AIが「農薬離れ」を加速する。農業のスペシャリストが新時代への戦略を語る

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農薬の使用について、大きな議論が巻き起こっています。2018年8月、サンフランシスコの裁判所の陪審は、除草剤でがんになったと主張する原告男性に損害賠償を支払うよう、農薬大手モンサントに命じました。農薬の発がん性を認めた過去に例のない評決です。

評決の影響や消費者に与える安心感から、農業界では、脱農薬の動きが進んでいます。農薬散布を必要最低限に抑えるため、AIとドローンで作物を栽培する「ピンポイント農薬散布テクノロジー」も導入が活発化しています。

農薬散布必要なしとAIが判断

2019年2月25日、ピンポイント農薬散布テクノロジーで栽培された「スマート米」の試食会が、東京都内で開催されました。

「スマート米」および「スマート玄米」の栽培には、農業AIの実用化を推進する株式会社オプティムピンポイント農薬散布テクノロジーが使われています。ピンポイント農薬散布テクノロジーとは、ドローンで圃場の様子を撮影し、撮影した画像から病害虫を検知、必要な箇所だけドローンで農薬散布する技術のことです。

通常、農薬を減らすには除草作業を人手でおこなったり、害虫をピンセットで1匹づつ潰したりと、相当な手間がかかります。ドローンで病害虫を検知できれば、手間をかけずとも、必要最低限の農薬散布が簡単に実現します

また、従来は病害虫が発生した際、”念のため”圃場全体に農薬散布していましたが、小回りの効くドローンを活用すれば、AIが指定した箇所だけの散布が可能になります。

オプティムがピンポイント農薬散布テクノロジーを用いた2018年は、AIが農薬散布の必要なしと判断しました。毎年大きな被害をもたらす害虫「ウンカ」がほとんど出なかったためです。分析結果に半信半疑だった生産者もいたといいますが、AIの判断は的中し、オプティムが削減対象とした農薬は不使用で収穫を迎えています。食品中に残留した農薬についても不検出という結果で、AIを活用した減農薬栽培を推進するための大きな一歩となりました。

生産者に寄り添う新ビジネスモデル

オプティムがAIによる減農薬栽培を推進するなかで興味深いのは、そのビジネスモデルです。オプティムのビジネスモデルは、AI導入の経済的リスクが少なく、一方で大きなリターンも期待できる、生産者に寄り添った仕組みとなっています。


オプティムのドローンとAI分析システムは、オプティムの「スマート農業アライアンス」に参加しており、一定の基準を満たした生産者へ無償で提供されます。また、ピンポイント農薬散布テクノロジーで栽培された米は、オプティムが市場価格で買取ります。収穫した分の収入が保証されるため、生産者は販路の心配をする必要がなく、生産に集中できます。オプティムは「スマート米」として付加価値をつけて消費者へ販売した利益から、販売手数料を収入として得る仕組みとなっています。

ピンポイント農薬散布テクノロジーが生産者にもたらす経済的な利点は、主に2つです。

農薬代と人件費の削減

農薬の散布回数や散布量が減れば当然、散布にかかる農薬代や人件費は減ります。そのため、ほかの販路で販売するときと同様にオプティムへ売っても、生産者が得られる利益は増えるのです。

また、「スマート枝豆」の栽培では、動力散布機による人手での農薬散布と比較し、散布作業時間が約30%削減できたとのこと。ピンポイントの散布で農薬使用量と人件費を同時に削減できます。

付加価値分のレベニューシェア

生産者から買い取ったピンポイント農薬散布テクノロジーで栽培された米を、オプティムは減農薬栽培米「スマート米」として、付加価値をつけて販売します。そこで得られた利益から、経費や販売手数料を差し引いたのち、生産者へも利益が還元される予定です。


※取材した内容を元に編集部で作成

2018年の「スマート米」は販売がまだ始まったばかりで、生産者に利益を還元できるかどうかは、消費者の反応次第です。レベニューシェアがあり、コストも削減できるとの口コミが米生産者の間で広がれば、全国の米生産者へピンポイント農薬散布が普及することが期待されます。

人手をかけずに売上を拡大する

ピンポイント農薬散布テクノロジー開発の裏側のストーリーをオプティムの休坂 健志氏、中村氏に聞きました。

休坂 健志(写真左)
株式会社オプティム
執行役員 インダストリー事業本部


中村(写真右)
株式会社オプティム
プラットフォーム事業本部
R&Dチーム リーダー

生産者がこのプロジェクトに参加する理由は、

  • 農薬の散布量を減らしたい
  • 耕作放棄地を増やしたくない
  • 利益を増やし、経営状況を改善したい

など、生産者ごとの経営方針によりさまざまだといいます。そのなかで共通しているのは、売上げを増やしたいとの希望だそう。

――休坂
「人材不足が深刻化する中、ピンポイント農薬散布テクノロジーを活用すれば、人手をかけずとも今までと同じ生産物のクオリティーや収穫量を担保できます。さらに、コスト削減やレベニューシェアにより、生産者はより多くの利益を得られます」

重労働のわりに儲からないというイメージを持たれがちな農業。AIとドローンを活用することで、作業負担の軽減と収入の増加を同時に実現しようとしています。

「ドローン×AI」を栽培技術として確立したい

生産者からすれば、メリットの多いピンポイント農薬散布テクノロジーですが、その裏には開発の苦労があったと言います。

――中村
「屋外で、しかも自然を相手にするので、安定した条件下でのデータ収集ができません。天候や日光の当たり方、品種によってもドローンから撮影する圃場の様子は変わります。考慮すべきパラメーターが多く、KPI策定が非常に難しいです
――休坂
「ドローンで圃場を空撮し、病害虫を検知するのは、過去に例が少ない取り組みです。なので、AI開発の命である教師データを1から集めるのが大変でしたね。恐らく弊社は、田んぼの空撮画像を日本一持っているのではないかと思うくらい、地道にデータを集めました(笑)」

農業分野でもデジタルトランスフォーメーションが進んでいます。これまで取得していなかったリアルな現場のデータを蓄積することで、病害虫の検知や農薬散布以外にも、AI活用が広がりそうです。

――中村
「植物のことをよく知っているからこそ、さまざまな環境下で取った画像データをどう理解すればよいのかわかります。AIにこだわりがある訳ではなく、1つの栽培技術としてAIを利用しています

農業技術に詳しい農学部出身者が社員にも多いことも、オプティムの強みだといいます。効果的なAI活用には、AIの知識だけでなく、各業界への深い理解が必須です。

ピンポイント農薬散布テクノロジーで、大変な手間をかけない減農薬米栽培が実現しようとしています。全国の米生産者にこの技術が広まるのも、時間の問題ではないでしょうか。「ドローン×AI」が新しい栽培技術として確立されつつあります。