に取りかかったのが、機械学習・ディープラーニングに向くプログラミング言語Pythonの入門講座。「データ分析に使うPythonの基本文法を覚える」という目的でカリキュラムが組まれており、Pythonでの四則演算からデータ構造の選択、内包表記に至るまで11のミッションをこなしていく。

カリキュラムは以下。

  1. 初めてのPython
  2. 変数とデータ型
  3. 文字列の操作
  4. データ構造
  5. リストの操作
  6. 論理演算と条件分岐
  7. 反復処理
  8. 内包表記
  9. 関数
  10. ライブラリ
  11. ファイルの入出力

この講座で印象的だったのは、ていねいな用語解説。「プログラムにおけるイコールとは、等しいでなく代入という意味ですので注意しましょう」「関数名はクラス名にできません」「変数にはint型とstr型があり……」といった基礎知識を噛み砕いて解説してくれるのはありがたい。伊達に”プログラミング初心者向け”を謳っていないぞ……。

各ミッションの説明文に「データ分析で使うであろうシチュエーション」が明記されているのもいいなと感じた。目的が分からないまま「関数△△を説明します」「この記法はよく使われますので覚えておきましょう」と言われるのはなかなか辛い。

ミッションの順番通りこなし、HelloPythonから四則演算、if文やfor文/While文などプログラミングの基本、Pythonでよく使われる関数やラムダ式の記法までひととおり学ぶことできた。

pandas道場に入門してQuestでデータ分析に挑戦してみる、はずだったのだが

Python入門を終え、いよいよ「pandas道場」に突入。これで私もデータサイエンティストに……と思った矢先、急に難解になり面食らってしまった。

ここからは概要のみ述べる。

pandas道場

pandasはPythonでのデータ分析・解析で多く用いられている、オープンソースのデータ分析ライブラリ。

Python Data Analysis Library — pandas: Python Data Analysis Library

Gymによると「pandasはデータ分析の過程において作業の大半を占める、データの前処理や探索的分析を柔軟かつ効率的に行うための高機能なデータ構造と各種ツールを提供しています。」とのこと。

講座カリキュラムはこちら。

  1. pandasの為のNumpy入門
  2. Seriesの基本
  3. DataFrameの基本
  4. データの読み込みと書き出し
  5. データのクリーニング
  6. データの結合と形状変換
  7. データのグループ化と集約
  8. データの可視化

この講座には動画がないので、「Python入門」で習った関数や記法などを活かしながら、ひたすらコードを書いてタスクをこなしていく。

この数日間何度か見た問題画面に目を向けると、見慣れない文言が並んでいた。配列の生成、型、オブジェクト……残念ながらひとつひとつ理解していくのが難しく、今回はここで手を止めることにした。「プログラムにおけるイコールは、等しいでなく代入だよ」と教えてくれたPython入門はどこに行ってしまったんだろう。

初学者向けといえど、ある程度の予備知識やついていくための覚悟は必要ということか。

モデル開発やデータサイエンスのいろはが体験できるQuest

Questも概要のみ述べる。「AI開発実践」として位置づけられているQuestは、AI予測モデルを作り、課題解決に使うという一連の流れを体験できる。

内容は「実践向け」とあるように、未経験者はGymの「Python入門」と「pandas道場」を終えてからのほうが良いだろう。開発経験者は、この2つをおさえていればQuestから取りかかって問題なさそうだと感じた。

おすすめされていたクエストは「自動車環境性能の改善」。自動車メーカーが、近年の排出ガス規制で燃費性能の改善を求められる中、「過去の自動車データから、走行前に燃費を予測できる機械学習モデルを作成する」という一連の流れを学習する。

  1. 自動車データの読み込み・確認
    • データ精査、欠損値・異常値の確認
  2. 自動車データの特徴把握
  3. 燃費予測モデルの作成
    • データの分割、モデルの学習・精度評価など
  4. 燃費予測モデルの予測精度改善

他にも食品ロスの削減、スポーツのチケット価格の最適化、健康経営のための疾患リスク予測などさまざまな業界の課題が用意されている。

課題を終えたあとも、予測精度の高い新たなモデルを構築するChallenge Missionが与えられる。

結論:AIって何?な人は「AI入門」の章だけでも学んだ方がいい

AI入門講座というと、Pythonの基本文法の説明から入り、おのずと何らかの技術を体験して終わる(たとえば、何の説明もなくいつの間にか画像認識をやっていたというような)のを危惧していたが、SIGNATE Questは「AIを使ったモデル開発やデータサイエンス手法を学び、AI人材を目指す」という目標と、目標到達までの道筋が明確になっている。

一方で「自然言語処理から始めたい」「音声認識をやってみたい」というように、データ分析以外に挑戦したい課題があるユーザーからしたらやや退屈に思うかもしれない。

動画再生機能・個人向けプランは今後に期待

個人的には、倍速再生機能があるとより使いやすいと思った。タスクの問題を解きながら動画をサッと見返したいときもあるので、等速再生しかできないのはちょっと残念。流し見をせず「じっくり見る」動画だからあえて倍速機能を付けない、という意図があるのかもしれない。

個人向けプランの提供も望まれる。法人向けプランのみ提供となると、利用ユーザーがおのずとビジネスマン以上の年齢になってくる。中高、学部生時代にこのコンテンツで学べるなら、コンピュータサイエンスや統計学といった分野に興味を持つきっかけになると思うので、この点は惜しい。個人でも手が届くようになれば、データサイエンティストなど「AI人材」の輩出に一役買えるのではなかろうか。

いずれも今後に期待というところか。

なんとなくでも理解しておくと、AIを活用するための発想が広がる

AIは「よくわからない」ものかもしれない。でも、「なんとなく」でも分かると、見える景色が違ってくる。

冷蔵庫の仕組みが分からなくても「食品などを低温で保管する道具」だと知っていれば、無闇に温かい物を入れようとはしないだろう。AI技術も同じく、概念を知っていれば「AIなら何でもできるよね!」という突飛な発想は避けられるし、「AIは人類を脅かす」といった身も蓋もない陰謀論に怯えることもないはず。

SIGNATE Questは、最低でも「なんとなく」、きちんと取り組めばそれ以上の解を返してくれる講座だ。AI技術をもっと知るために学ぶべきことは多くあるものの、到達までのひとつの道が見えた気がした。