「日本人が眠れないのは会社のせい」広告代理店出身社長が語る国民総睡眠不足の原因

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眠れない、入眠してもすぐ起きてしまう、朝起きられない、などなど……睡眠にまつわる問題は、私たち現代人を悩ます極めて大きな課題。特に日本人は、世界一睡眠不足だといわれています。

その原因はどこにあるのか? AIは解決に貢献できないのか?





そこで今回、AIアクセラレーターにも採択された株式会社O:(オー)代表の谷本潤哉さんにインタビュー。国民総睡眠不足の根幹にアプローチするサービスについて聞いてきました。

谷本 潤哉
株式会社O:(オー) Founder / CEO


広告代理店でコピーライターを6年間経験。長時間の労働で健康を損なったとき「時計を持たない1週間の無人島生活」で回復したことから睡眠や体内時計に興味を持つ。2018年3月、睡眠医学を基にした従業員のコーチングアプリと、その睡眠状況から組織の生産性を分析、改善まで実施する分析システム「O:SLEEP」を公開。「メンタル不調の早期発見(3次予防も提供)」「居眠りによる事故防止」「組織の生産性可視化/改善」「休退職者の削減」を支援している。

経産省「課題解決型先進的IoT Lab Selection」「TECH SIRIUS 2018」でグランプリ、三菱総研「未来共創INCFコンテスト」最優秀賞、キャピタルメディカ「ヘルスケアベンチャーフォーラム(審査員:堀江貴文氏など)」で優勝。

日本人は世界一寝ていない。「眠らない国」を作り出す元凶

――日本人は世界一眠っていないと聞きますが、本当でしょうか?

――谷本
「日本人は本当に眠りません。ナショナルジオグラフィック表紙のキャッチコピーでも話題になりましたが、『日本人の40%が1日6時間も眠っていない』という調査がありました。知られていませんが、6時間睡眠を10日間続けると、徹夜レベルと同じ認知能力になるという研究結果があります」

6時間というと、平日の業務後にさくっと飲んで帰宅し、お風呂に入って就寝するとだいたいそんな時間になってしまう気がします。40%といえばほぼ人口の半分。これほどの人が睡眠不足だったんですね……。この記事を読んでいる日本人は早く寝ましょう。

しかし、なぜそのような状況が生まれてしまのか。理由が気になります。

――谷本
「別の観点になりますが、睡眠時間が世界でもトップレベルに短い国(日本・韓国・中国)に共通している点は、もともと『儒教国家』だったことです。

こういった国は睡眠を犠牲にすることが美徳になる価値観がありますが、簡単に言うと『寝ずに頑張る俺カッコいい』という価値観が社会の根底にあります。

欧米では真逆で『睡眠など自分の生活や家族を犠牲にしてまで働く仕事はない』という価値観が主流ですが、日本を含めアジアにおける睡眠を削る意識が働く要因はこのあたりにもあると私は捉えています。

現代は従業員に対して同じ時間帯で働くことを要請する会社がまだ多数かと思いますが、儒教文化的な側面もあり、睡眠や健康を犠牲にして奉仕する人こそが、心のどこかで良い人だと思ってしまいます。私にも少なからずそう思ってしまう一面はありますが、従業員の奉仕が是とされる価値観が根強いと、残業も多くなりがちです。

現代人が眠れない要因として、文化要因から社会や会社が要請している側面は大きいかと思いますが、そもそも人によって最適な睡眠時間や時間帯は違うので、『会社の時間軸』に適応できない人は辛い現代社会だと思います」

なるほど……。リモートワークやフレックスの普及が徐々に始まっているといっても、大多数の会社では定時が決まっています。個々の睡眠時間の設計に合っていない社会と言えるかもしれません。

人間は体内時計に支配される。体内時計と睡眠の関係

――O:がtoBに注力するのもそれが理由でしょうか?

――谷本
「そのとおりです。現代では、個人の健康を害する要因として会社も大きな割合を占めます。

所属するコミュニティが家族や親戚、地域と多かった以前に比べると、現代では会社しか所属するコミュニティを持たない人も多いです。家族と疎遠な人も多い。

そして、その単一的なコミュニティの帰属意識を守ろうとすると、自分を犠牲にしても会社のために仕事をしないといけない……なんていう具合に必要以上の強迫観念を持つことにつながるかもしれません。

働き方改革という言葉がブームですが、今の社会の少なくない人が抱えている「働きづらさ」を解消するため、会社から発生する課題を解決することで日本人の健康を底上げできると思い、toBに注力しています」

確かに、趣味などで所属コミュニティを持つ人は早く帰って自分の好きなことをやり、結果的にストレスなく健康的に生活している気がします。仕事しかやることがないと、ついつい残業・夜更かししてしまう……。現代特有の病と呼べるかもしれません。

しかし、なぜ健康促進のために、睡眠に注目したのでしょうか?

