30年以上AI開発に取り組むOKIが語る「AIをより社会に浸透させるために必要なこと」

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ここ数年、「AI・人工知能」「デジタル化」「データ分析」などの必要性がさまざまな業種・業界で求められている。

昨今の“AIブーム”の流れもあり、多くの企業がAIソリューションを提供しているが、1980年代から取り組む企業がある。沖電気工業株式会社(以下、OKI)だ。

OKIでは1980年代ごろから、エキスパートシステムや自然言語処理技術などに研究開発部門が中心となり取り組んでいる。そこでLedge.ai編集部は、AI業界でも歴史のあるOKIならではの「AIとの向き合い方」について、OKIの須崎氏と島田氏に話を聞いた。

須崎氏

島田氏

OKIがエッジコンピューターに取り組むわけ

まず、AIに長年取り組んでいるOKIに対して「昨今の『AI活用』や『DX推進』を叫ばれる風潮についてどう思っているか」と聞いた。これに対し須崎氏は次のように答えた。

「今は世の中の多くのシステムは非常に複雑化しています。従来はルールベースだけで判断を下せるシーンも多くありましたが、システム構築や運用上のすべての課題を人の力だけで解決していくのが難しくなっています。

そこで、『AIを活用すれば、人だけでは難しかった複雑化する課題を解決できる可能性がある』といった期待から、AIやDXに注目が集まっているのだと考えています」(須崎氏)

また、島田氏は「社会課題でよく挙げられるのは労働力不足。AIを活用することで期待している点でも、この労働力不足の解消という要素が多いです。同時に、AIに求められるのはリアルタイム性や信頼性、そしてプライバシー保護が挙げられます。そのため、OKIでは従来のクラウド技術だけではなく、AIエッジコンピューティングに注目し、AIエッジコンピューター『AE2100』を提供しています」と話す。

OKIが提供するAIエッジコンピューター「AE2100」は、すでに交通や金融・流通、防災、製造、海洋など多様な業界で活用が期待されているAIエッジ製品だ。AI推論エンジンを汎用的に動作させられ、耐環境性に優れている点が最大の特徴。現場でリアルタイムな判断が要求される場合や、エッジ側で高速なAI処理が必要なケースなどで選ばれているという。

AE2100はエッジコンピューターといっても、学習自体は各社のクラウドサービスと連携して実施する。つまりは、クラウド上で作った学習済みモデルをデプロイしてAE2100上で推論を動かすようになっており、クラウドサービスとの連携機能も搭載している。さらには、カメラやセンサーからの多量なデータを高速で処理可能なAIアクセラレーターを搭載していたり、安全にAIやIoTを活用してもらうための高いセキュリティを保持していたりするのもポイントだ。そのため、組み込みやすく、さまざまな領域でAIエッジコンピューティングを実現させられるAIエッジ製品である。

「AE2100を活用したソリューションとしては、交通量調査、逆走・速度検出の自動化で活用いただける『AISION 車両センシング』を提供しています。

『AISION 車両センシング』は、道路や高速道路の料金所などで使われており、カメラで捉えた映像をAE2100で分析し可視化できます。ニュースなどでも『逆走による事故』などが取り上げられることもありますが、『AISION 車両センシング』は逆走を検知すると920MHz帯無線(SmartHop)を使用して離れた場所へ警報を通知する機能も備えています」(島田氏)

そのほかにもAE2100の活用の幅は広く、振動や音響といった波形データをもとに異常検知をされている製造業向けに、AIで取得した波形データをリアルタイムで解析し、異常傾向を知らせてくれるソリューション「ForeWave for AE2100」も提供している。

さらに島田氏は「工事・建設現場などでの事故を防ぐ目的とした可搬型エリア侵入監視システムも提供しています。これは立ち入り禁止エリアに作業員の方が入った際に警報を鳴らすソリューションです。

建設現場では立ち入り禁止エリアが工事の工程や進捗などによって変わります。そういった場合でも、エリアの設定を変更すれば、手軽に侵入を検知できるようになります」と紹介してくれた。

AIによる課題解決能力に期待してほしいが、過度な期待は禁物

AE2100のように、使い勝手の良いソリューションは、この数年で一気に増えてきている。だが、まだまだAIなどの先端技術の導入に踏み切れていない企業は少なくない。この状況について須崎氏は「課題を解決することを大前提に置き、手段のひとつとして『AIを使う』という選択肢を選んで欲しい」と話す。

「最近では、AE2100のようにAI製品を使った活用事例が増えてきています。労働力不足の解消など、これまででは解決が難しかった企業各社が抱える課題もAIで解決できるようになりました。

