オムロンが2つのAI技術を新たに発表。「欠陥抽出」と「機械学習モデル統合」

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オムロンは11月13日記者発表会を開催し、新たなAI技術を2つ発表した。外見検査における欠陥抽出AIと、異なる場所に存在するデータを集約することなく、機械学習モデルの統合によってAIの性能を高める技術だ。

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人の感性・熟練者の経験を再現した欠陥抽出AI

外観検査については、熟練の検査員の検査手法を再現した欠陥抽出AIと、これらを既存の画像処理システムに搭載できるシステムを開発した。オムロンが30年以上にわたって外観検査の現場で培った検査内容に対する知見と画像処理技術により、手持ちの画像データから学習すべき画像を自動判断。誰でも数分で最適な学習を実現するという。

AIモデルの軽量化も実現し、通常のPCのような限られた計算リソースの中でも作動できるため、専門知識持ったエンジニアがいなくともAI開発が可能という。

▲欠陥抽出AIの活用事例。出典:オムロンプレスリリースより

開発背景として、近年の熟練技能者の不足や人件費の高騰が深刻化しており、製造業では属人化していた搬送、組立、検査工程などの自動化が急務となっていいることが挙げられる。

製品の外観検査では、さまざまな色や大きさのキズの判別や、良品自体が大きくばらつく場合の欠陥品の判定など、経験豊富な熟練技能者の感性と経験が必要となる。

そのため、人と同じように対象物の特徴を認識でき、判断基準を自動で学習できるAIに期待が高まっている。しかし、実用化においては以下のような課題があるため、導入が進んでいないのが現状だ。

  • 膨大な画像データを用意し学習させる必要
  • AIエンジニアの確保と特別なAIハードウェアを現場に設置する必要
――竹川肇氏(オムロン株式会社 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 商品事業本部 センサ事業部 第2開発部 部長)
「画像処理システムの性能を引き出すにも、良品と不良品を見分けるしきい値をどこに置くかなどのエンジニアリング力が必要とされるため、AI導入後も職人芸によって省人化が進んでいない現状がある」

本システムはオムロンの画像処理システム「FHシリーズ」に搭載され、2020年春に発売予定。価格や提供形態などはまだ未定だという。また、認識できる品目は金属部品など、現状限られた品目のみで、今後さらに品目を増やしていくという。

異なる場所にあるデータを集約せずにモデルの性能を高める「Decentralized X」

次に発表された非集中学習技術は、AIの学習に必要なデータを1箇所に集約せず、機械学習モデルの統合によってAIの性能を高める「Decentralized X」という技術だ。Googleの「Federated Learning」と近いかもしれない。

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AIの高性能化には、十分な量のデータを一か所に集約し、学習させることが必要だ。しかし、さまざまな場所に偏在しているデータを入手・統合するためには多大なコストや工数が必要となる。加えて、営業秘密やプライバシーなどの制約により十分な量のデータを確保できないなどの課題もある。

――米谷竜氏(オムロン サイニックエックス株式会社 シニアリサーチャー)
「AIのインテリジェントな処理は、処理が複雑になるほど必要なデータも増える。そのためデータを収集し統合する必要があるが、多くの事業会社では統合されていないのでそこに着目した」

また機械学習モデルにはさまざまな構造があり、異なる機械学習モデル同士をその特性を損なわずに統合することはこれまで技術的に困難だった。

Decentralized Xは、さまざまな現場で学習したAIの機械学習モデル同士を統合することによって、AIの性能を高める。異なる機械学習モデルでも統合可能な独自のアルゴリズムを開発し、すべてのデータを集約して機械学習を行った場合と同等性能のAIを開発できるという。

▲「Decentralized X」の仕組み。出典:オムロンプレスリリースより

「Decentralized X」技術の主な特長

  • 個々のプレーヤーがデータを少しずつ所有している非集中条件下においても、データを集約して機械学習を行った場合と同等性能のAIを構築可能
    事業者が十分な量のデータを持たない場合など、これまでAIの導入効果が上がらなかった領域で、よりAIを活用しやすい環境を提供。データではなく、機械学習モデルを持ち寄ることで通信コストを低減可能

  • AIのアーキテクチャーを限定せず、非集中条件下で学習可能
    機械学習モデルの全パラメータを共有するわけではないので、アーキテクチャーを限定することなく学習でき、たとえば処理速度を優先した軽量モデルなど、それぞれのAIの個性を維持できる

  • 学習時に個々の事業者がお互いにデータを公開することなく、秘匿性を高めることが可能
    ほかの事業者に公開できないデータを扱う場合にも、「Decentralized X」とセキュリティ・プライバシー保護技術を組み合わせることで、秘匿性の高い状態でAIを構築できる

ビッグデータを収集できる巨大プラットフォームを持たない中小企業でも、各々の機械学習モデルを持ち寄って統合することで、各事業者のAIの性能を高め、AIによる現場課題の解決を加速することが可能になるという。

▲「Decentralized X」を使った課題解決の例

また、製造業の品質情報や医療現場のバイタルデータなど、秘匿性が高いデータを公開せずに、各事業者のAIの性能を高めるようなコラボレーションが実現しやすくなる。

現在はDecentralized Xを活用するパートナーを募集中で、パートナーが見つかり次第、技術検証のフェーズに移行していくという。