――谷本
「当社は睡眠に関するサービスを提供していますが、実は睡眠の会社ではなく体内時計の会社なんです。体内時計がもっとも関連する分野が睡眠なので、そこに注力しています」

谷本さんによると、時差ボケといったように体内時計のリズムは変化しますが、体内時計の周期(長さ)は遺伝によって決まるため、変えることができないんだとか。体内時計の周期やタイプによって、個々人が満足する睡眠時間も推定できうるとのことです。

――谷本
「眠ろうとして眠れない方もいます。多くの場合、眠れなくてもベッドに横になって目をつぶっているだけでいい、といったアドバイスがされますが、あれは間違いです。

体内時計のリズム的に覚醒度がまだ高く、体が睡眠を欲していないということなので、寝ようと思っても眠れないどころか、眠れないことで睡眠不安に陥る可能性があります。なので、ベッドに入って20分経ってもまったく眠れる気配がない場合は、一度起きたほうがいいと言われています」

常識を覆すアドバイスをもらいました。無理に寝ようとせず、起きたほうがいいとは……!ほかにも谷本さんからいただいたアドバイスは、

  • ブルーマンデーの原因になるため、休日の寝だめはNG(そもそも人間は寝だめできない)
  • ベストな入眠タイミングはお風呂に入った90分後。体温が下がり始めるため
  • 一日眠れなくても問題ない。一週間単位で睡眠時間を確保することが重要

などなど。睡眠そのものではなく体内時計に注目するのは、斬新な視点だと思います。

枕元にスマホを置くだけで、組織の生産性を可視化

――御社の「O:SLEEP」はどのようなサービスなのでしょうか?

――谷本
「『O:SLEEP』は従業員向けのアプリと、企業の人事部門や産業医・保健師の方が用いるブラウザシステムの連携したサービスです。

アプリの方で枕元に置いて睡眠時間を取得。睡眠衛生学を基に従業員の睡眠習慣の改善を促します。アプリを利用することで、自分の睡眠状態や『理想の睡眠時間』が客観的に分かるようになります。使い続けることで、熟睡や『日中の眠気』が解消されてスッキリする状態になることが期待できます。

また、ブラウザシステムの方では『個人が特定できない状態』に変換し、組織の状態も可視化できます。提供内容としては、

  • 組織の生産性(プレゼンティズム)の可視化 & 損失額の金額換算
  • 本人の自覚有り無しに関わらず、メンタル面でハイリスク者を予測
  • どの部署が危険水準に達しているか
  • 上記問題の原因や対策を毎月1回提示

の4点です。まだ検証中ですが、今後はハイリスクだとわかった個人の中で改善欲求がある方に対して、会社に知られることなく、その改善に向けて我々が個別介入していくところを強化できればと思っています」

睡眠と生産性は密接に関わってくることから、睡眠を可視化すれば生産性がどの程度あるのか分かるといいます。

下記は従業員が使用するアプリのデモ画面。スマートフォンを枕元に置くだけで加速度センサーで体の動きを検知し、睡眠情報を取得。詳細に自分の睡眠を分析してくれます。


睡眠時間や、平均睡眠スコアを算出

取得したデータを基に、睡眠衛生学の見地から睡眠のアドバイスをくれる

入眠・起床時間も正確に計測

睡眠のTipsなども読める

上記の従業員用のアプリで取得したデータを基に、人事労務部門は組織全体の生産性を高める対策を立てられるというわけ。しかし、自分の体内時計と会社の勤務時間がどうしても合わない場合はどうすればいいのでしょうか?

――谷本
「解決策はふたつあって、ひとつは会社をやめること(笑)もうひとつは、少しでも適応できるための生活を実践することです。

O:SLEEPでは、最適な睡眠時間を可視化するほか、風呂、食事、仮眠の最適な時間帯などもサジェストします。こうすることで、睡眠に悩む人でもある程度対策を立てることができます」

2019年、AI搭載の腕時計型デバイスで勝負を仕掛ける

――AIはどの部分に使用されているのでしょうか?

――谷本
「実は『O:SLEEP』にはAIと呼べる技術は使っていないんです。2019年をめどに腕時計型デバイスを開発中で、そのデバイスにAI機能を組み込む予定です」

なんと。AIメディアなのにAIのことが聞けないのは残念。腕時計型デバイスについてもまだ多くが企業秘密とのことでした。

しかし、腕時計型デバイスであれば加速度や脈拍など、さまざまなデータが取得できるので、AIが活躍する余地は大きいといえます。toC向けのアプリも開発中とのこと。

取材してみて、改めて日本人の睡眠不足は極めて深刻な課題だと再認識しました。しかもその原因が、会社という日常的に過ごす場所であるという事実は、分かっていたようでいてあまり分かっていなかったかもしれません。「O:SLEEP」のようなサービスを用いて会社単位で健康経営を進めることは日本としての急務でしょう。

ディップが主催するAIアクセラレーターにも採択され、数々の賞も受賞して波に乗るO:。「世界一眠れない国」を変革してくれることを願ってやみません。