「大規模な立ち往生を未然に防げるかもしれない」OKIのAIが大幅に進化した理由

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画像はぱくたそより

今年1月、福井県の北陸自動車道金津インターチェンジ(IC)で大型トレーラーの大雪でスリップし、最大約1500台の大規模な立ち往生が発生した。立ち往生の影響で、車内で一晩を過ごさざるを得なかったドライバーもいたという。

高速道路などの主要な道路は渋滞検知、雪など悪天候によるスタック(立ち往生)検知ができる装置を設置している場所が多い。

一方で、地方都市を結ぶ中山間部などは該当の装置を設置していない道路も多く、まれに渋滞やスタックなどの異常が発生すると、甚大な被害をもたらしてしまう危険性がある──。

なぜ確度が高い渋滞検知を実現できたのか?

このような社会課題を解決できる可能性を持つソリューションが存在する。沖電気工業株式会社(OKI)が11月に発売した「AISION車両センシングVer.2」だ。

「AISION車両センシング」は、カメラ映像をAI(人工知能)技術でリアルタイムに解析することで、道路を走行する車両の「異常走行車両の検知(速度超過、逆走)」「通行量カウント」を実現するソリューションである。

今回発売した「AISION車両センシングVer.2」は、ディープラーニング(深層学習)技術を高度化することで、「異常走行車両の検知」では従来の機能に加え、渋滞や異常低速走行、立ち往生の検知も実現した。「通行量カウント」では車両は従来の普通車やバス、トラックなどの四輪車だけではなく、自動二輪車(バイク)の計測にも対応している。

OKI IoTプラットフォーム事業部IoTシステム部技術開発チーム チームマネージャー 渡辺 孝光 氏

OKI IoTプラットフォーム事業部IoTシステム部技術開発チーム サブチームリーダー 磯部 翔 氏

OKIはこのような技術をどう実現したのか? 今回はIoTプラットフォーム事業部IoTシステム部技術開発チーム チームマネージャー 渡辺 孝光 氏、同チーム サブチームリーダー 磯部 翔 氏に聞いた。

渋滞検知は撮影された車両の挙動から道路の混雑や渋滞を検出でき、確度が高いことが特徴だ。なぜOKIは確度が高い渋滞検知を実現できたのか? 磯部氏は「占有率を併用したところが1番のポイントだと思っています」と話す。

「もともと『AISION車両センシング』には、速度を測りたい場所に計測線を引いて、計測線を通過した車両の速度を測る機能があります。この機能を応用して、計測線を通過した複数の車両の平均速度を算出し、平均速度をもとに今、車両が渋滞しているかどうかを判断する機能をベースに採用しました。

ただ、平均速度だけで判定してしまうと、車両が完全に停止して計測線を通過しないような渋滞時には、平均速度が算出できません。そこで、今回は道路上の検出エリアに存在する車両の割合『車両占有率』も採用しています。

『車両占有率』を識別することで、車両が完全に停止していたり、1台だけのろのろ走っていたり、従来では拾えなかったような特殊な事例も拾えるようになりました」(同氏)

大規模な立ち往生を未然に防げる可能性

立ち往生の検出では雪道スタックや故障車など、車線で停車している車を検出できる。しかし、雪で車両が立ち往生している映像はなかなか簡単には手に入らないという課題があった。OKIはこの課題をどう乗り越えたのか?

磯部氏は「弊社では学習データを工夫することで、この課題を解決しました。晴れや曇りの映像をデータ拡張で、降雪や霧などの悪天候の画像を作り出してAIに学習させたのです」と背景を明かした。

「悪天候時に車両を追跡する際には、大雪が降るなどの天候の変化、夜間になるなど時間の変化も踏まえる必要があります。瞬間的に『この車両がスタックしている』と判断するのは難しいです。長時間の変化を捉えて、AIで判断をする仕組みも実現しました」(同氏)

