NVIDIA(エヌビディア)が主催する最大級のカンファレンスイベント「NVIDIA GTC(以下、GTC)」が、2021年11月8日(月)から11日(木)まで開催中だ。
本カンファレンスイベントは、AIやディープラーニングに関する最新情報や、各国の成功事例など、数々のセッションや技術トレーニングが用意されている。セッションの数は500を超え、NVIDIAのエキスパートたちをはじめとする、グローバルで活躍している研究者や、日本発のDXで業界を牽引するビジネスリーダーなどによる講演が予定されている。
参加費は無料。AIやDXの最新事例を知りたい方はもちろん、IT業界全体においても非常に注目を集めるイベントだ。
そんなGTCのなかで、ひときわ注目を集めているのがNVIDIAによるディープラーニングなどに関する研修プログラム「DLI」だ。残念ながら、本稿掲載時にはすでに今回のGTCでの日本向けのDLIへの参加枠は満員となってしまっているが、DLIについてエヌビディア合同会社 シニア ソリューション アーキテクト 佐々木 邦暢氏に話を聞いた。
NVIDIAが提供するディープラーニング研修
DLIとはDeep Learning Instituteの略で、NVIDIAが提供するAI研修のようなものだ。講師が付いて学べるコースと、ハンズオンに自ら取り組む 自習型のふたつが用意されている。
「DLIは、我々NVIDIAが5年ほど前から取り組んでいるトレーニングソリューションです。AIの知識を磨きたい方に向けて、ディープラーニングに関するさまざまな内容を個人、組織、教育者、生徒に対して提供しています。
主に現場で活躍するデベロッパーの方を対象としていて、一方的に教えるだけではなく、実際に手を動かしてもらうため、実用的なスキルを身に着けていただくことを目的としています」
佐々木氏いわく「手を動かすこと」をDLIで重視しているそうだ。
「AI全体におけるリテラシー教育は増えてきました。AIを活用する、という土壌が養われつつあるのは、非常に喜ばしいことです。
リテラシーの次に求められるのは『実践力』です。実践力を身に付けるには、実際に自らの手でディープラーニングに取り組み、モデルなどを開発することが重要です。たとえば、一度でもカメラを使った画像認識のモデルを作れば、ディープラーニング全体に対するイメージを具体化できますし、そもそも課題に対してどのように解決策を見出せばいいのかも明確になります。
そこでDLIでは、AIやディープラーニングにおけるさまざまな知識と実践力を身に付けられるように、豊富なコースを取り揃えています」
理論ではなく現場の課題をダイレクトに解決する方法を学べる
冒頭でも触れたとおり、今回のGTCでの日本向けのDLIはすでに満員となっているが、せっかくなので何を学べるのかを紹介したい。
DLI自体は申し込みさえすれば提供されるプログラムではあるものの、GTCでは特別なワークショップなどがこれまでも実施されている。DLIは全世界をターゲットとした取り組みなので、多くは英語表記ではあるが、いくつかのコースは日本語に翻訳されたものが提供されている
GTCで提供される日本向けDLIは、「AIを応用した予知保全」をテーマに、時系列データのなかから「異常と障害を特定する方法」「該当パーツの残りの耐用年数を見積もる方法」「この情報を利用して異常を障害条件に関連付ける方法」について学べる。
学習内容は以下だ。
・予知保全を活用して障害に対処し、費用のかかる予想外のダウンタイムを回避する
・費用のかかる故障を招く可能性がある異常の特定に関する主要な課題を認識する
・時系列データ、機械学習分類モデル、XGBoost を利用し、結果を予測する
・長/短期記憶 (LSTM) を基盤とするモデルを利用する予知保全を応用し、機器の故障を予測する
・前の手順の時系列シーケンスを利用し、オートエンコーダーによる異常検知を実験する
また、修了後は、AIを利用して機器の状態を予測し、保守を実施する時期を判断できるようになるという。
このプログラムについて佐々木氏は「自社に持ち帰ってすぐに課題に取り組めるように、これまで以上に実践的な内容にした」と話す。
「DLIには、初級者向けの汎用的な画像分類を題材するなど、幅広い研修プログラムが用意されています。ただ、今回のGTCで実施するDLIワークショップでは、より実践的な内容にし、ワークショップに参加した方が自社に持ち帰ってすぐに課題解決に取り組んでいただくために、現場に沿ったテーマで提供することにしました。
今回のDLIでは、『畳み込みニューラルネットワークはこういうものです』などの理論を教えるのではなく、予知保全のタスクに対してどのようにモデルを構築していくか、という内容構成にしています」
ちなみに、今回のDLIは11月9日(火)9時~17時までの丸一日実施予定となっている。価格は早期割引で$99という比較的お手頃な価格設定であったこともあるが、DLIでのハンズオン環境は、受講後も半年間利用できることも人気の理由になったと佐々木氏は話した。
AI人材不足は日本だけの問題ではない
NVIDIAがDLIを提供する背景には、「全世界でのAI人材に対する需要の高まり」がある。
「日本国内でも、さまざまなメディアなどで『AI人材が不足している』と取り上げられますが、日本だけに限った話ではありません。世界中でAI人材への需要が高まっています。
DLIを提供し始めたきっかけは、このような人材不足もありますが、世界中でGPUを活用したディープラーニングへの取り組みが盛んになってきたことが最も大きな理由です。ユーザー様がGPUによるディープラーニング技術を求めていただく状況になったことや、多くの企業様などでAI活用を進めていることから、NVIDIAが主導してディープラーニング技術をもっと広めたいと考え、DLIという形で教育プログラムを提供するに至りました」
DLI自体は、GTCで実施されるワークショップだけでなく、申し込みさえすればさまざまなプログラムを受けられることは、先ほど記載したとおりだ。また、特筆すべきは「教育者向けにも用意している」という点で、近年さまざまな大学でデータサイエンスに関する学部が設立されたり、授業が増えたりしているが、これらの授業で教える教育者(=先生や教授)に向けたプログラムもあるという。
直近では、慶応大学AI・高度プログラミング コンソーシアム(AIC) とNVIDIAがコラボレーションし、DLIを活用している。
「NVIDIA Deep Learning Institute (DLI) 教育キット プログラム」では、GPU をカリキュラムに取り入れようとしている大学教員を支援するため、ダウンロード可能な教材とオンライン コースへのアクセスを提供している。
https://developer.nvidia.com/ja-jp/teaching-kits
今回のGTCでの日本語ワークショップは残念ながら、満席になってしまったとのことだが、今後開催されるGTCにおいてもハンズオンによるDLIプログラムは実施していくとのことなので、興味のある方はぜひとも次回以降のGTCにも注目いただきたい。
また、11月8日から開催するGTCでは、日本向けのセッションも多数用意されているとのこと。DXについてなど、いま多くの企業にとって興味深いセッションばかりなので、読者のみなさまはできる限り時間を作って視聴してもらえればと思う。
ちなみに、NVIDIAの方のイチオシGTCセッションは同社の創業者/CEOのジェンスン・フアン氏による基調講演だ。日本時間11月9日(火)17時からスタートしており、現在は公式サイト上などでオンデマンド配信中。ぜひともチェックしてほしい。
開催概要
日 時 :2021年11月8日(月)~11月11日(木)
名 称 :NVIDIA GTC(GPU Technology Conference)
開催方法 :オンライン
主 催 :NVIDIA
参加費 :無料(事前登録制)