他社のAI活用事例などを見て、自社の課題の解決に役立てられそうなら、AIの導入に踏み切るのがこれからAIの導入を始めるうえでの一歩だと思います」(須崎氏)

また、島田氏は次のように話した。

「AIを活用するうえで企業様側が持っておいたほうがいいものは『AIリテラシー』ですね。AIにどれだけ任せられるのか、AIを使えばどのように自社をより良くできるのかを理解できる能力を備えていれば、AIの活用は非常にスムーズに進められます。そのためには、AIリテラシーを備えた人材の育成が重要です。

また、実際にAI導入を進めるときには、『課題抽出』『技術検討』『試験導入』『本格導入』といったフェーズを分けて考えるとよいと思います」(島田氏)

その一方で須崎氏は「AIはさまざまな課題を解決できますが、過度な期待は持たないほうがいい」という。

「これからAIを使う場合、『AIはなんでもできる』『AIを使えば課題をすべて解決してくれる』など、過度な期待は持たないほうが良いです。たしかに、AIはさまざまな課題を解決できる技術ですが、“失敗する可能性もあるから”です」(須崎氏)

須崎氏が話す「失敗する可能性」は、主に「AIを使うこと自体が目的となっている場合」に起こりやすいという。須崎氏が先に話したとおり課題を解決することを大前提に置き、AIを使うことを前面に押し出さないようにするべきだ。

そして「AIそのものへの投資も良いと思いますが、人への投資も必要です」と須崎氏は続ける。

「いま、多くの大学で学部問わずAIに関する授業が始まっていると聞いています。つまりは、今後会社に入ってくる若い世代の人たちは、一定水準のAIリテラシーを備えているわけです。そのときに、今いる管理者層がAIに対して理解がないと、将来的な事業運営でミスマッチが起きる可能性もあります。

ですので、これからAIを活用するシーンが増えてくることもあわせて、すでに会社で働いている人たちに対しても、AIのリテラシーを持たせられるような教育は今後重要になっていくでしょう。

AIの開発はベンダーに頼む場合がほとんどだと思いますが、運用するのは自分たちです。AIへのリテラシーや知識がある人材が社内にいれば、メンテナンス程度なら自社内で対応できます」(同氏)

AIを活用するうえで忘れてはいけないのは、使うのは導入する自分たち(=企業)であることだ。実際、大企業を中心に「AI人材教育」に取り組む話も増えてきている。これは、須崎氏が話したようにベンダーに丸投げするのではなく、しっかりとAIを知ったうえで使うべき、と判断した企業が増えたからだろう。

AIに求められるのは安心して安全に使えるかどうか

そして須崎氏からは「(AE2100などAI商品を提供する側として)OKIでは『OKIグループAI原則』を制定している」と聞いた。

「世界的にも、AIに『安全』『安心』が求められています。セキュリティ的な話はもちろんですが、AIによる判断の透明性など、倫理的な部分につながる話です。

OKIグループAI原則では、『どのように品質管理をするのか』『お客様との契約形態の内容』などを決めるうえでの指針を定めています。AIに関するさまざまなサービスを提供するOKIとして、安心安全にOKIのAIを使ってもらうことを目的に制定しました」

AIによるバイアス問題は世界的にも取り上げられているトピックだ。それこそ、人に代わって働くAIにもかかわらず、そのAIが出した判断が不透明だと安心して使うこともできない。

AI自体に安心・安全を求めることは当然になりつつも、今後はAIサービスを提供する企業への透明性を一層求める時代になりそうだ。この点でも、“原則”を公表しているOKIへの信頼が厚いのも頷ける。

取材の最後に、OKIとして今後AI事業をどのように展開していくのかを聞いた。

「OKI全体としてはATMやプリンターといったデバイスを作っているメーカーとしての色が濃いです。そのためよりお客様の現場に近い領域――つまりは、エッジに着目して、IoT製品を軸にしたAIソリューションを、OKIだけでなく多くのパートナー様と連携して提供することでさまざまな社会課題を解決することが、OKIのAI事業として今後も狙っていくことです。」(島田氏)

「OKIの社内でもAIリテラシーを全社員に持たせる、ということを目的に、リテラシー教育を7000人以上の社員が受けています。そして、実践力のあるAI人材を増やすために、中央大学様と提携したAI人材育成の取り組みも始めています。

これら最終的な部分にあるのは、社会課題を本当に解決できる人材の育成です。OKIが目指す社会課題の解決のために、人と製品どちらにも注力していきます」(須崎氏)