また、本ソリューションは「通行量カウント」において、従来は四輪車の測定しかできなかったが、今回はバイクも同時検出可能になった。映像上ではバイクは四輪車と比べると小さく写ってしまうため、これまでは対応が難しかった。

磯部氏は今回のバージョンアップの背景について、「『AISION車両センシング』はディープラーニングのモデルを使っていますが、エッジデバイスを動かせるディープラーニングのモデルには一定の制約があります。今回はエッジデバイス上で高速で動かせ、映像に小さく写っていても高精度に検出できるモデルを選定しました」と話す。

さらに、今回は新たに道路の異常検出状況を監視センターの道路管理システムにすぐに通知できる外部連携APIも開発した。「AISION車両センシング」単体だけでも運用できるが、それに加えて既存のシステムと連携することで、高度な道路監視が実現できる可能性が広がった。

本ソリューションは、すでに検知システムを導入している高速道路などの主要な道路ではなく、現在はあまり監視できていない地方都市を結ぶ中山間部などにスポット的に設置できるというメリットがある。

渡辺氏は「今年の1月に北陸自動車道金津ICにおいて大雪でトレーラーがスリップしたことで、大規模な立ち往生したというニュースが報じられました。このスタックも監視の目が届きにくい場所で起きています。『AISION車両センシング』を導入することで、立ち往生をすぐに検知して対応することで、大規模な立ち往生は未然に防げるかもしれません」と、本ソリューションの可能性を語った。

コロナ禍には自治体の業務負荷が増加傾向に

三重県 公式サイト(11月15日現在)より

すでに「AISION車両センシング」は三重県で導入されている。新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の影響で、道路交通状況は平日の幹線道路での増加、土日の観光地での減少など、これまでにはない変化が起きた。

三重県内は本ソリューションを用いて計測し、公式サイトで主要道路で車の流れがどのように変化しているかを毎週知らせることで、コロナ禍における県民の行動の参考にしてもらうなどの取り組みを実施している。

コロナ禍には交通渋滞のみならず、多発する豪雨災害による道路の寸断、豪雪による大量の車両立ち往生など、道路の安全管理に携わる自治体や道路管理業者などの業務負荷は増加傾向にある。

従来、これらの業務には人手が不可欠だった。渡辺氏は「国土交通省が主体となり、道路交通センサス(全国道路・街路交通情勢調査の通称)が5年に1回実施されていますが、限られた期間の中でしか計測できていません」と、現在の問題点を語る。

「道路交通センサスは国や地方自治体が調査会社に委託して、調査会社がアルバイトの方を雇う形です。駅前や歩道橋で調査員の方がカチカチとカウントしているのを見たことがある方も多いと思います。『AISION車両センシング』を使うと、そのような労働力の確保が不要になります。

国道や県道にはすでに監視カメラを取り付けられた場所もあります。従来は監視カメラの映像を人の目で監視していましたが、常時監視できているかと言うと、なかなか難しいです。今回はAIを使うことで、すでに取り付けた監視カメラを有効活用し、常時監視を実現できるというメリットもあります」(同氏)

AISION全体として3カ年で100億円の売り上げを目指す

最後に、本ソリューションにおける今後の展望について聞いてみた。

渡辺氏は「もっと活用事例を増やしていきたいです。店舗前の交通状況を把握することで誘導員を配置したり、交通量を計測することで出店計画を立てる際のデータとして役立てるなどが考えられます」と話す。

「なかなか人のカウントでは時間も限られていますし、24時間計測するのは難しいです。AIは疲れることがないので、カウントをずっと続けられるところが利点だと思います。将来に向けて機能追加を引き続き検討して、活用できる範囲を広げていきたいです」(同氏)

現在、OKIは車両センシング以外のソリューションも検討しており、AISION全体として3カ年で100億円の売り上げを目指している。「AISION車両センシングVer 2」は道路の安全管理に携わる自治体や道路管理業者などをメインターゲットにしているものの、店舗をはじめさまざまな企業にも導入メリットがあるソリューションだと言えるだろう。